Close
2019.11.05 [イベントレポート]
「誰かを励ましたりとか勇気づけたりとか、そういうことを考えてやってはいけないと思って、このような描き方、向き合い方になったんだと思います」11/3(日):Q&A『サクリファイス』

サクリファイス

©2019 TIFF 壷井 濯監督(中央)、五味未知子さん(左)、半田美樹さん(右)

 
11/3(日)「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」受賞作品『サクリファイス』上映後、壷井 濯監督、五味未知子さん(女優)、半田美樹さん(女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会:ご覧いただきました本作は、若手映像クリエーターの発掘育成を目的に毎年7月埼玉県川口市で開催されています、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて、本年の国内コンペティション長編部門の優秀作品賞を受賞した作品です。今回、東京国際映画祭の共催での上映となりました。
 
壷井 濯監督(以下、監督):ご覧いただき、ありがとうございます。監督をしました、壷井濯と申します。
今若い人はなかなか自分だけの物語というものを持てない、とっても苦しい時代だなという実感があります。そんな中でも、いまここに一緒にいてくれている五味さん、半田さんをはじめ、若いスタッフ、キャストの人と出会うことができて。五味さんなんかはこれが初めてのお芝居で、撮影当時まだ18歳で、怖いこととかいっぱいあったと思うんですけれども、恐れずに立ち向かってくれました。
僕は未熟だなと今観ていて思うところがたくさんあって。でも、皆、未熟なことを恐れずに、そしていろいろな事の準備が整う前だとしても一歩歩きだしました。誰かに与えられたものではなく、自分たちでいびつかもしれないけど、物語というものを見つけて持ち帰ることができた。そして、それを今日、このようにたくさんの映画がある中から観に来てくれた人たちがいるということが、苦しい時でも小さな希望に感じます。
それは、今日ここで自分たちの喜びとして終わらせるのでなくて、来年で東日本大震災から9年経ちますが、本当に人の心が苦しいというのに終わりはないと思うので、今日いただいたものをまた新しい場所に届けられる一歩目、そのきっかけをいただいたことに本当に感謝しています。(主演の)お二人にも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
 
五味未知子さん:はい、ミドリ役を演じさせていただきました、五味美知子です。本日は、ご覧くださり、ありがとうございました。
私が、この役を演じたのが2年前で、演技をその前にしたことがなくて、映画に挑戦するのが初めてでした。本当にどうしようって思っていたのですけど、現場の半田さんとか周りの役者さんとか、監督も制作の方も皆優しくしてくれて。本当にこの皆さんじゃなければ、私は頑張れなかったなって思うくらい、いい体験をさせていただきました。
それで、今日この東京国際映画祭というすごいところに連れてきていただいて、私は本当に嬉しいし、いつも監督に感謝しています。ありがとうございます。
 
半田美樹さん:トウコ役を演じさせていただきました、半田美樹です。本日は、朝早い中、足をお運びいただき、ありがとうございます。
この作品は、映画館でも何度か観させていただいているんですけれども、観るたびに、すごく身が引き締まる思いというか、皆さんの前でこうやって立ってお話することがすごく重く感じるので、少しでもたくさんの方にお届けしていけたらいいなと思っております。ありがとうございます。
 
Q:立教大学出身ということですが、以前に篠崎誠監督がやはり3.11を映画にしていたと思うのですが、この作品には関連性があるのでしょうか。
 
監督:関連ですけれど、僕は『あれから』『共想』『SHARING』という三つ、3.11をテーマというと変ですけど、それらを扱っている監督のゼミ生です。そもそもこの映画の企画の発端が、篠崎教授から、ゼミで3.11をテーマとした脚本を書いてくるという課題を出されたところからスタートしています。
でも、ただそれだけじゃなくて、僕も『SHARING』と『共想』はスタッフとして参加させていただいているので、その中でいろんなことを、演出の面でも物語の捉え方でも、影響を受けたりしながら作ったので、やっぱり全然外れていないというか、影響を受けていますということができます。
あと、『共想』という一番新しい作品を作る前に、篠崎さんと一緒に脚本を考えたりしたこともあったので、その中で『SHARING』の続編ではないですけど、似たような要素とかが入ってくることもあったりしました。そんないろいろなものを詰め込んで、このような作品になりました。
 
