11/1(金)Japan Now『WE ARE LITTLE ZOMBIES』上映後、長久 允監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
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長久 允監督(以下、監督):今日は、平日のお昼という時間に、こんなにいらしていただき、とても嬉しいです。皆さん仕事などサボって来られていると思います(笑)。それにすごく合っている映画だったと思うので、おしゃべりしたり、感想をお聞きできたら嬉しいです。
あと、今日はイシ君役の水野哲志君が来ているという噂を聞きまして…。もしよかったら一言いただいてもいいでしょうか。
水野哲志さん:平日の昼間に…。
安藤プログラミング・アドバイザー(以下、安藤PA):同じこと言ってどうするの!(笑)
水野哲志さん:観に来てくれて本当にありがとうございます。
通訳:それだけで大丈夫ですか?(笑)
安藤PA:台本そのままじゃないですか!(笑)
監督:彼は本当に優秀な役者なので。皆さん拍手をお願いします。
安藤PA:この映画は世界中で話題になっており、ベルリン映画祭やサンダンス映画祭でも賞をとって、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭ではヒカリ役の二宮(慶多)君が主演男優賞をいただきました。世界36ヵ国で上映されています。
監督はいつも面白くて、素敵で可愛い恰好をされていますが、実はサラリーマンなんですよね。
監督:そうですね。本当にオフィスの端っこで「もしもし」って電話して、「今いらっしゃいませんか。またかけなおします~」ってやっています。
安藤PA:この(作品の)前にサンダンス(映画祭)で短編グランプリも取っていますが、どういうきっかけで映画を撮ろうと思ったんですか。
監督:元々僕は学生の頃映画をやっていたんですけど、賞を貰えるといったことはなかったので、そのまま広告の会社に就職をして。10年ちょっと広告の仕事をして、広告は「水が美味しい」というメッセージをどう映像に翻訳してお伝えするかという仕事なんですが、やっぱり僕自身は“伝えたいことがある”という状態でした。
映像を作りたいというよりも、僕が伝えたいことがあるんだという状態だったので、すごく苦しい時間を過ごしていて。映像の勉強はできたから、自分の思っていることを形にできないかと思って、会社をお休みして短編(映画)を3、4年前に撮りました。
安藤PA:その短編が、『そうして私たちはプールに金魚を、』です。面白い短編でした。とてもこの映画に近い感じですかね。
監督:やっぱり視点の置き方とか、物事に対し良い悪いを判断せずフラットに描いていきたいというのは、僕がずっとこれからも抱えていく前提だと思うので、共通するものはいっぱいあると思います。
安藤PA:その短編がサンダンス(映画祭)でグランプリでしたが、そのあと会社が続けていいよみたいな話はあったのでしょうか。
監督:OKをもらったというより、続きをやらせてくれと上の人たちにプレゼンして。しょうがねぇな、ということで、脚本開発からやらせていただいて。2年間かけてこの作品をやらせてもらいました。
安藤PA:これから映画の中身の話にいきたいと思うのですが、この映画はものすごく軽い感じの、ゲーム感覚のように見えて、実はものすごく哲学的です。
監督:ありがとうございます。
安藤PA:例えば始まり方が、「ママが死んだ」じゃないけど、「ママが粉になった」という火事の事故当時から来ています。
監督:それが泣けなかった話になっているんですよね。
安藤PA:ママが死んでも泣けないっていうね。それで、ある日突然ゾンビになるっていう「変身」です。劇中もカフカの城の話があります。こういう形になったのは、監督自身がそういう哲学的なことを学んでいたからでしょうか。
監督:そうですね。僕は大学は映画関係の学部学科ではなくて、フランス文学科でシュルレアリズムを専攻していたんですね。なので、その辺の概念的なことがすごく大事だなと思いながら生きていたので、それをいっぱい(映画に)投入しましたね。
あと、中学からキリスト教の学校だったんです。僕自身はキリスト教を信じているということではなかったんですけど。その辺の日常的な教育も、それに対して正しいんじゃないか、違うんじゃないかみたいなところも含めて、やはり出ているかなと思います。
安藤PA:この映画のセリフの言い方が棒読みのような形なのは、大林宣彦さんのマネですか。
監督:マネしてるというよりも…。でも大林さん、大好きですね。
安藤PA:『野ゆき山ゆき海べゆき』で、大林さんは言葉を、もっと観客に入ってほしいと思っていて、すごく言葉がシニカルですよね。
監督:そうです。まさに感情の波を感じてもらうよりも、テキストとしての全体の一連の2時間の詩だったり、詩篇としての文章や単語、メッセージを伝えるためということのほうに重きを置いてますね。
そのうえで、少年たちや登場人物に、それを一番よく伝えるために、どういう演技をさせるかっていう優先順位で、ディレクションしました。
安藤PA:大林さんの映画を継ぐ人かもしれないですね。大林さんは必ず「映画にはフィロソフィーを持っていなきゃいけない。」と言っていますが、長久監督は確かに持っています。やはり大林さんに感じるものがあってやっていますか。
監督:『花筐/HANAGATAMI』もそうですし、『HOUSE ハウス』からもそうだと思うんですけど、やっぱり大林さんの映画は、考えられる映画っていう映画が、手法は限定されていなくて、より拡張されていったときの心の反応こそが映画なんじゃないかと僕は言ってるような気はしていています。
