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2019.11.06 [イベントレポート]
「自分が差別を受けていない立場で、差別の場面に遭遇したら、状況を活かして力を発揮できると思います。」11/4(月・祝):Q&A『約束の地のかなた』

約束の地のかなた

©2019 TIFF 11/2のQ&Aに登壇した際のヴィクトル・リンドグレーン監督(右)、テレース・ヘーグベリ プロデューサー(左)

 
11/4(月・祝)ユース『約束の地のかなた』の上映後、Q&Aが行われ、ヴィクトル・リンドグレーン監督、テレース・ヘーグベリさん(プロデューサー)が登壇しました。
⇒作品詳細
 
テレース・ヘーグベリさん:本当にこんなに多くの方に観ていただけた、この映画に興味を持ってくれる人がいるのかなと思っていたところもあるので(笑)、本当にうれしいです。皆さんからの質問に何でも答えたいと思います。
 
Q:主演の2人について。
 
ヴィクトル・リンドグレーン監督(以下:監督):まずこの映画の肝となるのは主役の2人を探すというところでした。見つかるかということで、実はキャスティングに1年以上もの長い時間を要したんです。それぞれ役を演じてくれる2人を見つけ出すことが出来て、本当にこの映画は撮るべきだという気持ちなりました。そして確かに2人の実際の人生がキャラクターに似ている部分があります。この2人であればこの役柄に息吹を与えることができると感じました。まずエーリン・マークルンドですが、彼女はスウェーデン北部の小さい田舎のエリアの出身なのですが、若い時から摂食障害ということと、少し精神的な疾患というものを抱えていました。だけれどもその過去を伝えて、私や映画を観てくれる人たちと共有したいという気持ちを持っていました。ですから彼女の勇気、例えば自分の持っている傷を見せる、自分に正直であるという、彼女は本当にこの映画に重要な人物でした。そしてサビーナを演じてくれたアンドレア・ペートレは、ルーマニアの首都ブカレストの出身です。彼女によると、スラム、ゲットーのようなところで育ったと言っていました。以前に彼女はあるドキュメンタリーの対象となったのです。彼女と兄弟たちが出た『トト・アンド・シスター Toto si surorile lui』(2014年制作)というとてもすばらしい映画で、みなさんも機会があったら観ていただきたいドキュメンタリーなのですが、実は彼女の母親が刑務所に入り、父親もいないということで、本当に道に放り出されたような形だったのです。この作品を観て、このアンドレアにサビーナを演じてもらいたいと思って、私はブカレストに向かいました。演技経験はもちろんないのですが、話をしたら彼女は「この映画に出る」と言ってくれました。
 
Q:完全にオリジナルとして作ったのかということが知りたいです。
 
監督:この作品は私のオリジナルで手掛けたものなのですが、まずいまスウェーデンでは非常にナショナリスト、愛国的な党が政治的にも台頭していて、それによって恐怖心があおられている。そうなるとどこに行きつくかというと、やはりレイシズム、人種差別的な感情が生まれてくる、そこですね、私がこの脚本を書きたいと思ったのは。ですから想像の源はフラストレーションだといえます。
 
Q:サビーナがお母さんに電話をするマネをするシーン、お兄さんの「ローマは世界が自分たちの家だ」というセリフが印象的でした。
 
監督:サビーナはですね、母親に自分の想像で電話をかけるとき、必要な時にお母さんは居てくれなかったよね、という気持ちでしています。だから、お母さんが必要な、まだ子供だった時に母のいない環境で一人で成長する。そして早く大人にならなくてはいけなかった。そういう不安定なものを抱えているわけですよね。だから、母親を責めるような発言(セリフ)があったと思います。自分の中から出てきたんでしょう。そして、兄たち。彼らの在り方は本当に勇気のある強い意志を感じますが、実はこの映画を撮った時にローマのコミュニティの人たちにも撮影に協力してもらっている中でぜひこのセリフを入れてほしいというコメントがあって採用したんです。つまり、歴史上今まで迫害されたり、住むところがなかったりした。けれども、逆に言えば世界中どこでも住めるんだよ、ということをぜひ入れてほしいという。逆に、そういうセリフを入れることによって自分の気持ちを強く持つということにも繋がると思うんですね。
 
