11/3(日)コンペティション『戦場を探す旅』上映後、オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオーさん(監督/脚本・中央)、マリック・ジディさん(俳優・左)、レイナール・ゴメスさん(俳優・右)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督(以下、監督):皆様こんにちは。私の大好きな国、そして街、そして芸術に大変感性がおありで、特に映画もお好きなここ日本の皆様に、今回東京でご紹介するのが初めてなのですけれども、ここに来られて大変嬉しく思います。
マリック・ジディさん(以下、ジディ):私もここへ来られて大変嬉しく思います。実はこの映画はコロンビアで撮影をしておりますので、そこへ行くのも旅でしたし、映画の中でも旅をしておりましたし、また、内面的な旅(センチメンタル・クエスト)もして来ましたし、そして1年後にこの日本へ旅しに来てこのように映画をご紹介できることになったのですけれども、私の相棒を演じたレイナールはコスタリカの人なので、かなり世界を股にかけたインターナショナルな作品でございます。
司会:矢田部PD:レイナールさんは昨日コスタリカから到着されまして、2回目の上映に間に合ったということでございまして、レイナールさんからもお願いします。
レイナール・ゴメスさん(以下、ゴメス):このように来られてたいへん嬉しく思っていますし、この作品を素晴らしい監督とパートナーと共に作り上げ、皆様と共有できたことを大変嬉しく思っております。ありがとうございます。
Q:撮影はかなり困難を極めたように見受けられましたが、どれくらいコロンビアで撮影されたのでしょうか。
監督:実は今回が私の初めての長編監督作品になります。初長編と言いながら、こういった歴史物でいきなり大変なことにチャレンジしたのですけれども、かなり良いものになっているので大変誇りに思っております。そしてロケ地探しですが、スペインとか南仏の方とかメキシコとかいろんな所を探しまして、あのような荒涼とした地帯でありながらもちょっと湿っぽい感じの場所を探しておりまして、いわゆる西部劇のようなからっとした壮大な場所ではなくて、ちょっとじっとりした場所を探していて、いろんな人から情報を集めてパラモというコロンビアにある場所で、ちょっと標高が高くてちょっと湿気があってじとっとした感じのあるその場所を見つけました。そこに行くまで車で2~3時間もかかってしまって行くのも大変だったので、そこで撮影できる期間は非常に限られてしまったのですけれども、トータルではコロンビアで6週間撮影をしております。
矢田部PD:俳優のお二人からも撮影についてお聞かせいただけますか。
ゴメス:確かに大変な撮影になりました。監督からの要求が強かったですし、特に気温の低い所での撮影で、しかも靴を履かずに裸足でいることが多かったので、すごく大変でした。気温が低くて、0℃くらいの時もあったかと思います。アクシデントもいっぱいありまして、爆発して川に落ちてしまったりとか。楽しい所もあって、例えば普段やらないような、素手で魚を獲るシーンの撮影とかもあったので、すごく良い経験になりましたし、良い経験というのは楽しい形で受け止めることができました。というのも、ほんとにいつも遊んでいるような感覚で撮っていましたので。
ジディ:実は、初日のエピソードなのですけれども、毎回朝はとても早かったです。4~5時起きで8時のロケスタート。移動時間が長かったのですごく早く起きて我々はワイルドな森へ向かったわけです。隊列の組まれた一番目が重い機材を積んだテクニシャンたちが乗ったトラックだったんですけども、初っ端から泥にそのトラックがはまってしまいまして、それでブロックされて動けなくなってしまって、みんなでロープでトラックを泥から引っ張り出すという作業から始まりました。いきなり戦いの場に放り込まれた感じで、これでジャングルで死んではならないという感じで必死にロケバスを引っ張り出すということから始まったのですけれども、そんな感じで撮影自体は大変でした。そしてレイナールも言っていたようにしょっちゅう足も濡れていましたし、過酷な環境でもありましたし、あと秘話と言えば、二人の控室が同じ部屋だったので、よく一緒に寄り添って赤ちゃんのように寝ていたのですっかり仲良くなりました。
Q:主人公を戦争カメラマンで描いた、監督の狙いは何だったのでしょうか?
