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2019.11.04 [イベントレポート]
「真に人間的な感情は動物しか感じることができていないのではないか、ということを出発点にして本作は制作されています。」11/3(日):Q&A『動物だけが知っている』

動物だけが知っている

©2019 TIFF 10/30のQ&Aに登壇されたドゥニ・メノーシェさん(俳優)、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツさん(女優)

 
11/3(日)コンペティション『動物だけが知っている』上映後、ドゥニ・メノーシェさん(俳優)、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツさん(女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
ドゥニ・メノーシェ(以下、ドゥニ):ありがとうございます(日本語で)。すみません、あまり上手ではない役者なのでセリフを忘れてしまいました。
 
ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ(以下、ナディア):この度は東京国際映画祭へご招待いただきましてありがとうございます。このように呼んでいただくということは大変光栄に存じております。今回初めて来日したのですが、このような形で来られたことを大変嬉しく思っています。Q&Aにも残っていただいてありがとうございます。
 
Q:フランス映画なのに監督がドイツ人だということですが、ドイツ人の監督がフランス映画を1本だけでなく何本も作っていますね。
 
ドゥニ:この作品の監督であるドミニク・モル監督はドイツ生まれなんですけれども、パリに住んでいてニューヨークで勉強しているので英語も喋れますし、フランス語も喋れる方です。フランスでは映画を作るシステムがすごくしっかりしているので、おそらく最初の長編作品を作るという意味では作りやすかったのではないかと。そこからだと思います。
 
司会:矢田部PD:ドミニク・モルさんは現場でどんな方なんですか?穏やかなんですか?それとも結構指示を出されるタイプですか?
 
ナディア:彼は自分が求めているものが何かということをすごく良く把握している人なんですが、どこか自由を与えてくれる人です。すごく穏やかで、そしてクルーにしても俳優にしてもご自身で選んでいて、セット上では厚い信頼というのが生まれている、作品とはずいぶんイメージが違う方だと思います。
 
矢田部PD:ドゥニさんはありとあらゆる監督とお仕事されてますけど、他の監督と比べてドミニクさんの際立っている特徴ですとか、ありますでしょうか?
 
ドゥニ:背が高いですね(笑)。ドミニクは本当にすごい人で、そして私たちがこのように映画を作れることがいかにラッキーなことなのか、よくわかっている人です。割と他の監督さんですと、その状況に胡坐をかいてしまって、そして子供みたいに、あるいはすごいフラストレーションが溜まったりするんですが、ドミニクはどちらかというとボートのすごく優れたキャプテンみたいな人で、そのボートにとってベストなクルーというものを選んでいて、そしてその結果脚本通りにやっていけばすごくスムーズに撮影が進む。それをした結果、時々「クスッ」と横で笑っていて、良い監督だなと思います。
 
Q:キャラクターたちはいろんな形で愛されたいと思っていたりするところが非常に印象に残っているのですけれども、お二人がそれぞれどういう形で役を作っていったのかというところをお聞きしたいです。
 
ナディア:確かにおっしゃる通り、ここに出演しているすべてのキャラクターというのは、愛されたい、愛を求めている、そして愛を追い求めている人たちなんですが、その中でマリオンというのは少し迷子になってしまっている。迷子になった状態でエヴリーヌの中に自分が失ってしまった情熱というものを見つけているんです。そしてエヴリーヌと出会うことによって自分の周りのすべてを忘れて自分のラブストーリーというものを解き放つことができる、そういうキャラクターだったと思います。そしてそれは私にとってもとても大変興味深く、おそらく誰でも持っているようなそういう深い深い感情というものをこのキャラクターを通じて模索することができましたし、そしてその持っていた感情というものを探索して解き放てる経験になっています。
 
ドゥニ:ちょっと想像していただきたいのですけれども、季節的には5月くらいで、目の前を男性または女性が通り過ぎて行く、そしてその瞬間に、あっ、この人タイプだなと閃いてしまうんですね。それから自分の中でいろいろなファンタジーというものを作っていくんだと思うんですけれども、その通りすがった女性または男性というのは、もちろん会ったこともないのですけれども、その瞬間にこの人が運命の人だというファンタジーを閃いてしまう。それがミシェルなんですね。ミシェルは常にその瞬間にずっと留まっていたい、皆さんその瞬間というのに身に覚えがあると思うんですけど、その瞬間にずっと囚われているのがミシェルです。
 
