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2019.11.05 [インタビュー]
コンペティション『ジャスト 6.5』公式インタビュー

社会問題を描くときは、すべてをそのまま描くよう心がけています
ジャスト 6.5
ジャスト 6.5

© 2019 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2019年11月3日
サイード・ルスタイ(監督)
ナヴィド・モハマドザデー(俳優)

 
薬物中毒者で溢れるイランの街に、サマド率いる薬物撲滅警察チームが、売人の大物ナセル・ハクザトを逮捕すべく大規模な捜査を行なう――。警察と麻薬組織のモラルなき戦いを緊張感満点に描いた、リアルな社会派ドラマ。
監督サイード・ルスタイの臨場感に溢れた描写力が際立つ。サマド役は『別離』のペイマン・モアディ、ナセル役には監督と親しいナヴィド・モハマドザデーを起用するなど、イランが誇る演技派俳優の競演も魅力だ。
 
──作品を見て、とても感銘を受けました。この作品が成立に至った経緯から伺います。
サイード・ルスタイ(以下、ルスタイ監督):最初に頭に浮かんだのは、映像的なアイデアです。これまでに目撃した事象からアイデアが浮かんできました。全世界で麻薬の状況が変わって、社会的に麻痺した部分があります。イランでも同様です。社会問題になっているこのテーマを、3年前から考えていました。
サイード・ルスタイ
 
──このように生々しく、ドラッグ問題を扱ったイラン映画は見たことがなかったので、そのことにまず驚きました。
ルスタイ監督:全世界で麻薬がはびこっているのです。特に我々の国の隣には、アフガニスタンという、麻薬の生産が盛んな国があり流れてきます。それがイランの今の現実です。以前に比べると、簡単に麻薬が手に入り、売買する人が増えてきた気がします。
 
──映像がリアルで迫力がありました。
ルスタイ監督:私は社会派の監督なので、問題を訴えるために遠慮してはいけないと思っています。題材の奥までこじ開けて、現実をそのまま描くほうが、インパクトがあります。社会問題を描く場合は、躊躇せずにすべてのものをそのまま描くようにしています。もちろん、ドラマ部分を考えますが、できるだけ現実に基づくものにしたいと思っています。
 
──脚本を書くにあたり、綿密にリサーチされたのですか?
ルスタイ監督:1作目“Abad va yek rooz”でも少し麻薬に触れましたが、その前にドキュメンタリーに挑みました。そのドキュメンタリーは完成に至りませんでしたが、麻薬中毒者に取材し、麻薬問題を調べました。
本作の製作にあたり、まず資料を読み込み、麻薬中毒者の集まる場に行ったり、刑務所を訪ねたり、裁判を傍聴したり、リサーチを重ねて脚本を書きました。ドラマ部分は大切ですが、フィクションであっても、できるだけ現実をそのまま描くのが私のスタイルです。
 
──キャスティングについて伺います。イランの有名な俳優を起用されていますね。
ルスタイ監督:前作でも、ナヴィドとペイマン・モアディと仕事をしています。イランでもトップの俳優たちが、自分の映画に出てくれるのは光栄なことです。ペイマンとナヴィドは前作にも出てくれました。とりわけナヴィドとは10年前から親友です。彼の前では遠慮なく、ふるまうことができますし、彼の表情や言葉の使い方や仕草を知っているので、彼にあわせた脚本を書くとどのくらい応えてくれるか分かります。彼は監督の求めているものを常に表現してくれます。
 
──脚本を書く段階で、彼のイメージをキャラクターに反映させるわけですね?
ルスタイ監督:脚本はいつもアテ書きをしています。キャラクターはナヴィドとペイマンを念頭にして書き上げました。1作目、2作目でもそうでしたし、3作目も同じでしょう。
 
──そういうお話を聞いて、俳優さんとしてはどうですか?
ナヴィド・モハマドザデー(以下、モハマドザデー):うれしいですね。マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロや、黒澤明監督と三船敏郎みたいに、ずっと一緒にやっていこうと、いつも冗談めかして言っています。
ナヴィド・モハマドザデー
 
──この監督ならどんな役でも演じますか?
モハマドザデー:役者として、映画が描くテーマを重視します。それが自分と合うなら、どんな役でも演じたいと思います。幸い、社会問題の捉え方がいつもこの監督と一緒なのです。同じ問題を考え、同じ意見を持っています。だから、彼とは一緒にできるのです。
ただ、ひとりの俳優があらゆるキャラクターを演じることはできません。作品が大事なので、もしも違う俳優のほうが相応しければ、彼を選んでほしいと話してあります。
 
──監督の中ではフィクションとドキュメンタリーは、どのように棲み分けていますか?
ルスタイ監督:ドキュメンタリーに惹かれますが、いちばん好きな映画はストーリーがしっかりしている作品。ストーリーテリングが好きなのです。現実に基づいて映画を撮ろうと思っていても、大事にしているのはストーリーテリングです。もしかしたら次の作品では、ストーリーを重視して、社会問題から少し離れるかもしれません。
 
──でも映画のモブシーンはドキュメンタルで描写が圧巻でした。
ルスタイ監督:小さなディテールに至るまで、すべて演出しています。あのシーンは多くの麻薬中毒者を実際に集めました。待っている間の居眠りや些細な仕草も見逃さず、もう一度カメラの前で再現してもらいました。
刑務所の中で撮っていますが、俳優に演じてもらうのは不可能なので素人を集めたのです。親しくなるにつれて、協力してもらうのが簡単になりました。
 
──麻薬が普通の家庭にまで浸透している事実に驚かされました。
ルスタイ監督:映画に登場する素人は、麻薬中毒であることをカミングアウトしています。イランで麻薬の罪が重いのが、ヘロイン、コカイン、クラックなどです。ケミカル系のドラッグは幻覚を生むので罪が重いのです。アヘンやハシシは自分がダメージを受けるだけなので、量刑は軽いのです。
 
──次の作品もあなたが主演するのですか。
モハマドザデー:どちらかが先に死ぬまでは、一緒にやろうと思っていますよ(笑)。家族みたいなものです。地方に住んでいる母がいい肉を手に入れると、「これはあなたの分、これはサイードの分」って送ってくるほどです。
ジャスト 6.5
 
──監督のすばらしい点を教えてください。
モハマドザデー:目的に向かって、真っすぐに走る完璧主義の人が好きです。私は戦って目標を手に入れるタイプですが、彼もそうです。いい監督はイランにたくさんいますが、彼は困難に負けず、意志を貫くので尊敬しています。また、彼の作品には家族愛がにじみ出ています。私も家族を愛しているので惹かれます。それにもう一つ似ているのは、現在ではなく将来のために活動しているところですね。
 
──コメントを聞いて、監督はどうですか?
ルスタイ監督:兄弟よりも近い人だと思います。褒めることは得意ではありませんが、彼の成功は私にとってもうれしいですし、兄弟として誇りに思います。自分の映画でなくても、彼が映画で成功するのを願っています。
 
インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
ジャスト 6.5
ジャスト 6.5
© Iranian Independents

監督:サイード・ルスタイ
キャスト:ペイマン・モアディ、ナヴィド・モハマドザデー、ファルハド・アスラニ

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