監督:戦争の写真を撮りに行こうと思ってあのような結果になったというのは結構重要なポイントです。本人が抱えるパラドクスでもあるのですけれども、戦争の写真を撮りに行くというミッションを抱えつつ、彼は自分のインターナル・クエスト、内面の追求もしながら色々一生懸命探って行っています。現実を撮りに行こうということに気付いて、それは自分に起きたある出来事とリンクしているのです。結局、最終的な思いに辿り着くというところを描いていますが、戦争写真を撮りに行くということが大きなポイントを占めていますので、なかなか辿り着けないといった部分があるのです。
Q:なぜ戦場カメラマンを描こうと思ったのか、こういう物語にしようと思ったのですか。
監督:なぜ、戦争カメラマンをその主人公に据えたかという事なんですけれども、自分はその世の中の先駆者に、その最初に何々を作った人とか、そういったものを非常に尊敬しておりまして、そういった最初の職業が戦場カメラマンという人たちに非常に注目していたからです。ああいった人たちは、大変危険な場所に赴いて、実際カメラのレンズを通して撮る訳ですけど、まず今回の主人公は内面的な戦いというのもあるので、あることからずっと内面で燃えているものがあって、その戦争というのと内面的な戦いというのがリンクするのが面白いと思いましたし、あと、写真を撮るところが、それが永遠に形として残るところが凄く素敵だなと思いまして、戦場カメラマンを描こうと思いました。
矢田部PD:マリックさんは、沢山の作品に出演されていますけれども、その役に取り組むときは戦場カメラマンという存在について、例えば、今回のケースについては調べることから始めるのか、或いは内面のテーマを掘り下げることを重視して、それほどその戦場カメラマンというようなものを調べるというよりは、内面を演技の準備をするのか、アプローチを教えてください。
ジディ:監督と同様に昔から結構写真というものに非常に興味を持っておりました。監督は、今回役作りをするにあたって、色々と参考になるような絵とか写真とか絵画とか色んな物を私に渡してくれて、この主人公がスピリチュアルにもどういった立ち位置にあるかというのを、参考にして欲しいという事で渡されました。今回は、私はいわゆる写真のテクニックというよりも、そういったブラックボックスというのか、昔の撮り方とかああいったものに非常に興味がありました。実は昔、黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』という作品に出演したことがあるんですけれども、「ダゲレオタイプ」とは写真撮影技術のことで、そういったことからも結構カメラのこととか非常に昔から興味があったんですけれども、今回は、カメラ技術というよりも、人物にどういった色味を与えていくかを念頭に置いて、まるで写真ができたときに浮かび上がらせる、だんだんじわじわと絵が出てくるように、そういった感じに演じたいなという風に思って演じました。
矢田部PD:レイナールさんがこの映画では、本当に重要な役割を果たしていらっしゃいます。自分はどのような役割なんだろうという風に理解して望まれましたでしょうか。
ゴメス:はい、このキャラクターはピートという男性なんですけれども役柄としてはメキシコの農家の人で、この世界の中で、私は彼を演じたいと思いました。常に笑顔があって、凄くスピリチュアルですね。ピートを希望として、一番最初にはそういう風に捉えてキャラクターを作りました。
Q:実際の歴史のエピソードですとか、実際の歴史的な人物でインスピレーションを受けた方はありましたか。
監督:複数のものからインスピレーションを受けております。まず、フランス人の実際の戦場カメラマンとして、ジャン・シャルル・ラングロワという方がいたんですけれども、その人は19世紀半ばにクリミア戦争に行っております。でもその時は風景だけを撮っていて実際に人が戦っているところは撮れなかったのですが、まずその人物が挙げられます。次にアメリカ人で、マシュー・ブレイディとティモシー・H・オサリバンという人たちがいたんですが、彼らは実際に人が戦っているところも写していますがちょっと演出をしているのかなという感じも受けます。あとは色々な絵画や映画作品からインスピレーションを受けております。
矢田部PD:時間が来てしまいました。最後に監督から。
監督:私からもぜひ皆様にお礼を申し上げたいです。ちょうどマリックとも言っていたんですが、このように映画を観ていただいた観客の皆さんからいろんな深い質問を受けますと、こちらも大変興味深いですし、いい刺激になります。本当にこのような経験ができて嬉しく思います。ありがとうございます。