Q:移民問題というのがこの作品の大きなテーマの一つになっていると思うのですが、プロデューサーとしてどう思いましたか。
 
テレース・ヘーグベリさん:スウェーデンにおいては、この問題は敏感にならなくてはいけないテーマ、というわけではないです。スウェーデンでは、タブーはなく、テーマを選ばずどんな映画でも撮ることができます。それはとてもいいことですが、映画を創る者として私たちが気を付けなければならなかったことは、私たちはローマやルーマニアの人に関して知識や経験がないので、常にローマの人たちや、ローマにいるルーマニアの人を助けるような支援団体だったり、スウェーデン国内のルーマニア人コミュニティにいる方々に現場に長時間、必ずいてもらって脚本を見てもらっていました。そして完成後に、こういった団体の方々に映画を観てもらって、フィードバックをもらいました。そうしたら、これからの何らかのローマに関する理解を得るための活動の中でこの映像を使うかもしれない、とおっしゃってくださいました。ですから、願わくば作品が何らかの社会、とりわけ政治的な傾向を変えることに役立ってくれればと思っています。
 
Q:最後、本当について行ってしまったのでしょうか。
 
監督:質問ありがとうございます。どうでしょうかね。私はこの美しく全てが機能しているなんでもあるという国から、スウェーデンから、どこか何か他の大きなもの、友人との繋がりかもしれない。それを彼女はより大切なものとして去ったという設定なのですが、実はこの映画のスウェーデン語というのが、“Till drömmarnas land”「夢の国に向かって」というものになっているんです。つまりルーマニアというあまり状況がよくなさそうなところでスウェーデンから行くという逆の行為が自分としてはいいなと。ただ実際に現実的な話をするならばデンマークぐらい、国境までしか行けないかもしれません。15歳の少女が2人のルーマニア人の男性もいるという旅の状況で国境を越えられるかということは分からないのですが、ファンタジーな部分を僕は持っていたかったんです。
 
Q:スーパーマーケットで主人公が「出て行け」といわれたシーンがショックでした。こういう人種差別の現場を目撃したときというのはどうしたらいいですか。私にできることはないかなと。
 
監督:いい質問をありがとうございます。確かにこれはしょっちゅう起こるということではなくて、スーパーから出て行ってくださいと言われるのは極端な例だと思います。だけれどもこれは実際に私の友人に起きたことなんです。ローマの人たちがスーパーにいるときに何をしているかというと、見えるところに手を置いているんです。つまり、ローマの人たちは盗みを働くという先入観があるので。これを聞いた時に私は気持ちが非常に揺れたんですけど、そういうふうに自己防衛をしているわけなんですね。だから何ができるのか、もしこういう場面に出くわしたのならば、「何を言っているんだ」と介入して声を上げる。自分が差別を受けていない立場であれば、それを活かして自分がそこで力を発揮できると思うんですね。でもやっぱり被害を受けている人の側に立つ、例えば地下鉄でそういった人、暴言を吐かれている人を見かけたならば、その人の隣に座って団結するというか、連帯を示すことができることではないかと思います。
 
司会:最後にお2人から。
 
テレース・ヘーグベリさん:この映画を作るのは容易ではなかったですし、監督のデビュー作ということもあって、色々経て、このように一緒に旅に出て、映画祭でも上映というチャンスをもらって、皆さんからの反応を聞くことができると同時に、スウェーデンを別の視点から見るというのが、他の国と似ている部分もあれば、違う部分もあるということを見ていただけるというのは非常に嬉しい経験です。
 
監督:とても嬉しい気持ちです。とてもいい質問を皆さんにもらえて、この映画をご覧くださったことをとても嬉しく思います。東京で一番おいしいハンバーガーを食べたいなと思っているところなので、おすすめがあったら是非教えてください。

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