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2019.11.02 [イベントレポート]
麻薬問題が深刻なフィリピン 警察官が歌い、麻薬常習犯の投降を促す驚きの手法『マニャニータ』とは?
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限界まで削ぎ落したセリフとカメラの 動きでつづる、圧巻の143分

第32回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された『マニャニータ』が11月2日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、メガホンをとったポール・ソリアーノ監督、主演を務めたベラ・パディーリャが会見を行った。

共同脚本に鬼才ラブ・ディアスが名を連ねるフィリピン映画。顔の半分にあざを持つ射撃選手出身のヒロインは、軍に仕えたが職を解かれ、毎晩バーで泥酔する日々を送っている。やがて1本の電話をきっかけに、彼女の運命は大きく変化していく。

限界まで削ぎ落したセリフとカメラの動きでつづる、圧巻の143分。ソリアーノ監督は「物語を語る上で、ルールやガイドラインなしで、撮影したもので語らせる撮り方、編集をしたかった」「彼女の旅に付き合っていくことで、(観客は)居心地悪さを感じると思うし、忍耐を強いられる映画かもしれない」と思いを巡らせる。パディーリャは「人生で1番短い脚本で、全部で8ページでした」と挑戦的な作品であったことを訴え、「その短さのおかげで、気持ちや動きを自由にできる解放感がありました」と撮影を振り返った。

さらに、ソリアーノ監督はカメラの動きを制限した狙いに関して、「必要最低限の動きしかせず、いざという時は正確な動きをするスナイパーという役柄からインスピレーションを得ました」と明かす。「今回の手法は「トランセンデンタル・シネマ」といいます。カメラがずっと動かないので、皆さんはいろんな部分に気付くことができる。カメラが良く動くと気を取られてしまいますが、静止しているからこそ見えてくるものがあると思うんです」と解説を加えた。

劇中でもその光景が描かれ、タイトルにもなっている『マニャニータ』とは、フィリピン警察が麻薬常習犯を逮捕するために使う手法を指す。アジトなどを包囲した警察官が歌を歌って犯人の心をつかみ、投降を促すという驚きのアイデアだ。ソリアーノ監督は「皆さんも、フィリピンでドラッグが大きな問題になっていることをご存知だと思います。警察は縦社会なので、署長の言うことは絶対です。ある署長が「暴力を使って殺すのではなく、歌を使って心に訴えよう」という突拍子もない意見を出したんですね」と経緯を説明。さらに、「理由としてドラッグを使っている人は、気持ちが高ぶっているので、通常の人よりもより音楽や歌詞が届くそうなんです。実際にこの手法で1000人以上を逮捕できた。銃を使わず平和的に遂行でき、人々に更生するチャンスを与えるものなのです」と語る。音楽がキーポイントとなっている本作では、主人公の声を代弁するように多くの歌が使われ、ディアス監督が作り自ら歌唱した楽曲も登場している。

第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。
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