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2019.11.04 [イベントレポート]
「父の作品を映画化するという思いは30年前から、頭に浮かんだ作品の1本が『ばるぼら』です。」11/3(日):Q&A『ばるぼら』

ばるぼら

©2019 TIFF

 
11/3(日)コンペティション『ばるぼら』上映後、手塚 眞監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
手塚 眞監督(以下、監督):『ばるぼら』を観ていただいて誠にありがとうございます。そしてこの東京国際映画祭に参加できたことを大変光栄に感じております。今日は11月3日でこの原作の手塚治虫の誕生日でございます。そしてもし彼が生きていたら、満91歳になったところです。そのような記念すべき日に皆さんと一緒にこの映画を上映できたことを大変嬉しく思っています。本当にありがとうございます。
 
司会:矢田部PD:ありがとうございます。「ばるぼら」という手塚治虫先生の漫画原作を今回手塚眞監督が映画化する理由として、手塚眞監督としての持ち味といいますか、手塚治虫先生の原作を一番活かせる作品だと思われたというふうにおっしゃいましたけれども、この作品の思い、いつか映画化したいという思いはいつごろから抱いていらっしゃって、どのくらい時間をかけて本日に至ったかということをますお伺いできますでしょうか。
 
監督:私の父親手塚治虫はちょうど30年前に亡くなりました。それまでは父親の作品を私が映画にするなんていうことは考えてもいませんでした。ただ父親を亡くした後に私は映画監督としてすでにプロとしてやっておりましたけども、いつか父親の作品を映画化することはあるのかもしれないと思うようになりました。その時にどの作品を選ぼうかなという風に考えた時に何本かの作品が頭に浮かんだんですけれども、その中の1本にこの『ばるぼら』がありました。ですから思いということだけで言えば30年前からの思いです。今回の作品の企画はいつ思いついてスタートしたかと言いますと、実は6年前に遡ります。それから脚本を用意してキャスティングを始めて、製作の困難はあったものですから5年以上時間が経ってしまいましたけれども、こうやって無事に公開することができました。
 
矢田部PD:「ばるぼら」はショートストーリーがいくつか連なっていて最終的には大きな物語になるんですけれども、非常に脚本にまとめるには大変だったんだろうなという風に思ったんですけれども、ここを削るここを残すというような脚本作りにおいて苦労されたところをお伺いできますでしょうか。
 
監督:「ばるぼら」はもともと雑誌に掲載されていた漫画で、かなり長く連載が続いたものですから原作お読みの方は分かると思いますが、相当長い物語となっております。多分それを全部映画化するとなりますと3時間くらいの映画になってしまいますので、多分見るお客さんも疲れてしまうと考えましたので、なるべく短い映画にまとめようと思いました。その上で注意した点は漫画の原作の味わいをなるべく損なわず、またおそらく読まれた方の印象に残っている場面がいくつかあったと思うんですが、なるべくその印象も損なわずそれでいながら内容もコンパクトにまとめるようにと考えました。そしてもう一つ大きく変えた点は、原作が書かれたのは1970年代でその当時の風俗が描かれているんですけれどもこれを完全に現代に置き換えました。その代わり主人公の二人、“美倉洋介”と“ばるぼら”、この二人になるべくスポットを当てて二人を丁寧に描くというところを心掛けたつもりです。
 
矢田部PD:お聞きしないといけないことはキャスティングですね。二人が中心人物となるわけですけれども、このキャスティングのプロセスを教えてください。
 
監督:先ほどのお話した通り、この映画は5年以上前から予定をして企画をしていて、その上でずっと色々な方にキャスティングでアプローチしていました、しかしまあこういう内容ですのでなかなか困難も多くてこれは単純に内容的に役的にこれは難しくてやれませんという方が多かったんですね。その中で最終的に稲垣吾郎さんと、二階堂ふみさんにお尋ねしたところ、お二人ともすぐお返事をいただいて、これをぜひやりたい、というふうにうかがいました。そして、まあ内容が、こういう内容ですし、過激な描写もあるので、こちらにでも気を遣ってお二人に面接したときに、内容について何か問題はありますか、気になるところはありますか、というふうにお尋ねしたんですが、お二人とも完璧にありません、ということでした。場合によっては、映画というのはいろいろなテクニックがありまして、たとえば、本人以外の人間を代役に立てたり、そういうことも場面によっては可能なんですけども、でもお二人ともどの場面も全部自分が演じたい、とおっしゃられて、二人ともまったく役について、台本について躊躇なく演じてくださいました。おそらく二人ともこの映画の内容、そしてこの映画を作ることの意義を大変よく理解してくださったんだと思います。ですから撮影現場で何か言い争ったり、口論になるようなことは全く一回もなかったです。ですから、監督として本当にやりやすいお二人でした。
ただ、その時その場にいて、二人に対して「よーいスタート」というだけでよかったんです。ただ、ずっと見とれてしまって、なかなかカットがかけられなくて、カットだけが対応が遅れましたけど。
 
Q:“ばるぼら”という存在がミューズであり、オカルティックな要素も持ち合わせた存在であって、この作品は女性にフォーカスしているなと思いました。なぜ女性だったのか、監督はどう解釈されているのかをお聞きしたいです。
 
