11/4(月・祝)コンペティション『列車旅行のすすめ』の上映後、Q&Aが行われ、原作者のアントニオ・オレフドさん、共同プロデューサーを務めたティム・ベルダさんが登壇しました。
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矢田部吉彦PD(以下:矢田部PD):この作品は数日後にスペインでの公開が迫っておりまして、地元の公開キャンペーンで監督は急遽帰国されました。本日は原作者、そしてプロデューサーをお迎えしましてQ&Aを行ってまいりたいと思います。
アントニオ・オレフドさん(以下:アントニオ):皆様本日はご来場いただきまして本当にありがとうございます。今回は監督の代理といいますか、今日Q&Aセッションに参加させていただきますが、というのも先ほど矢田部さんが申し上げた通り2日後にスペインでのこの映画の公開を控えておりまして、監督もご一緒にと、なりませんでした。皆さんお楽しみいただけましたでしょうか。この作品、私も一観客としてこの作品を観たのですが非常に私も楽しい思いで観させていただきました。
矢田部PD:ありがとうございます。そして製作サイドから監督を代弁してということになると思うんですけれども、ティムさんお願いいたします。
ティム・ベルダさん(以下:ティム):(日本語で)どうぞよろしく。私たちは東京フィルムフェスティバル大好きです。(会場拍手)(日本語で)ありがとう。(ここから英語で)その監督とは昨日までご一緒していたんですけれども、映画をご覧いただいてわかる通り日本の要素もいれているので日本へ来られて大変うれしい思いであります。ありがとうございます。
矢田部PD:まずは映画がどのぐらい原作に忠実なのだろうかということと、原作者の方この作品をご覧になってどう思われたのかというのをお伺いできますか。
アントニオ:小説を脚色して映画化するにあたっては、映画は小説の一言一句を書き起こしたものではないと思うんです。どちらかというとそのオリジナルの原作のスピリットといいますか精神だとか世界観を体現したものでなければならないと思っているので、キャラクターをすべて再現する、あるいはその小説の中のダイアログをすべて再現する。一つ一つのシーンをすべて再現するっていう手法には賛成いたしません。そういう意味で、この映画は非常によく脚色された映画だと思っていて、というのは、この小説に流れる精神性ですとか世界観、この狂った感じがうまくスクリーンで再現できているので、初めて観たときに大変感銘を受けました。そういう意味で非常に良い脚色だったのではないかと思っております。
矢田部PD:ありがとうございます。ティムさんは共同プロデューサーとしてですね、この映画にどのような形で参加されたのか教えて頂けますか。
ティム:私は今回はスペインで一番活躍している一人のプロデューサーさんからお声をかけて頂きまして、この脚本を読みました。非常に秀逸な脚本を映画化するのはどうだろう、というお話をいただきました。実は最初はそのアリツ・モレノ監督を起用するのにはいささか不安があったんですが、今回が監督の初長編だったからです。我々としては一種の賭けだったんですが、アリツ監督は色々な短編を撮っている監督なんです。この監督の短編を多数観ました。何回も何回も観ていきました。監督の短編はですね、色々な世界各国の国際映画祭にかかっているような素晴らしい作品なんですけれども、作品によっては10回観たりとかしましたね。非常にそのシーンのセットアップとかがとても上手な監督だと感じて、かつ今回はスペインきっての役者陣をそろえることができたので、これは企画としてうまく成り立つだろうな、うまくいくだろうという風に私も説得されまして、今回はスペインとフランスの合作なのですが、このようにして素晴らしいアドベンチャーに乗り出したわけです。
矢田部PD:異色感があるパリのエピソードはフランスがプロジェクトに入っているからあるのか、それとも原作からあったのか。簡単に教えてください。
アントニオ:パリ、フランスのシーンは小説の中にあるのですが、なにせこの原作を僕が書いたのは二十年前ですので細かいことについて聞かれると案外覚えていなかったりするんですね(笑)。小説の中にとあるキャラクターが出てきて、この男性がパリに行くってくだりは書いた覚えがあります。
ティム:エッフェル塔が舞台、背景にありますけれど、実は脚本の初稿の段階では、ノートルダム寺院が舞台だったはずなんです。ちょうど撮影中にあの火事が起きて途中からエッフェル塔に舞台を変えることにしました。
Q:結果としてアンチリアリズムになったのか、それともアンチリアリズムということで材料を探していて集めてきたのかということを原作者におうかがいしたいです。
