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2019.11.03 [イベントレポート]
「僕の映画は個人的な事情や感情がかなり反映されています。」11/2(土):Q&A『叫び声』

叫び声

©2019 TIFF

2019/11/02(土)日本映画スプラッシュ『叫び声』の上映後、渡辺紘文監督、渡辺雄司さん(音楽監督)、久次璃子さん(女優)、久次啓太さん(俳優)、須戸奈々香さん(女優)をお迎えしてQ&Aが行われました。
 
矢田部PD(司会):渡辺監督、また東京国際映画祭に新作を出品してくださいましてありがとうございます。皆様にご挨拶を頂戴できますでしょうか。
 
渡辺紘文監督(以下:監督);皆さん、おはようございます。すがすがしい朝にふさわしい作品を(会場:笑)観に来てくださいまして誠にありがとうございました。皆さんには心より感謝しております。
 
渡辺雄司さん(音楽監督):今日は朝早くにも関わらず、こんなに満席な状況の中で映画を観ていただいてありがとうございました。
 
久次璃子さん:久次璃子です。
 
監督:名前の次に「ありがとうございました」言おうね(笑)。
 
久次璃子さん:今日は一日ありがとうございました。
 
久次啓太さん:久次啓太です。ありがとうございました。
 
須戸奈々香さん:須戸奈々香です。ありがとうございました。
 
矢田部PD:彼らと監督とのご縁をお聞かせいただけますでしょうか。
 
監督:久次璃子ちゃんは僕の映画『地球はお祭り騒ぎ』と『普通に走り出す』と今回の『叫び声』と、すでに3本出演してもらっている女の子になります。
 
矢田部PD:ミューズですね。
 
監督:そうですね、僕たちの映画のミューズといえる存在で、もともとは渡辺雄司が栃木県でやっているピアノ教室の生徒さんが久次璃子ちゃん。璃子ちゃんのお兄さんが久次啓太くん。で、璃子ちゃんのお友達が須戸奈々香ちゃんです。僕は人を見つけたらすぐ映画に出演してくれ、と頼むところがありまして。彼らにお願いして出演していただいたという形です。
 
矢田部PD:今回の作品の、映画内映画について簡単に解説していただけますか。
 
監督:実は次の映画もほぼ完成しておりまして、その主人公がこちらの3人になります。それが『叫び声』とちょっとリンクしていて、彼らに出演していただいているという形です。
 
矢田部PD:改めまして『叫び声』の話を伺っていきます。3年前に撮られた映像を基に、新たな視点で編集し直して今回完成させたと伺いました。どの時点で『叫び声』というタイトルが決まっていったのでしょうか。
 
監督:『叫び声』という作品の、主に養豚場のシーンというのは、実は3年前に『プールサイドマン』と同時進行で撮影を行っていたんです。
『プールサイドマン』はその年に編集して作品として完成させることが出来たのですが、『叫び声』のもとになった養豚場の映画というのは僕が編集を終えることが出来なかった作品で、ちょっとこれはもう世の中に出ないんじゃないかというような素材として家の中に3年間眠り続けていた作品です。僕たちの映画にすべて出演していた平山ミサオという祖母が102歳で今年の8月に亡くなりまして。その時にふと、眠っている豚の映像をですね、いじくり始めました。その時はもうおばあちゃんの元気が無くなってきたという、自分の個人的状況もあるんですが、心が落ちつかなくて他に何も出来なかったので、この作品を編集しようというふうに進めていったのが『叫び声』ということになりますね。
 
