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2019.10.31 [イベントレポート]
「新鮮な何かを2週間の間に与え続けた撮影だった」10/30(水)Q&A:日本映画スプラッシュ『猿楽町で会いましょう』

猿楽町で会いましょう

©2019 TIFF

 
10/30(水)日本映画スプラッシュ『猿楽町で会いましょう』上映後、児山 隆(監督)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 

矢田部PD(司会):長編日本映画、そして初の上映で初めてお客さんに見ていただいた、今の心境をお聞かせいただけますか。
 
児山 隆監督(以下・監督):もう多分ないことなので、本当にようやく映画監督になれたなと。皆さんが初めて見ていただくことで、僕が初めてちゃんと映画監督になれた瞬間だと思うので、今日観に来ていただいて本当に感謝しています。本当にありがとうございます。
 
矢田部PD:どの時点でどの程度、物語というのは出来ていたのでしょうか。あまり出来ていない段階から、どのようにしてこの物語を考えて発展させていったかっていう、そのプロセスをちょっと教えていただけますか。
 
監督:大まかなアウトライン、プロットというか、一人の男女が出会って別れていく様みたいなことは思っていて。そういうものを作ろうというのは、思っていました。ただ、すごく考えたのは構成です。そこにすごく悩みました。当初は全然違う構成にするつもりで。構成の仕方というか、その映画自体の仕組みというか、仕掛けというか。この映画自体は、実はものすごくシンプルな話で、男女が出会って別れるという話なので、それをどうサスペンス映画のような見え方というか、そういうことをすごく悩んでいて。色々試行錯誤してく中で、現状の…、今見ていただいた形に変化していったという感じですね。なので、話自体はあったのですが、それをどう構成に見せていくかというところにものすごく苦労しました。
 
矢田部PD:猿楽町という土地は監督にとって思い入れのあった土地なのか、この物語を作ったときに猿楽町だというふうに思いつかれたのか、そこを教えてください。
 
監督:未完成映画予告編大賞が地名を入れてください、どこか地名というか、舞台を設定してほしいっていうのがコンペの前提としてあったのですが。それを考えたときに、東京の話で、しかも真ん中の話を作りたいなと思っていて、猿楽で、どこどこで会いましょうっていうタイトルがパッと浮かびました。その際にそれをどこの舞台にすればいいのかなと思っていて、ちょっと色々理由はあるんですけど、色々地名を調べて、まず響きのいい場所がいいなと思って調べていたら、渋谷に猿楽町っていう場所があって、僕、広告のお仕事とかの監督の仕事をしていたりするんですけど、朝すごい早いと電車がなくて、タクシーでそこを通るんですよ。なんか変な場所だなと思って。めちゃくちゃ都会で、代官山で渋谷の間でみたいな、よくわかんない場所で、なんかその感じがすごいグッと来て、ここがいいかなと思った、そんな感じです。
 
矢田部PD:すばらしいお二人のキャスティングについてお伺いしたいのですが。映画初主演のお2人だったということで、監督も一本目であるというところで、役者の人たちとどのような準備をして臨まれたか、あるいは現場でどのような演出といいますか、コミュニケーションを図られたのかというところを教えていただけますか。
 
監督:分かりやすく具体的な準備でいうと、撮影期間がそんなに長くなかったので、2週間ぐらいだったんですけど。なので、一応メインキャストは一通り時間をいただいて、各シーン、本読みじゃなくて、一度動きのテストというか、そういうことはさせてもらいました。だけど、それでキャラクターを突き詰めるとかいう話でもなくて。例えば金子さんに関して言うと、金子さん、すごく男前の人なので…
 
矢田部PD:それはルックスだけではなくて、性格も?
 
