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2019.11.02 [イベントレポート]
「私が描きたかったことは日常が崩壊していく過程」11/1(金):Q&A アジアの未来『失われた殺人の記憶』

失われた殺人の記憶

©2019 TIFF

11/1(金)アジアの未来『失われた殺人の記憶』上映後、ゲストにキム・ハラ監督(監督/脚本/脚色/エグゼクティブ・プロデューサ-)、ムン・ダウンさん(脚色/女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
キム・ハラ監督(以下・監督):みなさんこんにちは。私の初めての映画を一緒にご覧いただきましてどうもありがとうございます。皆さん楽しんでいただけましたでしょうか?
 
ムン・ダウンさん:ご招待いただき、そしてみなさんには映画をごらんいただき、どうもありがとうございます。私はこの映画の中で、バーの従業員の役で出演しております、そして脚色も担当しました、ムン・ダウンと申します。
 
Q:こういう設定だと『メメント』とか『逃亡者』とかシリアスなトーンでやる映画が多いと思いますがコミカルなトーンでまとめられたのはどうしてでしょうか?
 
監督:私がこの映画にブラックコメディの要素を入れた理由は、それはどうしても真犯人は誰なのか、殺人犯は誰なのかということを追いがちなんですけれども、でも私が描きたかったことは家庭が崩壊していく過程であり、その真実の中に日常が崩壊していき非常に悲しい物語があります。その点をスリラーという形の中に入れたいと思ったんですね。そのためには、サスペンスの要素を強めるよりも、ブラックコメディを入れたほうが、日常を描きやすいというふうに思いまして入れることにしました。
 
ムン・ダウンさん:今、監督もおっしゃっていましたように、どうしてこうなってしまったのかというその過程の方に重点が置ければと思いましたので、ルーズになりがちなところに、ユーモアが入っていると心が浄化されるような気持になりますし、少し休めるような気持にもなっていいのではないかなと思います。私自身も撮影していた時よりも、出来上がった映画を観てさらに面白いなというふうに思いました。皆さん一緒に笑ってくださってどうもありがとうございます。
 
Q:ムン・ダウンさんは脚色をされたという事なんですけど、どんな風にお仕事をされたのか少し教えていただければと思います。
 
ムン・ダウンさん:脚色は私一人ではなくて監督と一緒にしたんですけれども、これは原作のある作品でして、ウェブ漫画でした。まず最初にそのウェブ漫画をシナリオ化する作業を始めました。切ってはまた次を読み、また切っては次を読むいうぶつ切りの形式なのがウェブ漫画で、それを映画に置き換えるという作業が必要でした。映画というのはもちろん座ってみるわけですので、ぶつ切りの漫画とはまた違うわけですよね。ですので、一つずつこう区切られていた漫画をつなげていくという事に気を使って脚色をしていきました。そして内容に関しては、相談しながら一緒に作り上げていきました。
 
監督:元々の原作のウェブ漫画というのが、非常に短い作品だったものですから、削除することはたくさんはありませんでした。原作の大枠、大きな軸はそのまま持ってきまして、そこに日常の場面を今の時代に合わせたような形で、色々と付け足していったんですね。その例としましては、警部補がお金を持って行ってしまうというシーンがあったと思うのですが、そのくだりとか、彼がなぜお金に困っていて持って行ったのか、そういうあたりも新しく入れた所です。そしてまた、結末の所のシーンもまた新たに付け加えたものです。漫画のほうは短かったので、特に排除する部分はなくて日常の部分を付け加えて脚色をしたということになります。
 
