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2019.11.03 [イベントレポート]
『野ゆき山ゆき海べゆき』プロデューサーが急きょ登壇し撮影を述懐、大林宣彦監督は欠席
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大林宣彦監督は欠席

第32回東京国際映画祭で特別功労賞を受賞した大林宣彦監督の作品『野ゆき山ゆき海べゆき』が11月3日、TOHOシネマズ六本木でフィルム上映された。Q&Aでは大林監督の登壇が予定されていたが、体調不良により急きょ欠席に。MCを務める安藤紘平プログラミング・アドバイザー(以下、安藤PA)が、この日の朝に大林監督と電話で話した内容を語った。

野ゆき山ゆき海べゆき』は、佐藤春夫の自伝的小説「わんぱく時代」を実写映画化したもの。太平洋戦争の暗い影が押し寄せる広島・尾道を舞台に、尋常小学校に通う少年たちの牧歌的な「戦争ごっこ」と、徴兵される青年、身売りに出される少女の悲哀を描いた物語で、ひとつひとつ読み上げるようなセリフと歌舞伎を彷彿とさせる演技が特徴となっている。大林監督によれば、「原作である佐藤春夫の「わんぱく時代」の文学性を伝えるにあたって、リアルな作品にするのではなく、はっきりと言葉を読み上げさせ、「言葉」として伝えることで観客のイマジネーションのなかで映画を作り上げる」ための手法だという。

通常はフィルム上映を行えないTOHOシネマズのスクリーンだが、この日は客席最後部に特別に映写機を設置しての上映となった。安藤氏が事前に、大林監督に「映写機を客席に置くと、カタカタという音が入り込んでしまうが、問題ないか」と確認を取ったところ、「この映画は「作り物」。登場人物は朗読のようにしゃべり、会話の途中で突然、「持ち歌」を歌い出したりする。映写機の音が入り込むのも、「これはリアルではない」ことを示す良い試みになると思う」と快諾を得たことを報告した。

この朗読のような手法は、東京国際映画祭Japan Now部門出品作『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(長久允監督)でも用いられている。長久監督は大林監督を深く尊敬しており、この朗読スタイルが『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の主題である「現代社会に抑圧され、無感情になる子どもたち」を描くのに最適だと考えたようだ。晩年の黒澤明監督に「僕は老い先短いから、君(大林監督)が映画作りを継いでくれ。そして君も、若い世代に継いでいってくれ」という言葉を遺されたという大林監督は、次世代の長久監督が精神を受け継いでいると聞き、とても喜んでいたと安藤PAは笑みを浮かべる。

そして、偶然にも観客として来場していた今作の森岡道夫プロデューサーが、安藤PAの呼びかけに応じて登壇し、撮影当時を述懐。本作には子役を大勢登場させるため、撮影は夏休みに敢行し、子どもたちを1カ月預かる責任として宿泊先のホテルに家庭教師を呼び、毎日勉強の時間を作ったことを振り返っていた。

また安藤PAが、脚本を自分で書き換えることで有名な大林監督が、山田信夫脚本の今作ではほとんどそのまま使ったことを聞くと、森岡氏はそれを肯定。「ただし、クライマックスでお昌ちゃんと青年がふたりでボートに乗っていることを、前後の展開から総太郎は知らないはずなのに、知っていることになっているんです。ト書きには「総太郎は愛の力でふたりが同じボートに乗っていることを知る」と書かれていて、これは脚本の書き方としてルール違反なんですけど(笑)、大林監督は「これをどのように見せるかが腕の見せどころだ」と面白がっていましたね」と製作秘話を明かした。
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