Close
2019.11.05 [インタビュー]
コンペティション『わたしの叔父さん』公式インタビュー

自分の生まれ育った素晴らしい生活風景を映画にしたかった
わたしの叔父さん
わたしの叔父さん

© 2019 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2019年10月29日
フラレ・ピーダセン(監督/脚本/撮影/編集)
イェデ・スナゴー(女優)
マーコ・ロランセン(プロデューサー)

 
27才の女性クリスは、体に障害を抱える叔父さんとふたり暮らし。家業の酪農を手伝いながら、叔父の面倒を見ていたある日、かつて抱いていた将来の夢や恋愛に思いを馳せる。──叔父と姪の情愛をしみじみ描いて、笑いと涙を誘った一作。
若い女性の人生の選択という現代的なテーマを盛りこんで、洗練された映像スタイルで酪農家の生活を切り取っているところに、才能が感じられる。
来日したピーダセン監督と、クリスを演じたイェデさん、製作者のマーコさんにお話を伺った。
 
──昨日のワールド・プレミア上映は反響がありましたね。
フラレ・ピーダセン監督(以下、ピーダセン監督):音を入れる前の編集段階で一度通して観たことがあって、このとき自分で感動したのはワンシーンだけでした。昨日の上映では、観客のクスクス笑いやすすり泣く声が聞こえてきて、その相乗効果なのか、6つか7つのシーンで感動できました。デンマーク人も日本人も感じるところは一緒なんだと実感しました。
 
――ユトランド地方の素朴な美しい風景が印象に残ります。
ピーダセン監督:私はこの地方の南部で生まれ育ち、母方の親族も酪農家でしたから、この素晴らしい文化をぜひ映画にしたいと思っていました。前作のHendlivWhere Have All the Good Men Gone)(16/日本未公開)も同じ農場で撮影しましたが、これは酪農とは別の話だったので今回撮れるのが嬉しくて、イェデさんの叔父さん(実際に、叔父さん役を演じているペーダ・ハンセン・テューセンさん)の農場に滞在しながらストーリーを考えました。
わたしの叔父さん
 
──イェデさんは監督の前作に端役で出演して、今回が映画初主演となりますね。
イェデ・スナゴー(以下、スナゴー):演じる相手が実の叔父さんですから、リラックスして演技できました。朝食を食べるシーンのような日常の繰り返しはうまく演じられたと思います。
キャラクター的には、叔父の世話をするうちに自分の夢を忘れてしまった女性なので、最初は無表情で演じ、獣医のヨハネスや合唱団のマイクと出会ってからは、開放的な表情も若干出すように務めました。
わたしの叔父さん
 
──クリスは時に大胆な行動を見せますね。一見、周囲に無関心なようでいて、あっといわせる行動に出て、相手を受け入れたり拒絶したりします。
スナゴー:監督がクリスという複雑なキャラクターを創造してくれたことに、わたしは本当に感謝しています。クリスは両親を亡くすなど、色々な不幸を経験しています。それが彼女の強さでもあれば、弱さでもあって、何年も農場で叔父さんの介護に専念してきたため、社会との関わり方がわからなくなってしまっているんです。それで、叔父さん以外の人に対しては、受け入れるにしても拒絶するにしても、大胆な行動に出てしまうんです。
 
──叔父さん役のペーダさんもいい味を出していますね。
マーコ・ロハンセン(以下、ロハンセン):大所帯のクルーで撮影に行ったらさぞ緊張したでしょうけど、そうしなかったのがよかったのでしょうね(笑)。
わたしの叔父さん
 
──イェデさんとペーターさんへの演技指導は?
ピーダセン監督:イェデさんにはもう少し長く見つめてとか、終わったら視線を落としてといった、指示というか、微調整を行いました。ペーターさんは役者ではないので、あえて演技指導はしませんでした。
 
──ほぼフィックスで撮影していて、セリフも少ないのに、叔父と姪の絆が徐々に伝わってくるのがマジカルです。
ピーダセン監督:台所の隅からふたりを覗いているように見せたくて、カメラはワンシーン以外すべてフィックスにしました。朝食のシーンなどは、ふつうならパンにチョコレートを塗ってさっと食べて終わってしまいますが、カメラを固定してゆっくり撮ることで、観客にふたりに親しみを感じてもらえるように配慮しました。
 
──淡々とした日常を描きながらも決して飽きさせないところに、監督の才能を感じます。
ピーダセン監督:映像的には、クローズアップを使う代わりにマスターショット(*1)を多用しています。映画は本来大きなスクリーンで観るものですし、マスターショットの中でも登場人物ははっきり見えますから。
 
──ギャグやカット割り、テンポに小津安二郎の影響を感じるのですが?
ピーダセン監督:小津は本当にたくさんの監督に大きな影響を与えた人です。ギャグもそうですが、私はストーリーを語るスタイルに、ものすごく影響を受けています。マスターショットの使い方ひとつを取ってもそうで、ワイドで撮って、映るすべてのものを使って表現するのが本来あるべき映画であることを、小津作品から学びました。
ちなみにローアングルのショットを、デンマークでは「オヅ・ショット」と言うのですよ(笑)。『東京物語』とか、家族の感情の移り変わりを描いている面でも、非常に影響を受けています。
わたしの叔父さん
 
──マーコさんは製作者として、本作をどう見つめてきましたか?
ロランセン:脚本が素晴らしかったので、絶対にいい作品になると確信していました。ピーダセン監督が日本映画を手がけたら、こうなるんじゃないかという。家族という題材もそうですが、題材にふさわしいペースで、上出来な作品になると信じていました。
 
(*1)シーンの全体を記録したショット
 
インタビュー/構成:赤塚成人(四月社/「CROSSCUT ASIA」冊子編集)
 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
わたしの叔父さん
わたしの叔父さん
© 2019 88miles

監督:フラレ・ピーダセン
キャスト:イェデ・スナゴー、ペーダ・ハンセン・テューセン、オーレ・キャスパセン

オフィシャルパートナー