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2019.10.31 [イベントレポート]
「この映画『フードロア』のスピリットはラブとフードです」10/30(水):Q&A ワールド・フォーカス フードロア・シリーズ『彼は魚をさばき、彼女は花を食べる』『Island of Dreams』

フードロア

©2019 TIFF

 
10/30(水) ワールド・フォーカス フードロア・シリーズ『彼は魚をさばき、彼女は花を食べる』『Island of Dreams』上映後、ファン・ダン・ジーさん(監督/脚本・左)、エリック・マッティさん(監督・右)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会・石坂PD(以下・石坂PD):『Island of Dreams』のエリック・マッティ監督そして『彼は魚をさばき、彼女は花を食べる』のファン・ダン・ジー監督です。
それでは、一言ずつごあいさつをいただきましょう。エリック監督からお願いします。

 
エリック・マッティ監督:皆さんこんばんは。今日はようこそいらっしゃいました。この2話楽しんでいただけましたでしょうか。私自身は大変今日ここに来れてうれしく思っております。
 
石坂PD:ファン監督お願いします。
 
ファン・ダン・ジー監督:東京の観客の皆さんこんばんは。私はまだ夕飯を食べていなかったので、この映画を観てお腹が空いてしまったんですけれども、もしかしたら皆さんもこの映画を観てお腹が空かれているかもしれません。ぜひこの後でおいしいお店に入って、おいしいものを召し上がりになってください。この映画『フードロア』のスピリットはラブとフードということなのでぜひ召し上がってください。
 
石坂PD:ありがとうございます。エリックさんはもう1本、『存在するもの』という映画も今回出品されていまして、ちょっとしたエリックさん祭りになっています。2本を観ると、テイストが違うと感じました。今回は『Island of Dreams』に限ってお聞きします。この話はどういうところで思いつかれたのかを教えてください。
 
エリック・マッティ監督:実は今回このフードロアの企画にエリック・クーさんから声をかけてもらったとき、大変僕は嬉しく思いました。なぜならいつか、食についての映画を撮りたいと思っていたからです。一番最初に思いついたのが、さてフィリピンの映画で何が普遍的であろうかと思ったこと、そして思いついたのがシエスタという習慣です。なぜならスペインの影響が強いから、そこからシエスタというのもスペインの影響が強く息づいている証ということが言えます。
そしてフィリピンの食べ方、食、シエスタを題材にしたいと思いました。それと同時に海外の観客もご覧いただいて、何か共感が持てるものというふうに考えたところ主人公を家政婦として海外に出稼ぎに行っている、働いている、または家から離れて出稼ぎしている女性にしたわけです。多分皆さんも日本にも多分働きに来ていて、家政婦だったり子守だったり、または洗濯をする人として働いている方がたくさんいらっしゃると思いますし、皆さんも多分何人かご存じかもしれません。そういった形で日本の観客の方も海外の観客の方も共感を持っていただけると、それと同時に強いフィリピンの女性で常に夢を見ている、決して貧しいからといって諦めない、ギブアップしない女性を描きたかったんです。
どうしてもフィリピンの貧困となれば、とても悲しくて運命を受け入れてしまうような不幸な人たちを描きがちですが、そうではなくて貧困ながらも常に夢を見て、力を持ってどうにかして貧困を乗り越えよう、自分の家族の面倒だけを見るだけでなくて、自分自身の人生を生きていこうとする強い女性を今回は描きたいと思いました。
 
石坂PD:ファン監督にも同様にこの話はどういうところで思いつかれたのかを教えてください。
 
ファン・ダン・ジー監督:私がHBOから今回、この映画の制作の声がかかったときに本当に私自身、食べることを知らなくて作るのは無理ですね。食べることしかできないので本当にびっくりしました。食について経験があるかと言ったらゼロです。なので、細かく描くような映画は作るべきではない、と自分で考えました。というわけで、ベトナムの食について紹介できればいいなというふうに思いました。私が想像するに世界にはベトナムだけではなくて、世界の食と愛というのは、何か必ず関係があるんじゃないかと思っていました。ですから、そのことを作品に描きたいと思いました。
 
石坂PD:それでは皆さんからご質問を受けたいと思います。
 
Q:マッティ監督に質問です。食文化を均一化していくことと、食の独自性が失われていくことって必ずしもイコールでないと思うんですが、その辺りについて監督はどうお考えですか。
 
