Close
2019.10.30 [イベントレポート]
「星野源さんがちょんまげすることに心配はなかった」」10/29(火):Q&A Japan Now『引っ越し大名!』

引っ越し大名

©2019 TIFF

 

10/29(火)Japan Now『引っ越し大名!』上映後、犬童一心(監督)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
犬童監督(以下、監督):どうもありがとうございます。よろしくお願いします。カバンを持って入ってくると近所の人みたいですよね(笑)。
司会(安藤紘平プログラミング・アドバイザー:以下・安藤PA):監督、この作品は非常に力が入っていないような、力が抜けた感じに見えますけど、本当はディテールなどものすごく凝っています。撮影は大変だったのでしょうか。
 
監督:僕がこの映画をどういう映画にしたいかというときに、一番のイメージにあったのは僕が子供のころ観ていた時代劇ですね。
簡単に言えば、娯楽時代劇と呼ばれている時代劇が、メインは東映で、いっぱい作られていたんです。大映とか名作がいっぱいあるし、小学生の頃に僕はテレビをいつも見ていました。そういう、娯楽時代劇をテレビでいっぱい見ていた時の楽しい感じというものを、今の時代のスクリーンにもう一回というのが狙いだったわけですね。
当時の時代劇というのは、ブロックブッキングで週2 本新作映画を上映するみたいな時代なわけですね。そういうローテーションで作っていた映画の持っている、例えば楽しい映画だったらちょっと軽い感じですね。
みんなプロフェッショナルだから真剣にはやっているけど、3年に1本とか5年に1本しか作らない映画監督が真剣に力を入れて映画を作っているのとちょっと違う、映画の持っている軽さみたいなものがあったわけですね、娯楽時代劇ってものには。それを今のスクリーンでもう一回やれないかみたいなことを目指していたわけなんです。
ところが僕自身は、前の『のぼうの城』という時代劇を作ってからもう6~7年経っているです。僕は今年2本の映画を公開して、2年で3本映画を作っていたわけですね。でも、昔のそういう娯楽映画を作っている監督ってもっと作っているんですよ。
だから力を入れるなと言われても、しかも映画会社のプロデューサーからすると、この映画を最初に企画してできるまでに2年、3年かかっていたりするわけじゃないですか。その映画を軽く作るっていうことは、そうとう意識しないとできないんですよ。
 
安藤PA:昔だったら、それこそひと月に1本くらいは必ず作っている感じだったでしょ。
 
監督:ええ、そうですよね。だからその軽さっていうものを意識的にやっていくつもりでやらないと…。真剣に肩の力を入れないっていうやり方をしていくことに近いんですよ。
僕は広告をずっとやっていたわけですけど、たまたま映画もやることになっていって、それでもう17、8本目ぐらいなんですよ。ある程度の経験は積んでいるので、最初の頃よりはプロフェッショナルに撮影を進められることができるようになったから、力を抜くことをできるのかもしれないです。それでも意識しないと、ある種の、「この撮影終わったら次の撮影入るから」みたいな感じは出せないっていうんですかね(笑)。
だけど、ディテールは昔の映画よりもちょっと…。この映画は2時間ありますけど、昔の映画だったら90分なわけですから、それもちょっと違っていたりするんですけど。
 
安藤PA:でも昔は中村錦之助も歌うし、高田浩吉も歌うしみたいな。
 
監督:時代劇の中で歌ったりするのは普通だったので、昔は。まあ今はインド映画くらいしか歌わないですけど。
 
安藤PA:昔は街道を歩くと必ず歌うしね。
 
監督:歌っていたり、歌謡スターと呼ばれている人たちが時代劇にいっぱい出てたし。呼吸として映画の中で開放されたりとか、みんなが揃って楽しくなるっていうとみんなで自然に歌を歌いながら歩くとか、それが普通でした。
星野源っていう人はものすごく優れた歌い手だし、高畑充希もそうなので。その②人の歌の能力を使わないのももったいないし。
 