Q:『叫び声』というタイトルと豚の鳴き声としゃべらない男と入れ歯が捉え方によっては声を剥奪されているみたいに思ったんですけど、相関関係はありますか。
 
監督:『叫び声』はこの映画を作っているときに何となく自然に浮かんできた言葉をタイトルにしました。僕の映画というのは個人的な事情とか感情みたいなのがかなり反映されることが多いことが特徴の一つになっているのですが、『叫び声』という作品はすごく元気だったおばあちゃんがちょっと弱っている、という話を聞いた時に作っていた作品で、こんなに落ち込んだことないな、という時期に編集していた作品で、僕個人の叫び声でもあるし、人間すべての叫び声でもあったり、豚の叫び声、生きているもの、生命の叫び声、自然そのものの叫び声。非常に大きなものを捉える意味で『叫び声』というタイトルにしたという経緯があります。
 
矢田部PD:入れ歯のご指摘は気付かなかったのですが、入れ歯と声というのは何かメタファー的なつながりは意識されたんですか。
 
監督:僕はおばあちゃんと一緒に生活している時、おばあちゃんの入れ歯を毎日磨いていて、メタファーというより僕の実生活からきている表現ということになります。
 
Q:反復する生活を描きながら、雨が降っている日があったのがすごく良かったと思うんですけれども、あれは狙った雨なんでしょうか。それともたまたま雨だったんでしょうか。
 
監督:あれは雨待ちをしていたわけではなくて、たまたま降りました。僕はすごく雨男らしくて、僕が東京来るときは必ず雨が降るというのがあって。本当に狙ったわけではなかったんですが雨が降ることを望んでいました。生活を淡々と描く映画なので、雨が降ったり強い風が吹いたりしたら絵の変化があっていいなって言うのは思って撮ったんです。カメラマンは方又玹(バン・ウヒョン)っていう韓国人の多忙な男でして、スケジュールが決まっている中で天気の変化がなければ諦めるしかなかったんですけれども、この撮影期間中は雨が降ってくれました。
 
Q:出演された3人に聞きたいんですけれども、自分が出た映画についてどう思われたのかと、監督ってどういう方ですか。
 
監督:これは重要な質問ですね(笑)。
 
久次璃子さん:今の映画では豚がとても可愛かったです。監督はいつも優しいです。
 
監督:この回答は脚本ではありません! ありがとう、璃子ちゃん。
 
久次啓太さん:監督は面白い人です。今の映画を観て思ったことは・・・特に思いませんでした。(場内爆笑)
 
監督:ちょっと。ちょっとまずいな。菜々ちゃん最後。
 
須戸菜々香さん:監督は優しいです。この映画を観て、色々な音が出てきて楽しかったです。
 
監督:ありがとう。啓太はあとでちょっとね。(場内笑)
 
Q:3年前に撮った映像を復活させて、今どういう風に思われているのかということを教えていただきたいです。
 
監督:僕たちのフィルモグラフィーというのは長編6本あるのですが、『そして泥船はゆく』という渋川清彦さん主演のコメディ映画は非常に評判が良くて、皆さんゲラゲラ笑って喜んでくれたのですが、第2作目の『七日』という映画は大問題になりまして、『泥船』みたいな面白いコメディ映画を作った人間がこんな何も起きない映画を撮りやがって、みたいな状況になりました。僕は批判をされればされるほど、批判をされたことをやってやろうみたいなことを思うところもありまして。だから『プールサイドマン』というスリラー要素みないなのも混じったコメディと、今回のような日常描写の『七日』パート2の準備も進めていたということです。ただ、撮影はしたのに、なぜか当時編集を終えることが出来なくて、3年間別の映画を作り続けてようやく完成させることが出来たのが『叫び声』という作品になります。
 
Q:音楽がすごく重要な作品だと思うんですけど、今回特に雄司さんと音楽についてディスカッションをしたシーンがあれば教えてください。
 
渡辺雄司さん:今回の和太鼓を使った音楽というのは結構リズミカルにしたんですけれども、もともと最初に出した音楽っていうのはもっとリズムが全然ない、もっと分かりづらい音楽でした。それを合わせてみたら、面白いけどこれはちょっと分かりづらいということになりました。その次に作ったのが(作品で)使われている音楽になりますね。音楽の話に付け加えて言うと、さっきおばあちゃんの話が出ましたが、あそこまで感情的に気分が滅入ったっていうことがなかったんです。おばあちゃんっていうのは両親が仕事に行っているときには僕の面倒を見てくれて、ある意味父親母親みたいなところもあって、そういう人がもしかしたらいなくなるかもしれないっていう、毎日毎日本当にしんどくて。そういう中で書いたので、ああいう音楽になったのかなっていう感じはします。
 
