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2019.11.01 [イベントレポート]
「ぜひ力を出してこれからの人生頑張って生きてほしい」10/31(木):Q&A アジアの未来『エウォル~風にのせて』

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©2018 TIFF
10/30(水)上映後Q&Aに登壇時のバク・チョル(監督/脚本)

 

10/31(木)アジアの未来『エウォル~風にのせて』上映後、バク・チョル(監督/脚本)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
パク・チョル監督(以下・監督):韓国から参りました、パク・チョルです。映画どうだったでしょうか。楽しんでいただけていたら嬉しいです。
 
石坂PD(司会):このエウォルという非常に美しい済州島の場所ですけれども、この場所を含めてどういう風にシナリオを執筆されたのかを教えてください。
 
監督:この映画のシナリオですが、実は私が10年ほど前に書いたシナリオです。ずいぶん昔のものではあるんですが、当初は紆余曲折がありましたが、いい機会を得まして、このように映画を製作することができました。10年前は私自身大変な時期にありまして、かなり心理的にも疲れた時期でもあったので、ソウルの家も引き払い、バックパックに荷物を詰めて、済州島に向かいました。そして、済州島でいろんなところを巡りながら済州島に住み着きながら7か月ぐらいかけて書いたシナリオです。
 
Q:恋人関係の設定の作品は多いと思いますが、その中で特に監督が気にかけたところや特に伝えたかったことなどを教えてください。
 
監督:愛情というものの表現、そして解釈というのはいろんな形が可能であると思います。私はこの本作において、主人公、そして亡くなってしまった1人の男性を含めてこの三人は共通した悲しみを抱えているという風に思います。ただそれをあまり表に出して表現するのではなく、あくまでも行き過ぎない表現をしようということを心掛けました。ちゃんと答えになったかわかりませんが。
 
Q:その時、その際に、人が死んでしまうんだとか、こういう話ってあると思うんですけれども、結構似たり寄ったりの設定だとかになりがちだと思うんですね。そこに関して、ほかの作品と異なる視点というか、そういうのを意識したところはありますか。
 
監督:ちゃんと映画を観て頂いたように思います。おっしゃる通りにこういう素材というのはともすると陳腐な素材というのになりがちであると思います。ですから、まずこの映画で現れる場面自体を綺麗な場面・映像を盛り込むということ、そして先ほども少しふれましたけれども、その悲しいという感情を外にただ出すというのではなく、心の中に抱えているという部分を表現しようという風に心掛けました。
 
Q:カメラワークで気にされたことはあったんでしょうか。前半のカメラすごく静かだったのですが、意図的なものだったのでしょうか。
 
監督:まずはですね、カメラをハンドキャリーで使うという部分、あまりたくさんは使っていません。特に自分は前半は静かに置いた映像でそして後半はたくさん動かそうという意図することも特にありませんでした。ただ、劇中で感情というものがとても重要なシーンにおいてはそういう風にハンドキャリーでカメラをとったということがあります。あえて言うのであれば、劇中序盤ではカメラが比較的狭い絵作りをしていたので、ちょっともどかしいと思われる部分もあったかと思うんですが、後半に行くにつれて風景というものもありますのでかいた絵がワイドになっていく部分がありました。そういった部分では少し変わっていくということがありました。
 
Q:最後にあのような悲しい曲調の曲を用いられた理由を教えていただきたいです。
 
監督:エンディングで今おっしゃっていただいた曲なんですけれども、私が劇中でも一番好きな音楽です。あの音楽を作るためにこの映画の音楽を担当してくれた音楽監督と一か月ほどいろいろ協議を重ねて練って作った曲です。私としては最後は悲しみということよりも、その悲しさが解消されて余韻が残る、という感じの音楽にしたいと思ってあの曲にしたわけなんですけれども。もちろん同じ音楽でもそれを聴かれた方の受け止め方は様々だと思うんですが、私としてはあくまでも悲しさが解消されたいように、という感じで作りました。
 
Q:監督ご自身がバックパックを背負ってあの島に向かった理由はどのようなものだったんでしょうか。
 
監督:今から考えますとちょうど10年前のことになります。日本ではどうだか分かりませんが、韓国では映画を作る、映画監督になるというのは本当になかなか厳しいことで簡単なことではありません。当時、私は助監督としての仕事をしていましたが、映画3本ほどが制作まで行くか、というその途中で頓挫してしまったものが3本もありました。ですから、心理的にもかなりつらくなりまして、当時住んでいた部屋も引き払い、そんなに多くはありませんが貯金を引き出してわずかなお金と荷物を詰めて済州島に向かったわけです。
 
Q :島を選んだ理由を教えてください。
 
監督:私は基本的に海が大好きです。あとは海釣りも大好きです。ですからどこかに旅立つならばやっぱり海のあるところに行こう、大好きな済州島に行こうと思いました。
 
Q:主人公のお二人にはどのような形で感情を表現してほしい指示やアドバイスをされたんでしょうか。
 
監督:俳優さんたちにディデレクションをする時には、自分の持っている悲しい気持ちを目や言葉や行動でできるだけ表現しないでほしいと、先ほども言ったように表に出さず、けしてやりすぎることのない範囲で演じてほしいというようにお願いをしました。
 
Q:映画のシーンの中で食事のシーンがやはり多く感じたんですけれども、食事のシーンを多くした理由や、その食事を選ばれた理由など教えていただければと思います。
 
監督:まずは映画を楽しく観ていただいてありがとうございます。劇中に出てきた料理の数々は実際に私が済州島で暮らしていたので、私自身が住みながら食べたものを劇中でも登場させています。
 
Q:作中でチョルが「忘れて自分の人生を生きろ」っていうセリフがありますが、大切な人を亡くした人がそれからの自分の人生をどうやって生きるのかっていうことについて、監督ご自身はそういう状況に陥った人のその後の人生の歩み方とかについてどうお考えですか。
 
監督:映画の中ではソウル、そしてチョリという二人の主人公にこういう風な行動をさせましたが、恐らく私自身であれば大切な人を亡くしてしまったらなかなか抜け出せずにいるんではないかなと思います。きっとそういう方もいると思うので、そういう人たちにぜひ力を出してこれからの人生頑張って生きてほしいという意味でこの映画を作っています。
 
石坂PD:好きな監督、尊敬する監督、それから師匠のような監督がいらっしゃるようでしたら教えていただきたいです。
 
監督:韓国の監督なのですが、『八月のクリスマス』という映画を撮られたホ・ジノ監督です。あとは一時同じ会社で仕事をさせていただいた、『バンジージャンプする』という作品を撮られたキム・デスン監督。そして私が確か28歳頃だったと思いますが、イ・ジュニク監督の作品を観まして、僕は一生懸命映画を撮っていかなくちゃいけないな、というふうに思いました。そういう方々を尊敬しています。
 
石坂PD:ホ・ジノ監督、なんとなくわかるような気がいたします。では最後に一言お願いします。
 
監督:本作は決してハハと笑えるような楽しい映画ではなかったと思いますが、遅い時間
にもかかわらず足を運んでいただいて本当にありがとうございます。今後も良い映画を作ることのできる監督になりたいと思いますし、また別の作品を持って皆さんにお目にかかれることを願っています。本日はありがとうございました。

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