その意志は継ぎたいなと思っています。そういう思想の監督さんたちのことを僕は本当にリスペクトして、今の時代にそういうものがあるべきだなと思って、作りました。
安藤PA:この映画は、もしかしたら長久監督の考えてること、つまり大人の考えてるものを、子供たちに言わせてるっていう感じなのでしょうか。
監督:そうですね。やっぱり、それが前面に出ないようにしようとは思ってはいるんですけど、この映画をどう機能させようかっていう動機としては、僕が考えてる「生きると、とても楽である」みたいなことが、ほんとに中心です。それがどうしてもにじんでしまうので、やっぱりそうなってしまったかなと思っています。
安藤PA:ある種の説得力が、逆にすごく出てきてる気がしますね。
監督:僕はリアルなものをリアリティーを持って、本当の出来事みたいに伝えることには、そこまで興味はなくて、寓話とか昔話とか、神話みたいなものの方が、見た人の人生に機能するんじゃないかなと思っているので。そちらを信仰しているという感じですね。
安藤PA:子供が感情移入して芝居をするよりも、淡々と監督の考えてる思想を子供に託して、彼らがそれを伝えてくれるということでしょうか。
監督:まさにそうですね。映画監督は、シナリオを書き、役者さんに彼らなりの解釈で、アドリブなどを含めて、演じてもらって、その後にカットを割ったりを、現場ですると思います。僕はやっぱりそういうことはできなくて。一言もアドリブが入っていないという状態、一言一句すべて僕が書いたものだし、撮影前に音コンテを作っていて、すべての音を撮影前に2時間で完成した状態で撮っているんです。なので、おっしゃっているようなことになります。
安藤PA:音楽とか衣装とか美術とか、長久さんの格好を見ればわかるけど、すごく独創的ですが、それはもともと興味があったのですか。
監督:もともとかわいいものとか映像とか音楽が、ずっと幼いころから好きでした。逆に今こういう格好をしているのは、やっぱり働いてから、十何年間、僕はすごくまじめに、スーツ着て、坊主で、土下座したりとかしてたんで…。
土下座はしてないか。(笑)
そのときに失われた心がすごいあって、やっぱり好きな格好をしたほうがいいんじゃないかと。娘には、そんな格好しないでって言われておるんですが。でも、そのほうが人生が輝くというか、エネルギッシュになるような気がしているので、わかりやすく三つ編みをしたりとか、そのときにかわいいと思ったものをちゃんと信じたほうがいいんじゃないかということを発したいなとも思っています。
安藤PA:とてもよくわかります。解放された感じとかね、それがこの現代の『スタンド・バイ・ミー』というような映画を作り出したんだと…。
監督:僕の、そのままでいいっていう、格好みたいなことと、伝えたいことは一緒で。自分を承認するものは、やっぱり他者じゃないし、社会じゃないし、常識じゃないし。彼らは非常識と言われるかもしれないんですけど、彼らはそういう意味で変化してないと思うんですね。頭からお尻まで。やっぱりそこが大事かなと思っております。
Q:YouTubeでPVを見たのがきっかけでした。衝撃を受けたのがワンカットでした。最後をどういうふうに撮ったのか教えてください。
監督:死んでしまわないように頑張りました。撮り方は秘密ですけどね。
Q:メイキングに入りますか。
監督:入るかもしれないですね。メイキングを実は編集中で、Blu-rayにだけ入りますので、ご購入いただけたら嬉しいです。
Q:イシくんの服に書かれた文字は、偶然なのか狙っているのかが気になりました。
監督:あれは狙っています。小道具とかすべて。あとはもう狙ってないものは入っていないという状態で作っているので、すべての要素に狙いがあると思って観ていただけると嬉しいです。
安藤PA:大林さんは、「映画は過去を形成することはできないけども未来を作ることができる」とおっしゃっています。まさに未来を作ろうとしてますよね。
監督:よく、芸術って機能がなくたっていいとか、意味がないことを認めなければならない、と言われます。もちろん、芸術の幅はそうだと思うのですけども、僕にとっては観た人との関係性で、人へ機能したくて、未来に機能したくて作っているものです。そのおっしゃっている意思を引き継ぎたいです。
安藤PA:この映画の基本は、今のこの世の中が非常に不条理な社会である、大人が身勝手なのか、大人だけではない何かが身勝手なのかわからないけど、不条理だということをずっと言ってますよね。次の映画などで、この社会が不条理なところをどう解決していくかという回答をしていただけるのでしょうか。
監督:僕としては、不条理な世の中には確実な原因があると思っていて。それを変えるのは政治とかを変えなければいけなかったり、資金繰りのシステムを変えなければいけなかったりすると思っています。
しかし、それをやるには時間がかかるから、僕の役割としてはやっぱりその不条理なものにどうやって対峙していくかです。それがほんとにシュルレアリスム概念っていう、不条理を受け入れて美しいと思うかっていう考え方だと思っています。
そういう物とかイマジネーションだとか、そういうものを体得することで、受け入れて個人個人の幸せを獲得していくために、手法をお伝えできたらなと、自分の使命に思っております。そういう社会に刺激を与えたいです。
安藤PA:ちょうど性を感じるか感じないかの隙間の少年少女にしたというのは意図があるんですか。
監督:絶対に13歳であるべきだと思って作りました。物事を、大人の社会とか常識に対して一番フラットな眼差しで物語を紡ぎたかったんです。やっぱり思春期を超えると性の問題とか意識が強くなりすぎて、その視点が偏ったりするんじゃないかと思っていて。ちょっとその兆候もあるんですけど、やっぱりその手前で対峙して、見ていく景色をお伝えすることが大事だと思いました。