11/1(金)ワールド・フォーカス Powered by Aniplex Inc.『私たちの居場所』上映後、コンデート・ジャトゥランラッサミー監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
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コンデート・ジャトゥランラッサミー監督(以下、監督):本日は映画をご覧いただきありがとうございます。東京国際映画祭に戻ってこられて、とても嬉しいです。ありがとうございます。
矢田部吉彦PD(以下:矢田部PD):2015年の第29回TIFFのコンペティション部門に出品された『スナップ』もそうでしたが、監督は青春映画を美しく非常に描くことに更に磨きがかかったなと、この作品を観て感じました。BNKのメンバーを起用して今回の青春映画を撮るに至ったいきさつから教えていただけますか。
監督:話が少し長くなります。実は去年BNK48の社長と話をして、メンバーが出演する映画を作ってほしいと言われました。どんなジャンルでもいいけれども、メンバーの可能性を引き出せる作品にしてほしいと言われました。
ストーリーは自分が一番悲しかったなと思う去年の経験を反映しています。去年、母がガンになりました。そして、私の双子の娘たちは思春期に入りました。これまで母とは別居していたんですけど、病気をきっかけに兄弟を代表して私の家で看病することになりました。幸い病状はかなり良くなっています。ですが、去年は1分ごとにすごく悲しい気持ちになりました。もう一度母のことを見つめ直す機会があり、母は自分の人生で一つも自分で選択をしていないということに気がつきました。
そして、娘たちは15歳で思春期の真只中です。いろいろ自分の人生に疑問を持ち、疑問も増えてきました。例えば、タイの大人たちがやっていることを見て…。ニュースをご覧になっている皆さんはおわかりかと思いますが、タイには選挙は一応ありますが、ないようなもので、政権を軍事政権が握っています。そうした状況や娘たちを見ていて、自分たちの国の将来、彼女たちの将来がすごく気になるようになりました。娘たちはタイの国民というよりは世界の一員なのだというように考えを巡らせたことで、この映画のインスピレーションを得ました。若者たちがSNSで国について不満を書き込むと、だいたい年配の方からこの国にいなくていい、出ていっていいと書かれてしまうんです。確かに若者たちはこの国にいたくないと思っているかもしれません。
矢田部PD:デリケートなお話まで話してくださって、ありがとうございます。BNK48は日本と同じようにタイでも人気があるのかということと、キャスティングは総選挙のようなもので決められたのかどうかを教えていただけますか。
監督:選挙はしていないです。もともとあらすじを書き終えていまして、キャラクターに近い人をオーディションに送ってもらうように頼みました。実はこの映画を撮る前、BNKのメンバーはすごく多いので、誰が誰だか全くわかりませんでした(笑)。ですから、興味深いと思った人をリサーチしました。普通のオーディションと違って、私は一人ひとりとじっくり話したので、時間がかかりました。話をしているとき、彼らは何かを演じるのではなく、素のままをさらけ出していました。そうした話をしているときの態度を見て、彼女たちは人生の問題解決をどのようにしているのだろうか、何が不満なのだろうかと内面を掘り起こす作業をしました。選考している最中にジェニス(スー役)とミュージック(ベル役)に会って、私はこの2人だと思いました。ほかの子よりも長めに話を聞きました。話をしている間に涙ぐんだりすることもありました。特にジェニスの顔は悲しげな部分があり、スー役にぴったりだと思い決断しました。
Q:YouTubeで、スーとベルの出会いの話や、映画のその後を描いたドキュメンタリーが公開されているのを観たのですが、タイ語だったため、どのような内容かわかりませんでした。内容をお教えください。
監督:実は2つのショートムービーはスピンオフ作品です。タイトルが『Me Before We』というショートムービーは、本作の2年前の出来事を取り上げており、スーとベルがどのようにして出会ったかを描いています。そしてなぜベルがあれほどスーを好きなのかということもこのショートムービーを通じて理解いただけるかと思います。もう1つのショートムービーは『Stratosphere』というタイトルで、作中のバンドの名前からとっています。モキュメンタリー形式(フィクションに基づいて作られるドキュメンタリー風表現手法)で製作されており、本作の後の出来事を描いたものです。コメディタッチで、解散の危機にあるバンドがチャンタブリー州(注:映画の舞台)でいかに有名であるかを人々が大げさに話すところを撮っています。そのため映画のビフォー、アフターのショートムービー2作をご覧いただくことで、本作の世界観が完結すると思います。ただ残念ながら予算の都合上、英語や日本語の字幕を付けられなかったため、語学力のある方がいらっしゃれば字幕を付けていただけると大変ありがたいです。世界の多くの方に見ていただければと考えています。
