シネマ歌舞伎の魅力を語った松本幸四郎
松本幸四郎(10代目)主演の『
シネマ歌舞伎 女殺油地獄』が11月2日、第32回東京国際映画祭の特別上映作品としてTOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、幸四郎が舞台挨拶に立った。
同作は、油屋の放とう息子・与兵衛が借金苦の末、同業者の女房・お吉を殺して金を奪うという近松門左衛門作の世話物で、歌舞伎でも人気の作品。今回は、今年7月に行われた十代目松本幸四郎襲名披露公演を映像化した。シネマ歌舞伎が東京国際映画祭で上映されるのは初めてのこととなる。
幸四郎は「生の舞台とは全然違う、映像でないと見られない歌舞伎をぜひ楽しんでほしい」と挨拶した後、「シネマ歌舞伎は実際の上映を撮影し、それにさまざまな手を加えて映像作品に仕上げたものだが、今回は実際の上演とは別に観客がいない状態でシネマ歌舞伎用に撮影した」と裏話を披露。中でも、クライマックスの場面では「お吉と与兵衛の息づかいや着物がすれる音なども録音したい」ということで、舞台の上に3~4台のカメラが上がり、観客の反応はもちろん無音の状態で撮影したという。
司会を務めた笠井信輔氏が「感情の入り方も違うのでは?」と聞くと、「まるで映画を撮っているような感覚で撮影した」と答え、「皆さんも、最初はみんな一緒に見ている感覚だが、後半にいくにつれひとりで見ているような感覚になり、終わった時は映画を見ていたような、不思議な感覚になるのではないか」と舞台との違いを語った。今回、幸四郎は編集にも携わっており、演出について監督と話し合いながら仕上げていったと言う。
「女殺油地獄」は実際に起きた事件をもとにして作られたといわれており、「歌舞伎の中でも異色」と幸四郎。「初演のときは評判が悪くて途中で打ち切られた。その理由は、客が入らなかったという説もあれば、油屋さんが怒って、これ以上上演したら油を売らないと言われたからとの説もある。それくらいセンセーショナルな作品」と特徴を紹介。「主人公の与兵衛は本当にしょうもない男。演じるに当たって気をつけたことは?」という笠井アナの質問に、「まるで僕のような人物なので、僕のように演じるよう気をつけた」と答えて会場の笑いを誘う一方、「与兵衛は人間的に破綻しているが、それが魅力でもある。遊ぶ時も、怒る時も、謝る時も、とにかく常に100%。それを心がけて、全ての瞬間を与兵衛でいられるように気をつけた」と役作りを語った。
そして幸四郎は、「シネマ歌舞伎は歌舞伎の新たなジャンル。(今回の作品は)監督とシネマ歌舞伎の可能性について話し合ったものの1割も形にできていない。その歴史の始まりを楽しんでいただきたい」と観客へメッセージを伝え、「実際の上演よりも面白い作品なので期待してほしい」と締めくくった。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。