悪霊の話だけではなく、故郷を捨てた移民の葛藤も盛り込みました
『モーテル・アカシア』
東京国際映画祭公式インタビュー 2019年10月31日
ブラッドリー・リュウ(監督/脚本/プロデューサー・中央)
JC・サントス(俳優・左から2番目)
ビアンカ・バルブエナ(プロデューサー/脚本・右から1番目)
ベンジャミン・パデロ(美術・左から1番目)
フィリピン人のJCは、疎遠だった父から異国の地のモーテルを引き継ぐ。ここは政府の命を受けた、不法移民の受け入れ場所になっていたが、邪悪な悪霊が棲んでいた。暴風雪の晩、閉じ込められた人々と悪霊の生存をかけた戦いが始まる――。
マレーシア出身のブラッドリー・リュウの監督第2作は、フィリピン、スロベニア、マレーシア、シンガポール、台湾、タイの共同製作が話題となった。現代世相を織り込んだ、ホラー色の濃い作品だ。
──ユニークな内容ですが、まず作品が誕生した経緯から伺います。
ブラッドリー・リュウ監督(以下リュウ監督):最初のアイデアは、プロデューサーのビアンカ・バルブエナとフィリピンの「ガッペ(Kapre)」という悪霊の話をしたことから生まれました。この悪霊は、木の上に住んでいていたずら好き。女性をたぶらかすのが大好きだが、男性は嫌いという性格です。
ある日、彼が住んでいる木が倒されて、地面に落ちた魂が広がったといいます。木はベッドになって、女性をたぶらかし、男性に対しては悪さをする。そんなアイデアから企画が始まりました。
──映画に出てくるベッドですね。なぜ雪国にそのアイデアを持って行ったのでしょう?
リュウ監督:悪霊の話だけでは、映画として面白くありません。今の現代社会が抱えている、移民問題を取り入れました。さまざまな理由から故国を捨てた移民の葛藤、苦労を盛り込もうと考えました。映画に出てくる俳優たちはかつて植民地化された国の人たちです。
隣の芝生はよく見えて移民するのですが、移民先では彼らが社会問題となります。1年中暑い彼らの故国と対比するために、暴風雨に閉じ込められた中でストーリーを展開していく設定にしました。ビアンカも脚本に参加しています。彼女との共同脚本なのです。
──共同製作国の多さにも驚きました。
リュウ監督:東南アジアでは過去には、共同製作があまりありません。東南アジアも、ヨーロッパのような共同製作を見習うべきだと考えました。
資金繰りは台湾、ポストプロダクションはタイで行いました。先ほどの、暴風雨の撮影地はスロベニア。シンガポールのプロデューサー、ジェレミー・チュアも関わったことで、構想していた“東南アジアの共同製作”が叶いました。
──キャストも“東南アジアの共同制作”を意識されたのですか?
リュウ監督:JC・サントスからキャスティングを始めました。本名も役名と同じくJCなのです。数年前に出演したテレビドラマが印象的で、キャスティングしました。プロデューサーのビアンカは交流が広く、インドネシアのニコラス・サプットゥラはベルリン映画祭で知り合い、ヴィタヤ・パンスリンガムはトルコの映画祭、ブロント・パラレーは4、5年前に東京国際映画祭で知り合いました。そうしたネットワークを駆使して、出演してもらいました。
──JCさんは、出演されてどんな感慨をお持ちになりましたか?
JC・サントス:監督からは、体重を落とせと言われました。常に空腹な表情をしてもらいたい。それしか言われませんでした。
──脚本、台詞を相談しながら作っていくスタイルと聞きました。
リュウ監督:キャスト、スタッフ全員が、それぞれの国でテレビ番組などを持っているのですが、撮影の2週間前に、奇跡的に全員を集めることができました。ビアンカや、美術のベンジャミン・パデロ、キャスト全員に脚本を渡して、意見の交換をしました。セリフを吟味し、意見を出し合って改めていきました。最後は本当の共同製作、全員が製作に関わるかたちになりました。
──監督はマレーシアの出身で、フィリピンでお仕事をされている。フィリピンの映画界を選択されたのですか?
リュウ監督:理由はビアンカと恋に落ちたからです。23歳の頃からビアンカとは知り合いで、マレーシアでテレビCMの撮影を担当していました。彼女のほうから、「フィリピンでいっしょに仕事をしない?」と誘われて、本当に自分のやりたい仕事がここにありました。
──小さい頃から映画監督、もしくは映画に携わる仕事をしようと思っていたのですか?
リュウ監督:マレーシアの映画業界は、インディペンデントと呼ばれるものが少なく、支援もないのです。フィリピンには映画を応援する仕組みがあって、後押しをしてくれます。マレーシアにいた頃には、支援の存在が感じられなかったので、ここでベースを作ろうという気持ちになりました。
──この作品はジャンル分けするとホラーになると思います。協力してくれた国々の期待度の高さを実感されましたか?
リュウ監督:お金になると良いのですけどね。東南アジア地域の作品としては予算も大きかったのです。そもそもモーテル・アカシアは存在しないので、何もないところから作り上げました。天井なんかも全部、スタッフ、キャスト全員でペンキを塗って作っています。やはり成功はしてもらいたいですよね。
ベンジャミン・パデオ:プランニングから完成するまでに、2か月くらいかかりました。
リュウ監督:なにより、この東京国際映画祭がワールド・プレミアです。高い評価を期待しています。
──今後もプロデューサーと一緒に、たとえば、海外に参画する計画もありますか?
リュウ監督:毎年、監督をするわけではなく、プロデューサーとして参加する作品もあります。次作は“Koury never cries”という、ベトナムの若い監督の作品をプロデュースしています。
来年は、ラヴ・ディアスの作品にもプロデューサーで関わることになっています。
ビアンカ:本人の作品としては、今は3作目の脚本を書いているところです。
リュウ監督:3本目の舞台は宇宙です。
──プロデュースと監督、どちらがお好きですか?
リュウ監督:どちらも好きですね。監督業は、責任はあるけれど自分の思うことができます。当たると褒めていただけますしね。プロデューサー業は、どちらかというと子供をなんとか成功させたい、なんとか世の中に出したいという親のような立場です。どちらも好きだし、やりがいはありますね。
インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
監督:ブラッドリー・リュウ
キャスト: JC・サントス、ヤン・ベイヴート、ニコラス・サプットゥラ