監督:そうですね。その小山田っていう人はちょっと間の抜けたというか、ちょっと三枚目なところがあるので、初めて金子さんにお会いして話したのが、男前なんですけど、男前にならないようにしたいんですという話はしました。それは現場でも事前にも話し、コミュニケーションをとりながら、どうしたら男前に見えないようになるのかみたいな、変な話ですけど、そういうのはお話ししましたね。
石川さんはあんまり種明かしっていうのはしないで、例えばインタビューのシーンで長台詞をすごい等々と言うシーンがあるんですけど、あそことかも2日前とかに僕が脚本に追加して渡したり、何か彼女に新鮮な何かを2週間の間に与え続けるというか、そういうアプローチをずっとしてたような気がします。
 
矢田部PD:2人の間で、2人の組み合わせをよりリアルに見せるために、2人っきりにさせたりとか、2人で何かちょっとやってきてくださいだとか、そういったような工夫みたいなことってあったんですか。
 
監督:特にはないですね。いわゆる「ブルーバレンタイン」みたいに共同生活をするみたいなのは、そういうのは、やってはなくて、要はほかの男の人も関係してくる話だったりする。そのテストの時にちょっとその…他の人を会わせないようにはしましたね。それぞれのキャストが。例えば柳さんと金子さんが会わないようにしたり。
 
矢田部PD:なるほど。
 
監督:それは間接的に、要はそれぞれの男性は全員、石川さんのことを知ってるけど、それぞれの男性はそれぞれを知らないっていうか、そういうのとかは気を付けてました。
 
矢田部PD:面白いですね。
 
Q:『猿楽町で会いましょう』というタイトルが出たときにColorlessっていう英語が出たんですけれども、僕は田中ユカのことを表していると思うんですけど、監督はどういう意図でああいうタイトルを、副題なんですかね。そういう副題をつけられたのかお聞きしたいです。
 
監督:あれは副題というか英題になります。なんですけど、いろいろ海外の人に見ていただく時の英題なので。なんか猿楽町で会いましょうって言っても絶対ピンと来ない。ってなって、そうなったときに地名から離れて考えようかなっていうことで、色々話した中で、「私に色がないのかな」っていうことをユカが言うので、そういう紐づいたタイトルがいいのかなと思って、あのタイトルにしたという感じです。日本では多分あんまり、そんなに前に出てこないと思います。あれは海外のほうですね。
 
矢田部PD:役についての理解の深め方とか、そこは改めて監督と石川さんは、どのようなディスカッションをされたんでしょうか。
 
監督:深く語れば語るほど、輪郭が出すぎちゃうと、その人をすごく否定してしまうキャラクターだったので、この人はこうですっていうことはあんまり言わなかったかもしれないです。「ユカという人はどうなんですか?ここは」って言ったら、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないです。だから、すごく石川さんにとっては悩みながらやるんですけど、こうしてくださいと言いたくないキャラクターだったので、特にそこは明確な回答というのを、石川さんには特に与えなかったかもしれないです。むしろ逆に。
 
矢田部PD:石川さんからは聞かれました?
 
監督:めちゃくちゃ聞かれました。とにかく繰り返し聞かれました。
 
矢田部PD:そうですか。金子さんとはさっきの男前の話以外に金子さんが何か聞いてくるようなこととかってあったんですか。
 
監督:金子さんはもう本当にすばらしくて。ほぼ、もう万全の状態で来てくださいます。
すごくすばらしくて、僕らとしては特に真意を構築するうえで、ユカという人をどれだけ、言い方が悪いですけど追い詰めるかっていうのをすごく考えていたので。金子さんと、質問というよりかは、もっとこう強く言ったほうがいいのかとか、ユカに対してもっとどういうふうにやったほうがこのシーンはよくなるのかみたいなことを、二人で一緒に石川さん抜きで相談しました。だからいきなり現場でバンって怒鳴ったりするシーンとかも、割と金子さんのアドリブというか、例えばここは脚本にないけど、こういうこと言ってくださいだったり、石川さんには伝えずにそのままやったりとか、そういう感じでやっています。
 
矢田部PD:石川さんも生のリアクションという感じなんですか。
 
監督:そうですね。
 
矢田部PD:ありがとうございます。続いていかがでしょうか。
 
Q:素敵な作品、ありがとうございました。猿楽町って渋谷じゃないですか。実際に渋谷駅の近くと猿楽町のイメージってだいぶ違うと思うんですけど、実際に撮影を猿楽町で行ってみて感じたことってございましたでしょうか。
 
