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2019.11.04 [イベントレポート]
「インパクトを持ってこの物語を伝えることが重要だったのでホラーの形をとりました。」11/3(日):Q&A『ラ・ヨローナ伝説』

ラ・ヨローナ伝説

©2019 TIFF

 
11/3(日)コンペティション『ラ・ヨローナ伝説』の上映後、Q&Aが行われ、ハイロ・ブスタマンテ監督、マリア・メルセデス・コロイさん(女優)が登壇しました。
⇒作品詳細
 
矢田部吉彦PD(以下:矢田部PD):ブスタマンテ監督、そしてマリアさん本当にようこそ東京へお越しくださいました。まずマリアさんから、昨日グアテマラからはるばる到着されまして、本当は1回目の上映に間に合うはずだったんですが、2回目の今回の上映に間に合って本当に我々一同嬉しく思っております。ご挨拶のお言葉を頂けますでしょうか。
 
マリア・メルセデス・コロイさん:皆さんこんばんは。そしてまず何よりも作り主である神様にここにいさせてくれることに感謝をしたいと思います。そして、今回この映画を皆さんにご紹介できること非常に嬉しく思っていると同時にグアテマラの一部でありまして、それを心を込めて皆さんにご紹介したいと思っています。そして、今回ご紹介いただけたこと本当に感謝しております。
 
矢田部PD:ありがとうございます。監督は初日から、おそらく一週間ほど東京にいらっしゃいますけれども、東京で過ごされたご感想も教えて頂けますか。
 
ハイロ・ブスタマンテ監督(以下:監督):まずは、皆さん日曜の夜遅くまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。今回東京へやって来るのは実は2回目なのですが、街の印象を、街というか日本の印象をお話ししますと、グアテマラは、みなさんご存じか分かりませんが、とてもカオスに満ちた社会でありまして、色々な諸問題を我々は社会として抱えております。そのグアテマラから日本へやって来て、やはり感じたのは本当に日本の皆さんはお互いに、お互いを丁重に扱う。そして敬意を払う。そういう社会の中で生きていらっしゃるんだなということで、そういう整然とした社会においては僕は“もの”を想像する時間ですとかが、少し豊かなんだろうなと想像します。一方、我々の国の方では、色々な逼迫した課題といいますか、街中で色々な問題が起きていて、それに対処するのに精いっぱいという部分がありまして、いずれにしてもここに来られることを大変ありがたく思っております。
 
矢田部PD:監督にとってマリアさんはどのような存在であるのかということをお伺いできますでしょうか。
 
監督:マリアさんとの仕事の関係というか、どのように一緒に歩んできたかという話をしますと、これは彼女がここにいるからお世辞を言うわけではないのですが、われわれはキャリアを同時にスタートしました。私は元々ドキュメンタリーや短編を撮っていたのですが、長編に転向してから彼女とほぼ同時期にキャリアをスタートさせたのです。
先ほど言われていたように、過去作品にも出演していただいていて、最初の作品が『火の山のマリア』という、イシュカヌル“Ixcanul”と原語では言うのですがこれを直訳しますと「女性の火山」という意味になります。ここから出演していただきました。グアテマラは非常に国が小さく、映画も産業としては非常に小さいので、俳優がたくさんいるわけではないんです。ですので我々の方から新しい才能を発掘してトレーニングをして、まあこれは私一人ではなくてチームに何人もいるのですが、そのようにキャスティングにあたりました。ちょうどマリアさんが属しているカクチケル族のコミュニティがありまして、これが私にとって非常に興味深いものがあり、そこからのご縁となりました。
そのようないきさつがあってマリアさんをキャスティングしたのですが、より具体的な話をすると、実際にそのコミュニティに我々はチームで行って住み込みました。花市場のようなところで “キャスト求む” というポスターを掲げたのですが、誰一人やって来ませんでした。そこでポスターの内容を“働く人、求む”と変えてみたら、町中から人がやって来ました(笑)。そんな中で一番最後に来たのがマリアさんだったんです。グアテマラは女性が非常に抑圧されている社会でして、これが先住民族となるともっとひどい状態です。そういう現状ですので、よっぽど強い女優さんが必要だという風に思っていたところへマリアさんが来て、この大きな瞳で雄弁に語ってくれる訳です。“私は怖くない。心はあなたと共にあります。この映画のためなら何でもします”という気持ちが伝わって来て、この人だったらいいキャスティングに違いないという確信を得ました。
 
矢田部PD:マリアさんは前作『火の山のマリア』とはかなり違う役だったわけですが、今回の正体不明な不思議な女性をどのような存在だと思って演じられたのでしょうか。役柄へのアプローチを教えて頂けますでしょうか。
 