矢田部PD:最初の音楽バージョンは何がしっくりこなかったか覚えていらっしゃいますか。
 
監督:そうですね。しっくりこなかったわけではないんですが、ちょっと前衛的なアバンギャルドかな、みたいな。もっとわかりやすい方がいいんじゃないのかな、と思ったのはありますね。雄司が作った音楽の中でも特に困惑的な音楽を作ってくるなって思ったんですけど、ちょっと今回はどちらを選択するか迷ってこちらにしたという感じですね。
 
渡辺雄司さん:ディスカッションって意味では僕が音楽を書くまでにディスカッションが行われるっていう事もあるんですね。それは普段の日常会話の中からこういう音楽がいいんじゃないか、というのをだんだん吟味していって、僕も現場を手伝って。今回は結構編集していくうちに音楽がだんだんと自分の中で出てきてこういうものが仕上がってきたなと思いました。音楽を書くまでの時間の中でもスコアを書いているってことが、僕の中では結構重要だと思っているので。それはもう僕の頭の中にしかないですけど。それをだんだんまとめていく作業に至るまでが結構長いかな、って感じがしますね。
 
矢田部PD:反復の中で音楽がつくところと、つかないところというのがまた見事な演出になっているわけですが、その判断は監督がされるのですか。
 
監督:基本的にどこでつけるかというのは僕が判断をします。もちろん雄司に相談をしながら、っていう形になっています。
 
渡辺雄司さん:音楽をつけるときって、おそらく今回の音楽は色んな箇所で使える。逆に言うとピンポイントでしか使えないっていう音楽は、ディスカッションをしてまた新たに変えてくっていう手法をとりますね。
 
Q:シューベルトの音楽を使うのは割とすぐ決まったのでしょうか。他の音楽と合わせて試行錯誤はあったのでしょうか。
 
監督:まずシューベルトは僕にとって非常に特別な音楽家だと思っていて、僕はシューベルトは、何ていうのかな、官僚的な音楽家だと思っていて、すごく好きっていうことがシューベルトを使った理由の一つです。あとは、見た目のちょっと荒々しいイメージと対極にあるような美しい音楽という意味で選択したということもあります。
 
渡辺雄司さん:僕は今34歳なんですけど、シューベルトっていう作曲家は31歳で亡くなっていて。彼の音楽っていうのは晩年に行けば行くほど命に対する希望みたいなものがありつつも絶望的なところに感動してて、すごく絶望的な気分になったりするんですけど、そこが結構シューベルトの意味を込めて使ってるっていうのはありますね。あと、今回ちょっと違うのは、今までの作品ではラストに曲がかかるんですけど、今回は音楽を無しにしようというのは結構すんなり決まりました。いつもだとラストはやっぱり音楽があったほうが映画的じゃないかなと思うんですけど、今回は音楽をつけないと言われた時にすごくすんなりいくな、いいなと思いました。
 
矢田部PD:最後に告知と締めの言葉をいただけますでしょうか。
 
監督:『叫び声』のポストカードを配っています。今日もお配りするんで受け取っていってください。あと足立 紳監督の『喜劇 愛妻物語』という素晴らしい映画に、なんと出演させていただいておりまして。今年渡辺のコメディを観られなかったっていう方は、足立さんの新作に出ていますので公開が決まりましたら是非そちらも行っていただきたいなと思います。本当に、僕、この作品に出演できて光栄だったなっていう、大傑作なので是非よろしくお願いいたします。

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