Q:監督がこの映画を作るまでにどんな経歴で、この映画を作る経緯を教えてください。
 
監督:私自身映画監督になるのが夢でした。けれども、その夢を持ったのが20歳の時でした。それからもうかれこれ24年経った今、この場所にいて第一歩を踏み出したところなんですけれども、その間ずっと映画は撮りたいと思っていました。でもドキュメンタリーのプロデューサーを務めたり、それから広告会社に務めたりしていまして、でもその中でもやはり5年くらい前から私の作品を作ってみたいと思って、本格的に始めることになったんです。その時に、どんなコンテンツで自分の作品を撮ろうかと考えた時に日常の物語を作りたいと思いました。つまらないお話ではなくて、スリラーの構造の中に日常生活を入れて映画にできるのではないか、怖いお話ではなくて、そのスリラーという形式の中に日常を掘り下げるような、そんな作品が出来るのではないかと思いました。そしてもう一つ、一日一日どうして私たちは毎日辛い思いをして生きているのだろうか、というそういうことも含めて作品を作ってみたいと思っていました。その矢先にこの作品の原作となった漫画を見つけました。これだったら私の考えと合うなと思いまして作品化することになりました。
 
Q:監督のキムさんは、40歳半ばになるまで別のお仕事をしていたのですか?
 
監督:はい。全く違う畑の仕事ということではなかったのですが。コンテンツとしては同じなんですけど、商業的なもの、コマーシャルなものや広告などを撮っていました。
 
Q:なぜあの終わり方にしたのかを伺いたいです。
 
監督:なかなか時代が誠実に生きるということをさせてくれなかったという背景があると思うんです。なのでそういった、時代背景の一部も描きたいと思ってあのシーンにしました。原作にも若干少し似てはいる部分はあったんですけれども、もう少しそういう部分の解釈をつけ加えたいと思いまして、このようなラストにしました。どうもありがとうございます。
 
Q:キャストに関する質問です。俳優の方々をどのような経緯でキャスティングすることになったのでしょうか。
 
監督:イ・シオンさんは韓国ではバラエティ番組に出演しているのですが、今回の役柄はそのバラエティに出ているときの彼の姿とはがらりと違うものでした。しかし彼なら人の日常的な姿を描くこの役をうまく演じてくれるのではないかと思い、キャスティングしました。日常生活の中で一人の人がどんなふうに姿を変えていくかをうまく見せるために、ピッタリの俳優はイ・シオンさんしかいないと感じていました。またアン・ネサンさんについてですが、今回の役はあまり重くなりすぎずナチュラルにブラックコメディの要素を入れたり、一方で正統派の映画としての要素を織り交ぜたりしなければならない。そうしたバランスの取れる俳優は彼女しかいないのではないかと思いオファーをしました。またわたくしとしては二人の俳優の化学反応のようなものも期待してキャスティングをしたのですが、そうしたあたりも観客の皆様に気に入っていただけたら嬉しいと感じています。
 
Q:ムンさん、普段は俳優と脚色の仕事のどちらを重点的にこなしていらっしゃるのでしょうか。
 
ムン・ダウンさん:私は女優の仕事を始めてから日が浅いのですが、もともと作家になり、その作品の中で自身が役柄を演じてみたいという夢を持っていました。大学でも物語を作るためのコースを選ぶなど作家としての勉強を積んでいたのですが、そうした創作活動に関わる中で、自然と私自身が演技をするという機会も増えていきました。そして今回の作品は、自分の作った物語の中で自分が役柄を演じる、という以前からの夢を叶えることができた作品になります。今は演技を磨き女優としてのキャリアも積む一方で、自身のオリジナルの脚本を作っていくことも並行してやっていきたいと考えています。
 
Q:最後に監督から現在のお気持ちを簡単にお話しいただければと思います。
 
監督:私の気持ちを紹介する前に、この映画がこの東京に来るまでに一緒に苦労した仲間が今日は来ているので、彼らに大きな拍手をお願いします。またこうして仲間と一緒に作品を東京の皆さんに紹介できることを心から嬉しく思っています。そして観てくださった皆さんとこうしてQ&Aセッションでコミュニケーションをとれたこと、それ自体が私にとっての素晴らしい監督としてのスタートであり、大きな第一歩となりました。ありがとうございました。

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