またエンドクレジットの曲は書下ろしですが、ベルのスーに対する気持ちを表したもので、スーに幸せでいてほしいという心情が歌詞になっています。もし将来上映されることがあれば、本作のエンディングソングにも字幕を付けていただけるとありがたいです(笑)。
矢田部PD:監督は触れておられませんでしたが、エンディングソングは監督自身の作詞作曲によるものです。
Q:『タン・ウォン~願掛けのダンス』では、4人の若者を通じて現代のタイ社会を理解することができました。スーの行動について、特にスーの母が「ここは居場所ではない」と言っていたのは文化的背景があるのでしょうか。
監督:文化的背景というよりは、気分的なものが大きくスーの行動に影響を与えているという理解のほうが正しいかもしれません。自分の今いる場所や故郷が、実は自分のものではないという感覚です。私自身も、世界中のどこにも居場所がないような気がしているのですが、自分の娘たちにはそうあってほしくないと考えています。ただこうした傾向は、特に若者の間で強いのではないかとも思っています。特に大人が作った窮屈な社会の中で、やりたいことを口に出せないことも多いからです。
Q:スーとベルの口元の動きが印象的でした。あれは実際に彼女たちの仕草から取り入れているのでしょうか、あるいは監督が演出されたのでしょうか。
監督:私がジェニスの演技指導をした時は、彼女の顔の表情にどういう特徴があるかを見ながら、自分のやりたい演出と組み合わせていきました。リハーサルをしながら、ここはやり過ぎ、ここは足りない、ここの動きはちょっと自信がなさそう、などと調整して、役者との共同作業を行いました。役者一人ひとり体の形が違っているので、それぞれ自然な表現も異なると思います。そこを丁寧に観察して、演出していきました。
Q:ジェニスもミュージックもBMKの中ではとても人気が高いメンバーです。ただ、アイドルとしては非常に人気があっても、俳優としては未知数な部分が多かったと思います。今回一緒に仕事をして、演技者としての2人は監督から見てどうだったでしょうか。
監督:BMKのメンバーで映画を撮ると話した時、内心は本当に欲しい人材が来るのかなと疑問に思っていました。しかし、実際会ってみるとすごく素晴らしく、気が楽になりました。もともと、私は新人の俳優を使うことを特に気にしないし、どちらかというと新人を使う方が好きなんです。例えば、これまでの『タン・ウォン』、『P‐047』、『スナップ』でも新人俳優を起用しています。新人俳優のフレッシュな演技がとても好きなのです。プロの役者を選ぶと、演技がパターン化していて、演出しづらいのですが、新人だと直しやすいです。ジェニスとミュージックの2人は違うタイプなのですが、素晴らしい才能を持った役者だと思いました。特にジェニスには天賦の才能があって、少し言っただけで調整することが可能でした。ミュージックは正直、演出しづらかったのですが、彼女自身が持っている自然な演技というものが私にとってサプライズでした。2人と撮影することはとても幸せなことだという気持ちで撮影に臨みました。
矢田部PD:個人的な質問で申し訳ないのですが、ミュージックちゃんの大ファンになってしまいました(笑)。今後、彼女自身は役者をやっていこうという思いはあるのでしょうか。またスクリーンで観ることはできるでしょうか。
監督:タイで映画が上映された後、ミュージックはテレビドラマに出演することになりました。でもその役を演じるよりはアイドルの方が好きなようですね。ジェニスは役者をやりたいそうです。ただ、私はミュージックをこのまま放っておこうとは思いません。やはり彼女の才能を信じているので、ミュージックが信じてくれるなら、別の作品にも出て欲しいなと思っています。
Q:バンドのメンバーはとても興味深くて、素晴らしいキャラクターを持ったメンバーを選んだなと思いました。この選考にあったって、なにか監督が思うことはありましたか。
監督:ステージ上でアイドルをしている時は、彼女たちの人間らしさに触れられないのですが、先ほど申し上げたように一人ひとりとじっくりと話をした時に彼女たちの自然な人間らしさとか、普通の若者の部分や魅力的な部分を発見することができました。可能性を感じる子は何人もいたのですが、今回はそれぞれのキャラクターに合う役ということで選びました。BMK又はアイドルをすることは若者にとって楽なことではないと思います。普通の人よりも特別な経験をしていて、普通の人とは違う深い悩みを持っています。AKB48がどうなのかは知りませんが、BMK48と仕事をできたことはすごく特別な経験でしたし、機会があればまた一緒に組んで作品を作りたいです。