エリック・マッティ監督:今回の映画のために色々リサーチしまして、やはり貧困層であったり、または田舎の方の暮らしだと、どうしても食は豊かではないです。何が豊かではないかというと味付けです。つまりしょっぱいものが多いです。なぜお塩をよく使うかというと、少ないおかずでもご飯をたくさん食べておなかいっぱいになれるからです。または、汁物が多かったりです。それはなぜかというと、家族に人数が多いと汁物でかさを増やして、スープだったりすると中身が少なくてもスープの量だけたくさん飲んでればそれなりにお腹がいっぱいになるからということです。汁物が多かったり、またはしょっぱいものが多かったりするわけです。そうゆうものを食べ続けてしまって食べ慣れてしまうと、本来美味しいとかの問題ではなくてその味に慣れてしまうとそれが美味しいと人間は考え始めてしまうんですね。それは、我が国の色んな生き方にも繁栄されてしまっていると思いました。悲しいかな。例えば、本来それが一番最善ではなくてもパーフェクトではなくても、なにかパーフェクションを求めることをやめてしまって、いつもこうだからこれでいいかとおざなりになってしまう生き方がすごく多いような気がしました。それではいけないのではないのかなという風に思ったんですけども、やはりこの腐食を通してこういう考え方が生活のいろんな面でもあるということを、僕は今回描きたいと思ったわけです。
あともう一つ言えることはどうしても彼女の島の家族を見ると何か変わったことを試すことも嫌がるわけです。例えばラムを食べたくないとか、お母さんが帰ってきて習ってきた味付けをどうしてもおいしいとは思わない、いつも食べているものがいいっていう風になってしまっている。そういうことも言えると思います。
 
Q:ファン・ダン・ジー監督、日本ネタがいくつも出てまいりますけれども、ベトナムでは日本料理っていうのはああいうイメージでしょうか。
 
ファン・ダン・ジー監督:今ベトナムでは日本食がとても人気があります。
割と普通にベトナム人は日本食を食べに行きます。それはですね、ベトナム人は日本食をとても食べやすいと思うんですね。もともとベトナムの人たちは油っこいものを食べませんし、生のもの、新鮮なものが好きですのでそういう意味で日本食は食べやすいです。ですので今ベトナムでは中流家庭の階層の人たちは日本食を食べに行くのが普通のトレンドとなっています。
皆さんが今回この映画でご覧になったシーンですけれども、実際本当にベトナムで食べられています。実際に撮影したのは本当の日本食レストランを借りて撮影しました。もし日本の人たちがベトナムの日本食レストランに行ったら、ちょっと味が違うという風におっしゃるかもしれませんがそれはベトナム人の嗜好に合わせて少し味をアレンジしているからなんです。しかし基本的に今回皆さんが映画の中で見ていただいたのはベトナムにおける日本食レストランであって、細かいエピソードだと例えばフグだとか、今回映画にいろいろ出てきたお料理などは本当のレストランでオーダーして作ってもらって撮影したもです。また、この映画を撮りたかったもう一つの理由というのもお話ししたいと思います。実は私が今温めている次の映画の構想に本当に日本のストーリーで、日本のバックグラウンドで、日本の俳優さんを使って撮りたいと思っているものが一本あります。
川端康成の「水月」という短編をもとに作るものです。今回こういうチャンスを得られたので、じゃあその映画の準備のためにこの作品を作ってみようかなという風に思いました。日本に対してはいろいろなイメージがありますけれど、食というのもそうですがそれ以外にも本当にいろいろな不思議なことが、不思議なものが日本にはあると思います。私の感覚としてみてもちょっと少しおかしいんじゃないか、行き過ぎなんじゃないかというようなことも日本にはあるのでそういう私のイメージ、想像というのもこの映画の中に盛り込んでみました。
 
Q:ファン・ダン・ジー監督にお伺いします。ベトナムのアート系の映画は画面からモワっとした湿気みたいなのを感じる作品が多い印象があります。今回カラッとした明るい感じ、かわいい感じのカラーリングが多い印象がありましたが意識されたのでしょうか。
 
ファン・ダン・ジー監督:映画というのはやはり社会の中の変化というものを反映しているんだと思います。
以前ご覧になったというベトナム映画はベトナムが戦争という時代を、とても困難な時代を経て人々がいろいろな身体的にも厳しい状態であった、また精神的にも渇望していたというような、そういうものを描くためにそのような映画になっていたのかと思います。
今はかなり自由な時代になりました。ベトナムも成長して発展して楽しいことがいっぱいあります。そしてベトナムはまだまだ貧しい国ではあります。収入もそんなに多くはありません。しかし今の中流の人たち、もしくは若い人たちというのはそれなりに西洋文化に対してオープンになり考え方もどんどん自由になってきています。その中でベトナムの監督、私の世代や、私よりももっと若い世代の監督たちというのは色々な豊富な幅広い作品を作っていけるようになっていて、そのことで色合い的にももっともっと広がりがあるのだと思いますし、また、ちょっと変な、変わったような作品も過去に比べたら作られていると思います。それがいいことなのかそれとも悪いことなのかというのはやはり見る人によって違うと思いますし、それこそが社会の中で違いというものが生まれてきた、そのような証なのではないかと思います。
 
石坂PD:ありがとうございました。今回HBO Asiaが制作いたしました、この『フードロア』『フォークロア』というシリーズから2作品を2本立てにしてTIFFにて上映をしております。『フードロア』の方は全部で8作品ございます。中には斎藤 工監督が『フォークロア』に続いて作られたエピソードも入っております。この『フードロア』は日本で今回、東京国際映画祭が初めての上映です。来年2020年の2月から『フードロア』はBS10のスターチャンネルさんで独占日本初放映ということが予定されております。少し先になりますけれども皆さんどうかそちらのほうもぜひご注目していただけたらと思います。

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