出資を募るためのミーティングを5年間続け、やっと努力で運を引き寄せました!
『列車旅行のすすめ』
東京国際映画祭公式インタビュー 2019年11月2日
アリツ・モレノ(監督)
ぶっ飛んだ人間ドラマ。一言で言うとこれに尽きる『列車旅行のすすめ』。
編集者の女性が、列車でたまたま乗り合わせた精神科医から聞いた、ユニーク過ぎる患者のエピソードを3章仕立てで見せつつ、驚きのラストに向けて一気に収束する。
原作があるとはいえ、物語がどこに転がるか分からぬように組み立てられた構築的な脚本は秀逸だ。
──原作から脚本に落とし込む際に、苦労はありましたか?
アリツ・モレノ監督(以下、モレノ監督):実はなかったのですよ。というのも、原作小説自体がとてもユニークなものだったので。それにこの原作は構築的だったのですね。その構造は、脚本に落とし込む際にキープするように努力しました。小説自体は150ページほどの中編なんですが、どこを使ってどこを捨てるかを決めるのが大変だったくらいです。全部を使ったら3作くらいの長編が撮れてしまうほどアイデア満載だったので、本作ではその40%くらいを使いました。
──残りの6割で次の作品を作るつもり?
モレノ監督:いやいや(笑)、この本はこれで終わりにしますよ。原作のアントニオ・オレフドも、映画の出来にとても満足されています。彼は製作の最初から「好きなことをして、好きなようにやってください」と、100%自由に創作していいと応援してくれました。
──冒頭のゴミ山からして、視覚的にも物語的にもどぎついインパクトを与えますね。
あのゴミ山はCGではないようですが、どうやって作ったんですか?
モレノ監督:あれの中身は、ピラミッド状に組んだメタルの骨組みで、ビル3~4階ほどの高さがあります。それを金属ネットで囲って、ひとつひとつごみ袋をヒモでくくりつけていきました。そのごみ袋の間に洗濯機があったり、いろんな粗大ごみも混ぜ込んで。いわば、クリスマスツリーみたいな感じですね、ごみのクリスマスツリー(笑)。組み立てるだけで3日間かかっていますよ。
──愛犬家の暴力的な恋を描いたチャプター2から、物語の展開は想定外のことばかりでしたが、あの章は役者に課せられたことが多かったですよね。
あのハードな撮影に、彼らはどのように対応してましたか?
モレノ監督:本作の中で一番大変だったところだったので、おっしゃる通りに、実は私はすごく心配していたんです。段々と、非常に緊張感が強烈さを増してくる章ですし、特にスペインではああいうテーマ(DV、虐待)を撮ることは難しいのですが、俳優さんたちが私を助けてくれました。
主演のピラール・カストロは肉体的にとても大変で、雨の中だったり、泥の中だったり、しかも撮影は12月で寒かったんですよ。でも彼らは果敢に挑んでくれました。それもアドリブをたくさん入れて。
──たとえばどのシーンがアドリブでした?
モレノ監督:愛犬家の男性が恋人に「笑うな、俺のこと笑ってんのか!」というシーンは全部アドリブです。4~5テイクしたんですが、テイクごとに雰囲気も、言葉も違っていて、強烈さも違いました。本編に使ったのは、5テイク目の一番強烈だったものです。
──他のテイクで苦労したシーンはありますか?
モレノ監督:それほどないんですよね。撮影期間が短かったので、だいたい3~5テイクです。それだけ、俳優の準備が素晴らしかったんですよ。スペインではトップクラスの人達で、彼らに助けてもらったといっても過言ではありません。
正直、ファーストテイクでも充分OKだったんですが、バリエーションのために2~3テイクしていったという感じで。めちゃくちゃラッキーでしたね。
──そこに至るまでのお金集めがとにかく大変だったと伺っています。
モレノ監督:出資を募るためのミーティングしても、90パーセント「NO」って言われたんですよね。分かりにくい作品ですし、ジャンルも定まりませんし。でも、とりあえずミーティングをし続ける、ということなんです。
こうして完成できてラッキーだとは思うんですが、それは降ってきたわけではなく、自分自身がものすごく努力をして、努力で運を引き寄せたという感じ。5年間ずっとミーティングを続け、やっと良いパートナーに出会ったのですよ。
──パノラマのロングショット映像もユニークですよね。広角レンズ?
モレノ監督:あれは撮影監督が持ってきたレンズなんですが、80年代の日本製のレンズで、すごく変な画が撮れるんですよ。試しに撮ったものを見て大好きになって即採用し、全編でそのレンズを使っています。パノラマ的なロングショットを撮ると、両端が歪んで見える特性があります。
──それ、日本でも使ってる人がいないのかと…。
モレノ監督:いないでしょうね(笑)。
──シーンによってはアルモドバル的に見えるところがあるんですが、彼からは影響受けていることはあったんですか?
モレノ監督:お。アルモドバルといわれたのは初めてですね。ジャン=ピエール・ジュネの『アメリ』を思い出すと言われたこともありましたね。でもあまり影響を受けているとは思っていません。むしろ、他国の映画に影響を受けていることが多いですね。デヴィッド・フィンチャーの『ファイト・クラブ』とか、ウェス・アンダーソンの『グランド・ブタペスト・ホテル』、あとはコーエン兄弟のユーモア、それから、韓国の映画でパク・チャヌクの『お嬢さん』とか。あと、イギリスのテレビシリーズ『ユートピア』からも影響を受けていて、実は『ユートピア』で音楽を担当したクリストーバル・タピア・デ・ビアーに、本作の音楽を依頼しました。
──ご指名したんですか?
モレノ監督:3年かけてずっとメールを送り続けて説得して、一緒にやってくれることになりました。
──自分の師となる映画作家は?
モレノ監督:デヴィッド・フィンチャー。あと、ヨルゴス・ランティモスもとても興味深い。ポール・トーマス・アンダーソン、マーティン・スコセッシ、まあだいたいメインの監督は尊敬しています、スピルバーグとか。
私は80年代に子ども時代を過ごしたので、スピルバーグがイチバンですね(笑)。
──フィンチャーもスピルバーグも、今はスクリーンだけでなく、配信事業用の作品にも参画しています。長編デビューで、これだけ苦労されて本作を劇場用長編として完成させられましたが、今後は彼らのように他のフォーマットも視野に入れるんでしょうか?
モレノ監督:スコセッシもNetflixで新作を発表しましたしね。劇場用長編にこだわりたいという思いはあるのですが、その一方で、ストリーミングサービスではかなりリスキーな作品作りもできる利点があります。
私はまったくオープンなので、プロジェクトが面白ければ、どことも仕事をする用意は十分ありますよ。特に日本での仕事を熱望してます。
──え、日本で!?
モレノ監督:日本の映像的言語、視覚的な言語が好きで、日本で仕事ができたらいいなぁって。夢なのですよ。数日前にも中田秀夫監督とランチしたんですよ(笑)。
監督:アリツ・モレノ
キャスト:ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・ アルテリオ