監督:猿楽町で撮影をしてみて思ったこと…?猿楽町…、さっきもちょっと話したんですけど不思議な場所だなあと思っていて、人通りもあんまりなくて、閑静な場所なんですよ。めちゃめちゃぼろいアパートがあったりとかして、でもめちゃくちゃ高いマンションもあったりとかする変な場所なので、なんかあの、ああいう、何ていうんですかね。僕、大阪出身なんですけど、大阪出身の東京ってやっぱり新宿、渋谷とか、ああいうものすごい高層ビルが建っていてっていうところをイメージすると思うんですけど、でも渋谷から徒歩で行けるような場所に、なんかよく分からない住宅街みたいなところがポツンとあるっていう感じは不思議な場所だなあっていうのは。ずっとそれは変わらず思っていますね。
 
矢田部PD:監督ご自身の一部が投影というか反映されているような部分というのはありますか。
 
監督:そうですね。小山田はあんまりないですけど、ユカみたいな人は出会った人の中で、でもあんな人じゃないんですけど、ああいう集合体というか、あんな人の集合体が僕の中のユカというか、そういう感じはあるかもしれないですね。
 
矢田部PD:なるほど。ありがとうございます。いかがでしょうか。先ほど猿楽町のアパートの話が出ましたけども、美術もとても見ごたえがあって、小山田のアパートはすごくいいなと思って見ていました。あれはセットなのかというところも含めてちょっとお話いただけますか。
 
監督:今回三ツ松けいこさんという美術の方に入っていただいて、三ツ松さんは言うと結構大きい映画もめちゃくちゃやってらっしゃる方で、その方をプロデューサーが口説いてくださって。今回こういう規模ですけど快諾してくださったというのがあります。あそこはロケセットというか、いわゆる空き家を借りてやったんですけども、結構綿密に話しながらかなり細かく飾ってくださったので、特に今回は映るものがもちろん映画って大事じゃないですか。映し方とかも、もちろん色々工夫はしているんですけど、やっぱり三ツ松さんの美術がこの映画をめちゃくちゃ豊かにしてくれてるなというふうに思っています。
 
矢田部PD:ゾンビはどなたですか。
 
監督:ゾンビは僕です。最悪ですよね。あそこ。
 
矢田部PD:そんなことないです。ありがとうございます。
 
Q:映像が綺麗で見ていてうっとりしました。映画を撮影されていて一番監督が良くできたなと思ったシーンとか、好きなシーンとかがあったら是非教えていただきたいです。
 
監督:僕は浜辺の引き絵が好きです。小西桜子さんという大島久子役の方が「入られまーす」っていう、なんかよく分からないけど好きなんですよ、あのシーンが。よく分からないですけど、たぶん普通の方と違うと思うんですけど、あそこが好きです。なぜか。
 
矢田部PD:それはやっぱり、光のいい時間帯を狙ってズバリの時間帯で撮れたっていうような満足感とかもあるんじゃないですか。
 
監督:お連れの人を連れてタレントとユカが入っていく、引き絵の美しい光の中のあの間抜けさとユカがすごく好きなんですよね。ああいうのがすごく好物です。まあでも美しいシーンはいっぱいありますね。僕は金子さんの顔が基本的にどれもいいなと思っていて。金子さんは本当にいい表情、それは石川さんもそうなんですけれども、なので割とどのシーンも好きですね。
 
Q:監督が一番時間を掛けて撮ったシーンとか、こだわって撮ったシーンとかはありますか?
 
