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2019.11.02 [イベントレポート]
「主人公とは、全部違いますし、全部似ています」11/1(金):Q&A『花と雨』

花と雨

©2019 TIFF

 
11/1(金)日本映画スプラッシュ『花と雨』上映後、土屋貴史監督、笠松 将さん(俳優)をお迎えしてQ&Aを行われました。
⇒作品詳細
 
Q:監督、今回が初めての長編作品で脚本もご自身で書かれてますけれども、大体いつぐらいから書き始めて、どうしてこれを映画にして撮りたいと思われたのかというのを教えてください。
 
土屋貴史監督(以下、監督):もともと、降って湧いたような話で、映画にしてもらえないかっていう感じで始まりました。それが2017年の9月ですね。
 
Q:笠松 将さんは、この作品のオーディションを受けられたのですか?
 
笠松 将さん(以下:笠松さん):もともとヒップホップのカルチャーが好きで、曲もたくさん聴いてました。SEEDAさんの『花と雨』が映画化するし、オーディションがあると聞いて、オーディションを受ける段階で、主人公役には条件が合わなくて無理だと思ったんですね。身体的な特徴だったりとか、英語を喋れなきゃいけないとか、短髪にしなきゃいけないとかあって。でも別に主人公だけが映画じゃないんで、SEEDAさんを囲むメンバーたち、錚々たる人たちの役をやれるならと思って。受けてみようと。
でも、オーディション会場の住所が聞いていた場所と違ったんですよね。僕、遅刻していったんですよ。
本当にどうなってるのかなって、北と南を間違えていて、僕は遅刻をしてから、お芝居をやったんですな。その時に、わかる人はわかると思うんですけど、相手役の方が猿のマークがついてるブランドの洋服を着てたんですね。それを(内容に合わせて)わざとやってると思ったんで、ちょっと突っ込んだんですよ。でも全然わざとじゃなくて、変な感じになって、スベるというか(笑)。
もちろんですけども、セリフは覚えて行ったんですよ。1回だけそれをやったら、プロデューサーみたいな女性の方が、監督に「何かありますか?」と聞いたら、監督は「大丈夫」という感じで。色々とあったので、はぁーという感じだったんです。悔しいですよね。悔しかったんですけど、電話が来て、(オーディションに)受かって、主演と言われて。なんか2回嬉しかったです。
 
Q:今のは、笠松さんからの視点からでしたが、監督から見てどうでしたか?
 
監督:本当に嘘がなくて、フワッと来て、最後にキレて帰るという(笑)。めちゃくちゃだなと思って。「ふざけんなよ」とか言うんですよ。「ふざんけなよ」と言って、ドアをバタンと本気で閉めて帰りまして。その行為が主人公そのものだなっていう感じがあって。別にそれがいいって言ってるわけじゃなくて、オーディションの時のお芝居が圧倒的に良くて、これ以上他の人を見る必要はないかなと思って、「僕はもう大丈夫です」と言ったつもりだったんですけど、そうしたらキレて帰るという。もうこれはこの人で大丈夫だなと。現場でも多分同じようになるだろうし、この不安定さというか、そういうものまで含めて、それを活かしたら、もしかしたら結構いい感じになるんじゃないかなという賭けみたいなものです。
 
Q:現場ではいかがでしたか?
 
笠松さん:僕は基本ヘラヘラしているんですけど、怒ってましたか?怒ったりとかなかったですよね。
 
監督:しょっちゅう。まずふてくされ始めて…
 
笠松さん:違う、違うんすよ。
 
監督:意図があるんだよと言っても、「(ふてくされた感じで)はい」みたいな(笑)。
 
笠松さん:でも、映画という一つのものを作る上で、部署というものがあるわけですよ。僕は俳優部の意見というか。他の部はすごくピースで、本当に平和にやっていたので。
 
Q:仙人掌さんに教えてもらったってお聞きしたんですけど、実際にどれぐらいの練習をしたのでしょうか?
 
監督:本人たちの自主練はわからないですけど、結構やってたと思います。ちょいちょい協力してもらってる部分があって。
 
笠松さん:5ヶ月ぐらいなんですかね。もちろん毎日ではないですけど。例えば、最初は自分で撮ってみて、こんな感じですと送って。最初は、おだててくれるんですよ。「めっちゃいいすっね」、「笠松さん、やばいっすね」という感じで、めちゃくちゃ褒めてくださるんですよ。ちょっと自分も調子に乗っていたら、「自分で歌詞を書いてみたりすれば」とか、「どこに気持ちを乗せたらいいか分かるようになる」とか言ってくださって。でも最後の1ヶ月ぐらいは、技術的なこと、「ここで止めてこっちに行けばラップにキレが出るよ」とか、SEEDAさんの癖とかも仙人掌さんはめちゃくちゃ理解されているんで、そういうのとかも聞いてという感じになりましたかね。深夜に電話させてもらったりとか、ご自宅に伺わせてもらったりとかして、いろいろ話しましたね。ラップ以外のことだったりとかも。
 
Q:映画の中の歌詞も仙人掌さんが書かれているんですか?
 
監督:それぞれ手分けして、下手な部分は僕がやって。彼(笠松さん)に関しては、SEEDAさんが書いていて、その周りの上手い役回りの人に関しては削った部分もあるんですけれど、そこは仙人掌さんが書かれています。
 
Q:上手い方が書く歌詞と、そうじゃない方が書くラップっていうのは、何が一番違うと思いますか?
 