アントニオ:あらかじめお断りさせていただくと、先ほどに申し上げたように大昔に書いた小説で、それ以来私自身も読み返していないのでちょっと的を外しながらお話しなければならないのですが…まず、この小説を書く際に二つのテーマを描こうと思いました。二つのテーマを扱っています。一つは、人は小説つまりフィクションを読むときに読者の脳内でなにが起こるのか、フィクションとリアリティの関係性はなんなのかということです。これは、世界各国の文学でもテーマになっていますし、スペインの文学においてもテーマになっています。それこそ、ドン・キホーテがありますけれど、やはりリアリティとノンフィクションを問う小説であるわけで、そのキャラクターがリアリティもフィクションも判別出来なくなるそういった状態に陥った時どうなるのか。そういう問いを呈してるわけですね。己とは何なのかということを呈して書いたつもりです。
人は自我ですとか自分というものは、人というのは私と語った時点で自分についての物語を作り、語るわけですよね。そして、他人が自分についての話を語る時、これがすなわち己になると思うのですが、これに対してあえてリアリティなのか果たしてリアリティとはなんなのか。リアリティは実在しないものというつもりはありません。あるものですし、そこから苦悩等々があるものだと思いますけれど、一つ言えることはリアリティというのは我々が言語によって、我々の中の想像力によって言葉でもって構築していくものなんだということをこの小説で書いているつもりです。
Q:女性のエルガというキャラクターについて。
ティム:読者と作者の関係を汽車の中で描いているつもりなのですが、なぜあえて女性にあのキャラクターを設定したのかというとスペインでは女性の方が読書をするからなんですね。ですので女性に設定しました。あの列車のシーンでは、作者と読者の関係を描いているつもりです。これは、小説の中でも描かれています。読者が女性の方が多いわけですから、やはり読んだ話を信じてしまうというのをキャラクターで表現しようとしました。我々は、読んだもの、見聞きしたものを信じるものだけではなく、たちまちリアルとフィクションの判別がつかなくなってしまうという状態にしばしば陥るのだと思います。これは、文学だけではなく映画を観てもそうだと思うんですけどそういったことの縮図を描いたつもりでありました。
Q:撮影現場の様子を教えてください。
ティム:現場での様子ですが、アリツ監督がこれを「やりましょう」というと、キャストは「はい」と淡々と撮影が進んでいきました。名優揃いですので、主人公を演じたルイス・トサールさんはハビエル・バルデムさんに続く有名な役者さんなんですね。犬を飼っていた男性もスペインで大人気の役者さんで、テレビの色々な作品に出演されていて、今は若い女の子たちの間で人気絶大の役者さんです。そういうプロの役者さんですから、「OK、OK」と監督の言う通りに動いていたそうです。でもそこから伺えるのは、監督は映画を作るうえでの、監督としての才能だけがあるわけではなく、役者に対する演出においても、物凄く才能があるなと思います。
Q:特異なキャラクターを作ったのは監督か、原作者さんか。原作とは全く違う部分があれば教えてください。
アントニオ:私はいい脚色というのは、原作者は関与してはいけないと思っているんです。やはり自分の情熱を注いで作った作品ですから、これに対する中立性はあり得ないわけなので、あくまでも小説を客観視できる人が脚色を手掛けるべきだと。ですので、あえて私はこの脚色のプロセスには参加しませんでした。これはどの映画でも言えることで、これが正しいプロセスだと私は思っています。もちろん映画製作者の皆様とはずっと連絡は取りあっていましたし、脚本を初めて読んだ時もなるほど、このチャプターは削除したのねとか、このキャラクターは入れなかったのねとか、シチュエーションはこう変わっているんだとか色々なところに気づいたわけですけど、それは致し方ないことで、むしろそうするべきだと思っていて、やはり文字から画に再創造するわけですから、そういう場合は先程言ったように、小説をそのまま映像にしてもしょうがないわけです。一番大切なのは小説の世界観をキャプチャーすることだと思うわけです。そもそも映画と小説の文法は違うわけで、映画は映画の文法、小説は小説の文法とありますので。僕は小説を書く時には小説の構造を意識して書いている一方で脚本家というものは映画のイメージの文法に乗っ取って書いているわけですので、やはり一緒に作業してはいけないんじゃないかなと思っております。
ティム:これに一言付け加えさせていただきますが、今作は素晴らしい原作者のアントニオ・オレフドさんと、素晴らしい監督のアリツ・モレノさんの作品のわけですけど、脚本の話があったので付け加えさせていただきます。優秀な脚本家のハビエル・グヨンさんですが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『複製された男』(13)という作品を手掛けた脚本家でいらっしゃいます。
矢田部PD:ありがとうございます。観客の皆さんがこの作品を気に入り、熱が溢れたQ&Aになったと監督にお伝えください。