監督:まずその美しい絵というのは、美術部の三ツ松さんが撮ってくれた美術と、あとはカメラマンの松石洪介さんと照明の佐伯琢磨君が作ってくれた世界なので、その三人が、それ以外の人間もそうですけど、もちろんエキストラの方もそうですけど、全身全霊みんなで作った故に綺麗になっているなって思っていて、そこはすごく感謝しています。時間をかけて撮った場所…。最後の喧嘩のところかもしれないです。あそこは割とすごく時間をかけて撮っていて、小山田とユカが「返して」って言って、「俺のだ」っていうシーンがあるんですけど、あそこ脚本上は空白になっていたんですよ。現場で考えますって書いていて。
 
矢田部PD:脚本にそう書いていたんですか?(笑)
 
監督:これは現場で考えますって台本に書いていて。夏の暑いときにやってたので、もうカメラマンの松石さんももう汗だくで、手持ちで撮ってくれていました。何回戦もやっていく中で、どんどん二人の表情がよくなっていったことがあったので、あそこは時間が必然的に掛かってしまうシーンであったんですけれども、あそこはすごい丁寧にやりました。
 
Q:エンドロールについてお聞きします。歌詞があって歌手の方が歌っているエンドロールが多い中で、今回歌とか言葉が無く、音だけのエンドロールだったと思うんですけれども、それにした意図を教えていただけたらと思います。
 
監督:主題歌はつけようと思っています。東京国際映画祭が急遽決まったので、急遽じゃないな(笑)。要は通ると思ってなかった(笑)。ということで、いろいろ僕も主題歌は時間を掛けて考えているので、これからちょっとまたエンドロールは変わるかもしれないです。なので、このバージョンっていうのはもしかしたら近いうちに見れなくなっちゃうかも。このエンドロールの余韻っていうのは大切なので、歌のあるやつに多分すると思います。ただちょっと結構エッチなやつになると思います。
 
矢田部PD:なるほど。最後の質問と言いながら私どうしても聞きたいことがあってもう一問いいですか。本当に美しい、美しいというご意見が多い中で私もとても美しい映画だと思っているのですが、その美しさに一層花を添える、ゲスの前野健太についてお伺いしたいんですけども。前野さんのキャスティングの経緯等々お伺いできますか。
 
監督:常にずっとキャスティングの新江佳子さんという方と相談しながらやらせてもらっていて、嵩村っていうキャラクターをどうするかというのはずっとみんなで話し合っていたんです。僕は最初は、結構かっこいいっていうか、嵩村がかっこ悪いっていう話じゃなくて、容姿的にすごく…前野さんかっこいいんですけど(笑)。もっとこうシュッとした人をずっとイメージしていたんですけど、キャスティングの新江さんとプロデューサーの利光さんが「絶対マエケンだ」って言うんです。頑なに言うんですよ。で、あれだけ言われて、映像とかも見たりして、こんなに言うんだったら前野さんかなっていう。だんだん気になってきて、だんだん前野さんってなってきたら脚本も微妙に前野さんになってきて。あの「グワングワンのクワイ=ガン・ジン」とかっていうのは前野さんになってから変えたんですよ。前野さんスター・ウォーズを観たことなくて、事前にエピソード1をちゃんと見てくれるっていう勉強家なところもあって。すごい良かったですね。たたずまいが本当に素晴らしくて。あんまり言われたらあれかもしれないですけど、真面目なんですよね、すごく。だからちゃんと現場に臨んでくれて、「役作りのために伊勢丹で下着を買った」とかって言ってて、すみませんよくわかんないって、「こっちで用意したのにしていいですか」って言ったら「あ、そうですか。」ってなんか寂しそうな顔していました。紙パンツがすごい綺麗に似合ってましたね。あの俯瞰の絵はやっぱり前野さん綺麗でしたね。
 
矢田部PD:ありがとうございます。あっという間に時間が来てしまいました。この作品は来年の2020年の春から夏にかけてというあたりに公開を予定しておりますので、またご注目いただきたいと思います。では監督、最後の言葉をいただけますでしょうか。
 
監督:矢田部さんも仰っていたんですけども、本当に僕は今日が初めての一般のお客さんの方に見ていただく時間だったので自分にとってかけがえのない一日になりました。本当に皆さんありがとうございます。いろんな人が僕のこの映画はすごく小さい作品なのでなかなかちょっと世の中に広める手段がなかなかなかったりするので、もし面白くても面白くなくてもSNSとかで感想を書いてもらえればとても嬉しいです。本当に皆さん今日はありがとうございました。

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