監督:歌詞というよりかは、態度とかそっちのことが大きくて、役者さんはラッパーというか態度を売りにするので、器みたいなことのほうが大きいので、そこが違うのかなと。
 
Q:笠松さんはどうですか。上手いラッパーって何が違うのかなって思いますか?
 
笠松さん:花沢将人さんとバトルをしたシーンがあったんですけど、そこは僕が歌詞を書いているんですよ。ほんとに感想文みたいな詩を一応書いて。「笠松くんが演じる吉田があいつに言いたいこと、ムカつくことを書いてよ」とSEEDAさんに言われて書いてたんです。それのいらないところを取って、足すものを足してできたのが、あれなんです。僕の個人的な意見ですけど、どのジャンルでも上手い人とか、レベルの高い人って、引き算が上手いと、そういう風に思いましたね。
 
Q:色の扱い使い方やビジュアルがすごく綺麗で、このポスターでもあるように赤と青で、ビジュアルや色へついてのこだわりを教えていただけますか。
 
監督:専門用語でいうとカラーグレーディングというんですけど、映写環境で観たりとか結構いろいろやっていて、撮影のときの照明でいろいろやっていて。バトルのあとに負けた瞬間の廊下や、主人公の感情が、ただ廊下を歩いているだけなんだけど、顔にオレンジと青と相反する要素を入ってくると、何も言わなくても混乱しているんじゃないかとか、そういうのが伝わるんじゃないかなって。照明の方と一緒に作ってったり、カメラマンの方ともずっと一緒にお仕事させてもらったりしている人なので、追加でこういうトーンにしようとか、結構議論して作り上げていきました。最後の色味を調整する方向性は、映画『ムーンライト』の色味を参考にしたりしました。
 
Q:作品の中でいろいろなラッパーの方をモデルにしていたような感じがしましたが、誰をモデルにしていたのでしょうか?
 
監督:詳しく言うとまずいような気もしますが、今回、話を作ってる中で、狂言回しのような人も必要だなと思って、役名はSEEDAさんが「これにしろ」という感じでつけてくれました。あとは駄洒落みたいな役名も入っているので、何となくつかんでいただけると思います。
 
Q:撮影は手持ちカメラが中心になっていたのかなと思ったのですが、それの意図とか、理由を教えていただけますか?
 
監督:やっぱり本人にどれだけ近寄るかみたいな題材なので、手持ちがいいんじゃないかなというのが最初で。手持ちだと、どうしても臨場感が伝えやすくて、カメラワーク的にもその役者さんの反応に対してレスポンスができるので。結構手持ち中心にはなっています。もちろん、たまに手持ちでないシーンとかは要所要所で使って、そのコントラストも出しやすいかなという意図だったりします。
 
Q:吉田というキャラクターは自分と似ているとこと違う部分って?
 
笠松さん:もちろん、全部違いますし、全部似ていますというか。皆さん、そうじゃないかなと思うんですけど、どんなキャラクターにも感情移入出来るはずなんですよ、本来。そういうところもあるし、そうじゃないところもあるし。でもこうなりたかったりとか、こうはなりたくはなかったりするわけで。もちろん、僕自身も葛藤してますし、これでいいのかなって常に迷いながら選択をしていました。やっぱり演じていて、すごく精神的にしんどいシーンとかもあって、ほんとに、このシーン撮りきれるのかなみたいな。段取りをして、お芝居を見てもらって、テストでどうやって撮るかっていうふうな動きの確認みたいなものをしてから本番に入るんですけど、それを1台のカメラで撮ってるので、何回かやるわけですよ。もちろん最小限に抑えてはくれてるんですけども、その時とかにも、ほんとにしんどかったりして時もありました。
 
Q:一番しんどかったシーンとして覚えてるのってどの辺ですか?
 
笠松さん:皆さんと一緒であれば嬉しいんですけど、このシーンかっこいいなとか、このシーンいいシーンだなと思ってくれただろうなってところは、結構大変なところが多かったですね。例えば花沢くんとラップバトルしたところも、あれ、お芝居しながら、そのままラップに入ってるんですよ。そこもやっぱり緊張もしましたし、しかも、そのまま本番だったんですよ。本当にバトルしてみようみたいな感じで、すごく緊張しました。
あとはお姉さんにあることが起きて、初めて部屋に入ったところもですね。今までノックなんかしたことないのに、ノックしたりして。泣くシーンではなかったんです。やばいと思って、こういう風になるんだと思って、監督の台本と大きく違いますから、「ちょっと…」みたいになったら、監督が「いや、それが答えだ」みたいなことを言ってくださって。
 
監督:その直前に別のシーン撮ってたんですけど、ここで感情のピークを作りたいみたいなことを言い始めて。いやいや、ちょっと待ってくれ、それはこの後にあるからって(笑)。
それが大事だからっ言って、結果あのシーンが出来て、ちゃんと自分を追い込んでくれて、その後にさっきはすみませんでしたみたいな…。結果的によかったんですけどね。
 
笠松さん:でも現場の空気も、しんどかったですよね。
 
監督:何回も撮りたくないなというぐらい、皆が入り込んでくれていましたね。
 
Q:普段、全然知らない世界を描いていて、ヘビーな内容でしたけれども、すごく印象的な映画だったなと思います。笠松さんの演技はすごくて、背中で演技ができる方で素晴らしいなと思いました。
 
笠松さん:ありがとうございます。これね、俺の話です。

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