監督:それには二つの答えがあります。まず一つは、おっしゃるようになぜミューズ、神様が女性かということですが、人類の歴史、その四万年から五万年ある歴史の、ギリシャ時代以前、つまりほとんど四万年以上ですけど、この長い歴史は、ほとんど、神様と言えば、女性です。ですから、ちょっとオカルティックなことを調べていきますと、必ず女性の神様の話に辿り着くわけです。ですから、これまでも自分の作品に登場する神様のような表現はほとんど女性でした。もう一つの理由は簡単です。原作がそうだからです。
 
Q:最後のシーンに解釈について。
 
監督:“ばるぼら”という存在は非常に不思議で、これは原作を読んでいてもなかなか解釈が難しい存在だと思うんですが、はっきりしません。
最後のシーンについて、そこに何が映っているかということよりも、皆さん方がそれをどう観たかということの方が重要だと思います。もしご覧になった方が、ある風に見えてるとすればその意味は皆さんが自由に解釈していただければいいんだと思います。
 
Q:映画化する候補から「ばるぼら」を最終的に選ばれた一番のポイントを伺いたいです。
 
監督:もし手塚治虫の「火の鳥」や「鉄腕アトム」を実写の映画にするところを想像してみたとします。それはたぶんハリウッドじゃないと不可能だと思います。私はずっと日本でインディペンデントの映画を作っています。俗にいうインディーズ映画というものですね。それは比較的予算も規模も限られた中で何かを表現するという仕事です。そのような中で尖がったインディーズフィルムを作るということで考えると「ばるぼら」がちょうど良かったという事です。そして、この物語は非常にミステリアスでエロティックであります。そういうものを作ってみたかったのでそういう今の自分の思いにピッタリはまったという感じです。エロティックっていうことにネガティブに捉える方もいますけども、今自分にとってエロティックということは何かというとそれは人間同士の触れ合いという事なんです。今、非常に世の中がデジタル化が進んでいってなんでもかんでもデジタルを通して人とコミュニケーションをしたり、人と出会うのも全て機械を通してという時代になってきています。ですから、むしろ人間が直接同士も肌が触れ合うような交流というのは今とても必要じゃないのかと感じました。ですから、そういう時代だからこそこのような肉体の触れ合いを見せる映画をあえて作ったと言えると思います。普通の映画よりも肉体の交流がたくさん映ってると思います。ありがとうございます。
 
Q:撮影監督のクリストファー・ドイルさんにどのようなリクエストを出しましたか。
 
監督:まず彼を撮影監督に起用した理由ですけども、僕はこの作品はとてもシンプルなラブストーリーで、そしてとても美しいラブストーリーとして考えていました。そして、アジアの男女を美しく撮る撮影監督で、しかも街も美しく撮ってくれる人がいいと思っていたんです。
また別の面から見ると、非常にお酒が好きな酔っ払いのミューズの話です。ドイルさんは非常にお酒がお好きだと聞いていたんで彼にぴったりだなと思いました。五年前に脚本ができるとすぐに英訳をしてそれをドイルさんに送りました。すぐ彼から返事が返ってきて、これはもう絶対やりたい。なぜなら、これは俺のための映画だと彼が言ったんです。彼はこの企画にすごく思い出を持ってくださったのでその後、実際に撮影が始まるまで五年間ずっと待っててくださいました。最初に打ち合わせでお会いしたときに、その脚本にもの凄くたくさん書き込みがしてあって脚本が二倍に膨れ上がるくらいの自分のメモをそこに付けていたんですね。彼にそのぐらい考えがあるんだったら、まずちょっと彼の考えでこの映画を撮影してみようという風に思いました。ですから、この映画の映像はドイルさんと僕と二人のコラボレーションで作った映像だと思っています。時々、意見がぶつかる時もあったんですけども、でもそういう時はドイルさんは非常にプロフェッショナルなのでそれはもう監督が決めてくれればいいと僕は言われた通りに撮影するよと言ってくれました。時々逆に僕の方から今日は一日ドイルさんに時間をあげるから好きに撮ってくださいと頼む日もあったんです。覚えてらっしゃるか分かりませんが、映画の中で二階堂ふみさんが演じる“ばるぼら”が一人で歌舞伎町の中をフラフラとさまよって散歩してる場面があるんです。オレンジ色の傘をさしているんですね。あの場面はドイルさんのアドリブです。ドイルさんはちょうど雨が降ってきたんで、オレンジ色の傘を買ってきてくださいとスタッフさんに頼んでオレンジ色の傘を用意していきなり撮り始めたんです。出来上がった映像は僕が欲しかった映像でドイルさんに頼んで良かったとその時思いました。
ドイルさんというのは裏方だけども彼は主演俳優の一人だと思っていました。やっぱりドイルさんの映像そして、稲垣さん、二階堂さんこの三人が映像に映るものの全てだと思ったんです。もしかしたら一番ギャラの高い主演俳優だったかもしれないですね(笑)。
 
矢田部PD:最後に、監督から一言頂戴したいと思います。
 
監督:この原作は分かりにくい部分もある一筋縄ではいかない原作だと自分でも思っています。そして、これまでの私の映画作品も同じように分かりにくいと言われています。非常に尖がった作品ですので皆さんが咀嚼して理解するまでに時間がかかるんじゃないかと思いますがじわじわ来ると思いますので、そのうち時間がたって思い出してくれたら周りの人にも宣伝してもらえると嬉しいです。そして是非、また一般上映の時に観に来ていただきたいと思います。来年中に一般上映が決まっております。まだ日にちは言えないんでけども、必ず来年中に日本中で上映いたしますのでもう少し待っていてください。本当に今日は観ていただきましてありがとうございます。

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