11/3(日)アジアの未来『ある妊婦の秘密の日記』上映後、ジョディ・ロックさん(監督/脚本/原案)、ジャクリーン・リウさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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ジョディ・ロック監督(以下、監督):みなさん、このように東京国際映画祭で再度作品を上映頂けることができとても光栄に思っております。映画は楽しんでいただけたでしょうか。
ジャクリーン・リウさん:東京国際映画祭に今回もご招待を頂き嬉しく思います。昨年も私はプロデューサーとして『トレーシー』という作品で参加をさせていただきましたが、今回は戻ってくることができ大変嬉しく思っています。
司会:石坂PD:ジョディさんは1作目の『レイジー・ヘイジー・クレイジー』も2015年の東京国際映画祭のワールドプレミアでご参加いただいた経歴があり、我々も大変感謝をしております。もともとジョディさんはパン・ホーチョン監督の下で『恋の紫煙』などの脚本家として活躍されていたわけですが、最近は脚本よりも監督として活躍してみたいと感じていらっしゃるのでしょうか。
監督:脚本への関心がなくなったわけではありません。今でも私の情熱を燃やす対象であり、愛すべき仕事として捉えています。本作は監督として2作目にあたるわけですが、自身が脚本家であったときに磨いてきたストーリーテラーとしての資質を今後も継続的にブラッシュアップしていきたいと思っています。脚本を作る作業はより個人的な体験を投影する場として貴重なものです。そして同時に機会があれば本作のように監督として作品に携わっていくことも続けていきたいと思っています。
Q:作中で特撮ヒーローの変身のポーズをまねる方がいましたがどのような意図で挿入されたシーンなのでしょうか。
監督:あのシーンような会が実際に香港にあるのかどうかは知らないままに描いているのですが、もしかしたら存在するかもしれません。ただ私の友人や親戚で男の子を抱える方の中には、子供の面倒を見つつも、子供から離れられる瞬間があるとこうした場で楽しんでいる人がいるというのは事実です。私はこうした方々をパパギャングと呼んでいます。また、実はですね、あの会のメンバーでヒーローのふりをしている役の方は、本作が初めての映画出演でした。ただ彼はYouTube上で元々変身ポーズを公開されている方で、それが非常にインパクトが大きく、友人から私のところまで起用したらどうかという推薦がきて、今回出演をお願いしました。
Q:制作にあたって政府からの資金が入っていますでしょうか。
ジャクリーン・リウさん:ご質問の通り、本作は香港政府からの資金援助を受けていますが、これは元々は香港政府側から若手の才能の育成のためにということで立ち上げられたプロジェクトの一部でした。ジョディのような若く才能があると知られた監督であれば、結果として香港政府の支援が得られるだろうというかなり高い可能性を見て、政府による支援の決定を待たずして作品の制作を進めました。そのため当初は公の資金が入ることは決定されていないままの状態で、私が持っている映画会社で民間からの資金調達も同時に進めながら制作を行いました。1点付け加えるとすれば、近年香港で製作される映画の数が非常に減っているという事実があります。その原因の1つにはマーケットの小ささがあるわけですが、こうして香港の映画が海外でも愛好されるという事実や、国際映画祭で上映をされるという事実が監督や私をはじめとした香港の映画関係者の間では非常に重要な成果となります。
Q:本作ではメイドさんが一切出てこなかったのは、メイドさんが出てくるとほとんどの問題が解決してしまうからなのか、最近の香港の若い夫婦の家庭ではメイドさんではなく自分たちや両親の力を借りて子供の世話を見ることが一般的というか、それほど珍しくない状況になったのでしょうか。
監督:実際の香港の過程ではメイドさんの力を借りるという場面があるとは思いますが、本作ではこの主人公、女性の妊娠期に心身へ起こる変化というものにフォーカスを当てたいという制作上の狙いがありました。具体的には、妊娠の9か月間に身体に起こる変化や、家族・友人・キャリアなど人生や周辺環境との間に起こる変化などです。そのためメイドの存在を無視したわけではないのですが、メイドへ目がいかないよう作品の設定からは除いたという背景があります。
Q:なぜ今回お母さんになる女性を描こうと思ったのかと、衣装についてお伺いしたいです。
監督:ストーリーのインスピレーションの源となった点は、やはりアジア圏における女性が出産をした後に母という目でも見られてしまう、というか母というものがすべてを上回ってしまうというところです。なかには起業している人もいたり、ビジネスパーソンもいたり、パーティクイーンだったり、みんないろんなことをしているのに、母という事でひとくくりにされて、それがフィーチャーされることにちょっと疑念というか、どうなのかなと思うところがあって、そのステレオタイプに一石投じたいという点があったので、ユーモアを交えてこのテーマを描きました。
衣装については、この作品は撮影期間が19日間で低予算映画といえると思うのですが、衣装が足りなかったのかというとそんなことはなくて、十分あったんですね。衣装の選定に関しては衣装デザイナーが担当していたわけですが、やはり衣装というのもそのキャラクターたらしめる表現手段のひとつではありますよね。編集の段階で切ってしまったり、他の衣装の部分を切ったところもあるのですが、やはり主人公の仕事なり環境を表すものとして、キャリアウーマンである彼女が妊娠をしたことによってよりソフトになっていくということを象徴するために白なり、やわらかい色調の衣装を選びました。
石坂PD:次回作の計画を教えてください。
監督:次回作も開発中ではあるのですが、やはり女性の目線から見た、女性から見て大事なこと、例えば食を愛するとか、人生の転換期、そういったことをモチーフに書いてみたいと思っています。やはり書き上げるまでに時間がかかるのでそちらを仕上げたらまたここ東京国際映画祭で皆さんにお披露目できたらと思っています。