Q:篠崎監督の作品とキャラクターが似て感じられますが、女優のお二人は篠崎監督の『共想』『SHARING』をご存じの上で自分たちのキャラクターを作り上げたのでしょうか。
 
五味未知子さん:申し訳ないのですけれども、機会がなくて、まだ拝見していないのです。これから拝見しようと思います。絶対観ます。
私が演じたミドリちゃんは過去が見えたりとかするんですけど、それによって良い感情は持っていないと思っています。
その能力を持っていることによって感じる感情って、孤独とか罪悪感とかマイナスな感情が多いと思います。私も結構そういう孤独とかを感じながら生きているのでなんかわかるなというか、寄り添える部分があるんじゃないかと思う感情が近いので演じやすかったです。
 
半田美樹さん:撮影の時はまだ拝見していなくて、ほんとにこの前『共想』を観させていただきました。なので、撮影の時に気をつけたっていうことはなくて、あまり影響は受けてないです。
トウコという役が平凡な日常にすごく退屈していたりだとか、普通であることを受け入れたくないように思っていることはすごく自分にも共感できる部分だなと感じつつ、トウコはそれをすごく表に出すのがへたくそだなというか、なんかすごく空回ってしまっているなという印象を受けました。痛いのか、かわいそうなのか。観る人によって印象が変わっていったら嬉しいなと考えながら、進めました。
 
Q:エンドロールの最後にモールス信号のように聴こえた音がありました。これはモールス信号なのか、それとも別の音でしょうか。モールス信号であれば、物語上差し支えない範囲で意味を教えてください。
 
監督:モールス信号みたいに聴こえるんですけれども、モールス信号としての意味があるわけではないです。
あの音は、サザナミっていうちょっと変な男が出てきて「世界を知覚しなおせ」って言ったときに、彼が物語そのものに干渉する力をもっているのかなみたいな表現をしたくて、わざと映像をブローアップしてデジタル処理して汚くして、そこでちょっと違和感を出すために使った音なんです。
それを最後のエンドロールでも使っています。使った理由は、いろんなことが解決していないというか、きれいな曲を作っていただいて歌っていただいて終わった後でもきれいに終わらせたくないというか。何かちょっと不穏なものを残したくて最後に入れて、それがふっと途切れるようなことをやってみたいなという意図がありました。
 
Q:『サクリファイス』という、あえて日本語ではなく、英語を使った理由はなんでしょうか。
 
監督:『サクリファイス』という題名は、そもそもその言葉自体の意味だけじゃなくて、響きです。
僕がこの言葉を初めて辞書で引いたのが中学生の英語の授業中で、それがずっと心の中に残ってて。いつかこの言葉を使って、このタイトルで物語を作ってみたいという気持ちがずっとありました。なので、結構その言葉がずっと自分の中にあったんです。
さっきお話ししたように、3.11っていうタイトルで何か脚本を書いて来てくださいという課題が出た時に、物語がそこまで決まってなかった時からこの題名で書くんだという気持ちがあって。「サクリファイス」という言葉のもつ響きとか温度にも引っ張られて、物語が生まれていったというようなところも、正直あります。なので、「犠牲」ではなく、「サクリファイス」というタイトルを今も使っています。
いろいろな意見があったんですけど、それはやっぱり自分が大切に持ってきたものなので、勇気を出してそのまま使おうと思いました。
 
Q:題名の意味は、3.11の犠牲者に対してでしょうか。それとも、猫っていう小さい命に対しての犠牲でしょうか。
 
監督:猫なのか、3.11の人たちなのか、はたまた別の亡くなった方なのかっていうのは、はっきりこれとは言えないです。
全部と言えば全部なんですけど、3.11というのは大きいと思います。そういう犠牲の上に成り立っているのが今自分の生きている時間だなという実感がすごくあって、なので簡単には言えないですけど、全部です。
 
Q:多様なジャンル、テーマがあったと思います。3.11という大きな柱からファンタジーや社会問題などを脚本に練り上げていったか、全体を決めてから脚本を書いたのでしょうか。
 