Q:非常に優れている理由の1つは原作の小説にあるのではないかと感じており、お二人は原作を読んでいらっしゃいますでしょうか。また映画と原作には大きな違いはあるのでしょうか。
 
ドゥニ:原作と映画の大きな違いは、物語の描かれる視点の違いにあります。原作はすべて一人称の視点で物語が描かれており、すべてが主人公の日記のような形で描かれていますが、映画では特定の視点から物語を進行するのではなく、劇中のキャラクターもよりまとめ上げられた形で再構成されています。
 
矢田部PD:改めて振り返りたいポイントなのですが、原題は「Only the Animals」という形で主語の「動物だけが」で表現が止められています。邦題では「動物だけが知っている」という形で表現し直しているのですが、独特な原題に込められた意味や思いのようなものがあれば、ドゥニさんに教えていただければと思います。
 
ドゥニ:本作のスタッフが、原作を書いた作家の別の作品を読んだ際に、「動物だけが人の気持ちをわかっている」ということを感じたそうです。ある漫画作品では、家族が夏に旅行に出かける際に、旅行に出かけると犬の面倒が見られなくなってしまうため犬を捨ててしまうのですが、家族は夏休みだと騒いでいる一方で、犬はリードをつけられたまま家族に何が起こるのだろうと心配をしているシーンがあり、そうした真に人間的な感情は実は動物しか感じることができていないのではないか、ということを出発点にして本作は制作されています。
 
Q:非常におもしろいストーリーで、日本語で言えば「ネタバレ厳禁」な作品だと感じました。お二人は本作の役のオファーを受けたとき、どのように役柄を捉えていたのでしょうか。
 
ナディア:私は本作の脚本を頂いた際に本当に読むのがやめられなくなり、最初から最後まで一気に読み切ってしまいました。読みながら同時に横にツリーを描き、登場人物間の相関関係図を捉えながら、深く集中をしながら読んで言った記憶があります。私にとっても本作の役をもらえたのは一種のギフトのようなものだと感じています。どっぷりはまることができるラブストーリーの中ではある種の代償のようなものが発生するわけですが、将来何が起こるのかわからないまま自分の直感だけを信じて進んでいくマリオンの姿というのは、撮影が終わった後も自分の中に残っており、私も今後は自分の中にある声に積極的に耳を傾けて生きていきたいと感じています。他のキャストの皆様もフランスを代表する素晴らしい役者ばかりで、彼らと仕事ができたことを非常に誇らしく思っています。監督のドミニクの作品も非常に好きなものばかりなので、こうして作品に携われたことを心から嬉しく思っています。
 
ドゥニ:私もドミニク監督の作品が好きでずっと一緒に仕事がしてみたいと思っていました。それに加えてコーエン兄弟の『ファーゴ』のようなタイプの作品が大好きで、いわば“素晴らしいバカ”がその場の状況だけでどんどん沼にはまってしまうような役柄をいつか演じたいと思っていました。
 
矢田部PD:他の方との共演という意味での質問なのですが、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキさんとの共演はいかがでしたでしょうか。若干不思議な女優さんと私には見えているのですが、素の状態のヴァレリアさんに関することや、彼女との共演に関することで何か本音をお持ちであればお聞かせ頂ければと思います。
 
ナディア:彼女との共演は非常にエキサイティングで幸運な経験だったと感じています。彼女はそもそも優しい方である一方、感情的に非常に濃密で、彼女がシーンをリードしていく果てに何が起こるのか、わからないままに進む現場にいることが非常に楽しいと感じていました。彼女との共演を通じた大きな学びとしては、次に何が起こるかは何も考えないことも大事だという事。より複雑なシーンになればなるほど彼女との現場は先が読めなくなるので、積極的に相手のことに耳を傾けなくてはならないことも学びました。そうした経験を通じて私自身、役者としての自信がつきました。
 
矢田部PD:ありがとうございました。帰国のスケジュールが迫っていることもあり、お時間があまりないのですが最後にお二人から簡単に一言ずつ頂戴できればと思います。
 
ドゥニ:私はグランプリを獲りたいので(最終日の)5日まで残りたいと思います(笑)。
 
ナディア:こうした素晴らしい国に来ることができ光栄です。いつかまた来た際にはゆっくり滞在し、あちこちを探索してみたいと思っています。

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