マリア・メルセデス・コロイさん:役作りはチームワークでした。監督と一緒にワークショップを何度も何度もして、映画に必要な人物像をそこで探していきました。自分としては父母や祖父の物語を色々合わせて、それに基づいて正体不明な女性のアイデンティティーを作っていきました。この正体不明な女性というのは痛みを抱えてやって来る、そしてこれ以上ないくらいに大きな声をあげるために戻ってくるという女性です。この女性は私の母の人生に基づいています。軍事的な衝突や問題があった時に、実は父が軍に強制連行されまして、母は一人になってしまいました。その時は一番上の兄がいましたが、兄が重篤な病気になり亡くなってしまうのではないかという状態だったので、母はどうしていいか分からなくなったそうです。そこで歩いて行けば一日以上かかる出張所のような治療が受けられるところに母と一緒に行ったと、あとで祖父から聞きました。祖父も父が戻れるように母と一緒に訴えたのですが、父はどうしても出させてもらえず、結局何の治療も受けることができずにみんなで帰ってきました。祖父はこんな重篤な子供を抱えてどうしていいか分からず泣いていたそうです。そんな話を元にして私は役を作っていきました。ちょうど10月31日が「死者の日」ですが、私にとっては大切な日です。こういう大量虐殺が実際にあった、亡くなった人たちを代表して自分が今ここにいる、そのような人たちの名のもとに自分はここ(映画祭)に来ている、ということが私には大切です。
 
Q:こういった映画を作るにあたって制限とか恐怖とかは一切ないのでしょうか。
 
監督:制作の背景についてお話しします。1996年にグアテマラにいらっしゃったという事ですがある種、特別な時期だったと思います。平和条約を結んだ後だったので、もはや軍事政権ではなかったのですが、社会はさほど(以前と)変わっていない状態でした。とは言え、政権の裏には軍部の力が働いているので、人権を守るのはなかなか容易なことではないという状況がずっと長く続いていました。制作について、本作は私の過去2作品とほぼ同時期に作っています。というのは3部作というかトリック的に考えていて、それはグアテマラの先住民族に対する3つの重要な侮辱を描いているという認識です。インディオに対する侮辱、ホモセクシュアルに対する侮辱、コミュニスト(左派)に対する侮辱、こういった3つのタイプを描いている作品です。具体的に今回の『ラ・ヨローナ伝説』に関する経緯としては、まずはサン・セバスティアン国際映画祭で脚本賞をいただき、それがきっかけでバラエティ誌の記事になりました。それでグアテマラで広く注目されるようになり、直接的ではないにしろ間接的に脅迫があって、無言電話が掛かってきたりしました。そんな中で制作資金を募るのも難しく、最初は信用でお金を借りて、フランス大使館の協力を得ることが出来て無事撮影にこぎつけることができました。ただ、グアテマラの外務大臣がストップをかけようとして、フランス大使に「ペルソナ・ノン・グラータ」(歓迎されない人)という烙印を押そうとしたり撮影を阻止しようとする動きがありましたが、フランス大使館の方は頑として譲らずきっちりと私たちをサポートしてくれました。領事館・大使館が味方になってくれました。加えてドイツやメキシコの大使館、現地のイエズス会系の大学の協力を得て、1年以内に撮影を終えることができ、この作品を守らなければということでいろんな映画祭に出品しました。幸い、ヴェネツィア映画祭で非常に重要な賞をいただけたことで、初めてこの作品は守られたなという実感を得るに至りました。
 
矢田部PD:将軍の家はフランス大使公邸だそうですね。公開はできそうですか。
 
監督:あらゆる力を尽くして配給にこぎつけきたいと思っていますが、色々なネガティブキャンペーンが作品に対して行われているということです。2作品目も同様でしたが。
 
Q:このようなテーマをなぜあえてホラーという形で表現しようと思ったんですかを教えてください。
 
監督:今日、作品をご覧いただきまして、ありがとうございます。1作目に『火の山のマリア』という作品を撮ったのですが、これは日本でGAGAが配給してくれて、今DVDが出ているので是非ご覧ください。テーマの話に戻りますと、先ほど3つの侮辱というお話をしましたがコミニストというのは1つの侮辱に使われる言葉であるというお話をしましたが、これは必ずしも政治的な思想に限ったことではなく、なんでも人権を擁護する人をコミニスト、共産主義者めと侮辱する訳ですね。つまりは正義、更生について語ることがタブーな国なんです。グアテマラは。かつそれに加えて、我々はグアテマラの人々は国の歴史、現代史を振り返っていないっていう状況にありまして、特に我々の世代の一世代前が人々に共感しないというか、そういう世代ですのでその状況をあまり変えたくない、革新したくない世代ですので、私は新しい世代に向けて、自分のこのグアテマラの歴史を語りかったんです。効果的に語るにはどうしたらいいのか。今の若者たちはどういった映画を観ているのかをリサーチしました。そうすると大体スーパーヒーローものやホラーものだったりするんですね。ですので土地の、人々が泣いているだとか苦しんでいる、子供たちの叫び声だとかを語っていたかったのでフォルムについてこだわるよりも、何を伝えたいか、いかなるインパクトを持って伝えたいかが重要だったのであえてホラーの形をとりました。
 
矢田部PD:最後に一言づつ締めの言葉をお願いします。
 
マリア・メルセデス・コロイさん:本日はお越し頂きまして誠にありがとうございました。グアテマラから兄弟愛的なご挨拶をしたいと思います。本当にありがとうございました。
 
監督:まずは東京国際映画祭に、この作品を上映してくださりありがとうございます。当然ながら、監督、そして映像作家としてのキャリアとしていかに公開にこぎつけるかというのも大切な問題ではあるのですがそれ以上に、先ほど普遍的なトピックであるというご意見もいただきましたが、こういうトピック、こういう問題を皆さんにメッセージとしてお届けすることが大事だと感じているので、皆様にもう一度御礼を申し上げたいと思います。

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