Close
2019.11.02 [イベントレポート]
アニメ映画史を変えた『白蛇伝』『エースをねらえ!』『AKIRA』それぞれの“リアル”
アニメ映画史、 最重要変化点を語る
©2019 TIFF

第32回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション部門」の関連シンポジウムが11月2日、東京・六本木ヒルズで開催され、同部門のプログラミング・アドバイザーを務める氷川竜介氏(明治大学大学院特任教授)、アニメーション史研究家の原口正宏氏(リスト制作委員会)が登壇した。

アニメ映画史、最重要変化点を語る」と題し、第1部では今回の特集上映「日本アニメ映画マスターズ」に、『白蛇伝』(1958)、『エースをねらえ!』(79)、『AKIRA』(88)の3本を選んだ狙いと意義が語られた。氷川氏は、「(選出した作品)以前・以降で語られるような作品」を意識して選んだと振り返り、若者がアニメの歴史に触れる出発点になるよう「ソリッドに絞りこんだ」という。「アニメを単体で楽しむのも面白いけれど、歴史を知るともっと面白いと思う」と語る原口氏は、日本のアニメが劇場アニメ、テレビアニメといった制作環境の違いや、ハングリーな状況のなかで新しい表現方法が生まれたと解説する。

アニメにおけるリアリティの解釈の違いに話題がおよぶと、「『エース』では撮影技法やカッティングで“主観的なリアル”を表現していて、後年のアニメに与えた影響は大きい」(原口)、「出崎統監督は、動かさずに映画らしさを追求することに当時から自覚的だった。これは画期的なこと」(氷川)と称賛。東映動画(現・東映アニメーション)の『白蛇伝』をルーツに、宮崎駿監督と高畑勲監督が『アルプスの少女ハイジ』などで実現させた“客観的な(時間や空間の)リアル”との対比についても言及された。

一方、『AKIRA』では、意欲のある若手アニメーターたちがカメラのレンズや人間の関節を意識した“作画のリアル”でディティール描写の基準を更新。90年代の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(押井守監督)や今敏作品はその流れのなかにあることが、原口氏の作成したスライドを映しながら説明された。氷川氏は、アニメのリアリティを考えることは「どうやって(アニメを)映画にするかと考えるのと同義で、不可分な問題」と述べ、「日本アニメ映画の到達点」として選んだ5本(『海獣の子供』『きみと、波にのれたら』『天気の子』『プロメア』『若おかみは小学生!』)は、その回答として見ることもできると選出の意図を明らかにした。

第2部には、『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカのものまねで知られる芸人・タレントの桜 稲垣早希がゲストとして参加。和やかな雰囲気のなか、『エヴァ』や、アニメの制作現場を描いたテレビアニメ『SHIROBAKO』の話に花がさき、原口氏が稲垣に“マニア道”への入り口を解く一幕も。現在妊娠中の稲垣は、「普段見ているアニメを、作り手が葛藤しながら作っていることが知れて、改めてアニメに感謝する日になりました」と述べ、「生まれてくる子がどんなアニメを見るのか楽しみです」と感慨深そうに話していた。

第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。

■動画「アニメ映画史、最重要変化点を語る」
オフィシャルパートナー