監督:僕はいろんな書き方をする時があるんですけど、この作品に関しては、プロットを書いたりとか逆算してっていうことはほとんどしなくて、何も決めずに書き始めました。
もちろん後で整合性を取るために修正は加えるんですけれど、書いていくうちに、この人が犯人なんだとか、一つ書いたシーンに次が引っ張られるみたいにして生まれていきました。軍服の男の子が出てきたから次はこういう人が出てくるんだろうなとか、廃墟でいきなり出てくる男があそこで出てくるっていうことを僕は知らなくて書きました。
一つ一つのシーンによって生まれる次のシーンみたいなのを楽しみながら書くことができましたので、全体からすごく緻密に作ってという感じではなくて。もちろん最後に整えはしましたけれども、そういう書き方を脚本に関してはしました。
 
Q:直接被災していない人々に対して、震災を風化させないという強いメッセージを感じましたが、どのように考えたいらっしゃったのでしょうか。
 
監督:震災というものに対する捉え方なんですけれど、おっしゃる通り、僕も3.11の時は東京にいて、直接の被災者ではないです。
そんな中でこういうテーマを扱ってさらにこういう作品を作るっていうことに、迷いというか、そもそも自分に何が描けるんだろうっていうところから考えて。最初に決めたのが、誰かのためにとか被災した人のためにとか、そういうことだけは絶対にやめようって思って。それは絶対どこかで嘘になる。
まず自分の心の闇みたいなのがあったとして、それが3.11というものによって漂失したのであれば、そこにまずは潜ってみたいと。潜った先で、もしかしたら本当に被災して今も苦しみ続けている人たちと何か共有できるものがあるんじゃないかっていうことだけを考えてやりました。
なので、誰かを励ましたりとか勇気づけたりとか、そういうことを考えてやってはいけないと思って、こういうような描き方、向き合い方になったんだと思ってます。
 
Q:観客にこういったテーマを伝えた後に求める行動とかっていうものはありますか。
 
監督:求める行動はないです。
僕が今後もこうやってなるべく深いところに降りていけるのであれば降りていって、その先で穴を掘り続けて。その先でもし被災した方とかと出会えるんであれば出会いたいっていうことを、僕が繰り返していくだけです。
特に観た方にこうしてほしいっていうことはないです、きっと。
 
司会:最後に本日ご登壇いただいている皆様から、今後の活動、ご挨拶、メッセージなどをいただきたいと思います。
 
半田美樹さん:改めて本日はありがとうございます。この作品を少しでもたくさんの人に観ていただけるよう、活動、宣伝とかもしていきたいと思いますので温かく見守って、もしなにか感じるものがあったら直接なり、いろいろな方法で教えていただければ光栄です。ありがとうございます。
 
五味未知子さん:本日は本当にご覧いただきまして、ありがとうございます。
私はこの映画を撮っているときに18歳で、その時は大学を休学していて、それから今は復学して来年卒業予定です。これから先はフリーで女優として活動していこうと思っていて。なので、この映画と一緒に世間にいっぱい知られるように頑張っていきたいと思っています。よろしくお願いします。
今日は本当にありがとうございました。
 
監督:まず今仰ってくれたように、これに出てくださっている若い俳優さんの方々みんな、半田さんも五味さんも控えている作品がたくさんあります。みんないっぱい活躍していくと思いますので、もしよかったらこれからも是非応援してあげてください。
一つお知らせがありまして、この作品が来年の2020年の3月6日にアップリンク吉祥寺という映画館で劇場公開が決まりました。さらに、スケジュールはまだ決まっていないんですけれども、大阪のシネ・ヌーヴォさんと、京都の出町座さん、それから広島の横川シネマさん、あと長野の松本CINEMAセレクトさんで上映していただけることが決まりました。
こんな小さい作品なんですけど、いち早くやりたいと言ってくださった劇場の方々に感謝しております。今日この場所から一つ一つ皆さんのもとに届けていく努力を始めたいと思っているので、よろしければ応援をよろしくお願いします。
あと、この作品の配給宣伝のご支援をお願いするクラウドファンディングが近日中に始まる予定です。クラウドをやるっていうことに対する想いは自分の中でもいろいろあるんですけど、改めて、どうしてこの物語を、今このタイミングで、この内容でやりたいのかっていう想いはしっかり丁寧に説明させていただいて、そのうえでクラウドファンディングを始まります。どうぞ、そちらのほうもチェックしていただければと思います。
ありがとうございます。

オフィシャルパートナー