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2019.11.03 [イベントレポート]
手塚眞監督『ばるぼら』、父・手塚治虫さん誕生日にワールドプレミア
ばるぼら
©2019 TIFF

東京国際映画祭のコンペティション部門に選出された、手塚治虫さんの漫画を原作とした映画『ばるぼら』のワールドプレミアとなる公式上映が11月3日、TOHOシネマズ六本木にて行われ、メガホンをとった長男の手塚眞監督が会見に登壇した。手塚監督は「11月3日は文化の日であるとともに「漫画の日」であり、父・手塚治虫の誕生日です。今日この日にみなさんに本作を観ていただけたことをうれしく思います」と語った。

ばるぼら』は、小説家の美倉洋介(稲垣吾郎)と少女バルボラ(二階堂ふみ)を中心に、愛、芸術、エロス、オカルティズムが交錯する過激な作品。ヌードシーンも多いため、キャスティングには苦労したという。「稲垣さんと二階堂さんも、まったく抵抗がなかったわけではないと思うのですが、現場ではまったくためらわずに取り組んでいただけました」と労をねぎらった。

手塚治虫生誕90周年を記念して初映像化された『ばるぼら』。手塚作品の著作権管理者として、数多くの実写化作品を目にしてきた手塚監督は、「「原作そのままである」ことが、必ずしも良い実写化だとは思いません。漫画の名場面や核となる要素は残しつつも、監督の考えをしっかり反映させる必要があります。しかし、まったく元の漫画と離れてしまっても、原作ファンの方ががっかりしてしまうので、バランスが大切ですね」と実写化の難しさを語った。本作の製作中も、スタッフから「手塚治虫ならどうするでしょうか」と問われることが何度かあり、「原作に引きずられすぎるとただ原作の絵をなぞるだけの作業になってしまうので、映画監督として自分に任せてほしい」と伝え、一方でキャラクターデザインに関しては「原作原理主義者」を自認する柘植伊佐夫に一任し、漫画に寄せたビジュアルにしたという。

原作の舞台は、漫画連載時の1970年代の東京だが、映画の舞台は現代へ移行。「この作品を「過去の話」にすると、ノスタルジックな香りが出すぎてしまうと思ったので。それから、1970年代の新宿を再現しようとしたら、とてもバジェットがかかるので」と笑いを取りつつ、「現代は70年代と社会的情勢が近いのではないかと思います。貧富の差があり、政府に対して批判が高まっています。ですから、この映画は「現代」にしても問題がないと思いました」と述べた。

撮影監督には、中国・台湾・日本を中心に活躍し、『花様年華』(2000)でも知られるクリストファー・ドイルが務めている。「日本の東京が舞台だが、異国、またはこの世ではないように撮りたかったので、日本人と異なる視点を持っていて、かつ、日本をよく知っている人。『街』が重要な要素となるので、街並みを美しく撮れる人。そして、この映画はシンプルに考えるとラブストーリーなので、男と女を美しく撮れる人」が起用の理由だという。「そして裏の、4つめの理由は、彼はお酒と美しい女性を愛しているので、この物語にぴったりだと思ったんです。予想通り、5年前に脚本を送ったとき、即座に「今すぐやりたい。これは自分が撮るべき映画だ」と返事が来て、それから5年間、待っていてくださいました」。

最後に、「もしも手塚治虫が本作を見たら、何と言うと思いますか」という質問を受けた手塚監督は、父の姿をユーモアたっぷりに思い描いた。「彼が生きていたら、私が「こういう映画をやりたい」と伝えた時点で、必ず「おれも一緒にやる」と言ったはずです。そして、自分で脚本を書きたがったでしょう。そうしたら、原作の『ばるぼら』と全く違う話になっていたでしょうね。もしも彼がこの作品製作には関わらずに、今日初めてこの映画を見たとしたら……、「おれだったらもっと面白くするぞ」と言ったと思います。とても負けず嫌いな人だったので」。

第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。
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