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2019.11.04 [イベントレポート]
秋吉久美子、大林監督作『異人たちとの夏』の泣きどころは「前掛けを振るシーン」
異人たちとの夏
『異人たちとの夏』の思い出を語った秋吉久美子

第32回東京国際映画祭の「Japan Now」の特集上映「映像の魔術師 大林宣彦」で11月4日、1988年公開の『異人たちとの夏』が上映された。上映後のQ&Aでは登壇予定だった大林宣彦監督は体調不良のため欠席だったが、俳優の秋吉久美子が登壇した。

当時の大林監督との思い出について秋吉は、「大林監督は、とても和やかでおおらかで優しくて。受け入れ体制万全で自由に演技をさせてくださるタイプの監督だと思っていたのですが……。青春の傲慢さゆえの私の態度とか、監督の優秀な頭脳の中で整理して、怒らないように、演じる人がすくまないように現場を仕切っていらしたと最近になってやっと最近思うようになりました」と語り、具体的なエピソードとして「当時ディレクターズチェアというような、普通より80センチほど高い椅子を使われていたんですが、私が『座りたい』と言って(笑)。大林監督は笑って『いいですよ』と仰っていましたが、そのチェアの横のポケットに入っている台本やらお水をスーッと取っていかれるんです。今考えると不届きな女だなあ、と。今日お目にかかったら、しみじみと謝ろうと思っていたんですが」と笑いを交えて思い出を語った。

また、役どころについて「私は一般的、世間的に“自由奔放、小悪魔”といったイメージの報道のされ方をすることが多いのですが、大林監督の作品では全部違うんです。『異人たちの夏』でも、片岡鶴太郎さんが演じる、すぐに仕事を辞めちゃう、稼がないお父さんの横でケラケラ笑っているような自然体のお母さんの役で。大林監督にとっては『それが君だ』という自信があるんですよね。それでお手紙も頂いたくらい」と、やり取りがあったことも明かした。さらに「この作品で、セクシャリティというのは装うものじゃないんだな、ということと、人が『こういうものがセクシャリティ』と決めつけるものではない。それを教えていただいた」と感想を述べた。

Q&Aで思い入れのあるシーンについて問われた秋吉は、「物干し台から(息子役の)風間さんに『またおいでよ』って声かけながら、前掛けを振るシーンですね。ある意味、映画は歴史のエビデンスだと思うんですが、そういう日本人、そういうジェネレーションが今あるのかなって考えた時、それこそが『異人たちとの夏』なのかなって思ってしまいます。私たちの良き時代というか、何か失われたものとか、その時の自分の心とか、自分の息子に対する距離感。その全てが集約しているようで……。皆さんはラストシーンのことをすごく言ってくださるんですけど、なぜか私はあのシーンがすごく泣き所なんです」と時代背景や心情と重ねた思い入れを語った。

第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。
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