3A5A7079

©2019 TIFF

 

安藤PA:あの高橋一生さんも加えた3人のキャスティングはどういうふうに考えたのかと思うほどに、見事なキャスティングですね。どういうイメージからですか。最初からですか。
 
監督:脚本がだいたいできてきて、狙いとしては今みたいな事をやろうとしていて、引きこもりの侍っていうキャラクターを誰にやってもらおうかっていう時に、松竹のプロデューサーの矢島さんが、ある日「星野源さんてどうなんですかね」って言ったんですよ。
僕は考えてなくて、星野さんのことは。そのときは、本当に誰も思いついていなかった。これやるのかなーみたいな感じがあったんですけど。
僕は前に彼(星野さん)に映画音楽を頼んだことがあって。『黄色い涙』っていう映画で。SAKEROCKっていうバンドをやっていた時に何度も会っていたので、普段の彼のイメージ、ミュージシャンの彼の感じが僕の中に残っているんですよ。で、俳優としてもテレビでもすごく最近ちゃんとしっかりした演技をする俳優としてね、みんなに知られてきているし。元々知っている本人の感じがすごくあったから「あ、すごくいいんじゃないかな」と思ったんですよね。
 
安藤PA:でも、星野さんは引きこもりっぽいんですか?
 
監督:星野さんは引きこもりではないんですけど、ある種のオタクではあると思いますね。
ものすごく音楽的なオタクで、僕が最初に頼んだSAKEROCKっていうバンドも当時誰もやらないような音楽をやっていたので。
冗談音楽のスパイク・ジョーンズって知っていますか。スパイク・ジョーンズの話をする人って僕の周りにほとんどいないんですけど、星野さんだとわかるんですよね、普通に。っていうぐらいオタク。ここにいる人たちがわかるかどうか、わかんないですけど(笑)。
 
安藤PA:あの星野さんがカツラかぶってちょんまげっていうイメージは全然なかったですが、それは大丈夫だと思いましたか。
 
監督:原作者の土橋さんは、前に『超高速!参勤交代』があるわけです。彼は、僕とはちょっと違うんですけど、時代劇っていうものを今の時代に移し替える作業を一生懸命やっているわけですね。その時に彼も本格にはしないんですよ。
娯楽時代劇と呼ばれいてるものがあれば、本格時代劇と呼ばれているものがあるわけですね。今は本格時代劇の時代ですよ。やっぱり何年かに1本しか映画を撮らない監督が、本格に賭けて3年準備して映画撮るみたいな。そういう映画の時代なわけですね。
だけど、そういう時代に、あえて土橋さんは娯楽時代劇というか、過去の時代劇のテイストを借りながら今の話をそこに盛り込むということをやっている人なので。その土橋さんという作家のやっていることに乗っかるという話で言えば、星野さんがちょんまげするってことには特に心配はなかった。
 
安藤PA:ありませんでしたか。
 
監督:これが本格時代劇やるっていうときには、僕は星野さんできると思うんです、相当クレバーな俳優さんなんで。だけど、ちょっと考えたかも知れないです。星野さんがやるってことに関して、逆にいいなとしか思わなかったんですね。これで周りを固められるって思いましたね。
 
安藤PA:周りが素晴らしいですね。
 
監督:高橋一生さんも、矢島さんが言ってきたんですよ。それは僕まったく思いつかなくて、考えもしなかった。ただ、『シン・ゴジラ』の中の高橋一生さん、あの爆発する科学者の役が僕すごい好きで。それをすぐ思い出して「ああ、あいつならやれる」って感じがしました。
彼はどちらかというと、静かなちょっと変わり者とか、ナチュラルな演技とかをやっていることが多い印象があった。ただ、僕の中では実は一番は『シン・ゴジラ』なんですよ、高橋一生さんって。だからあの爆発するとんでもない科学者のテンションがあればと思いました。
高橋一生さんがやっている鷹村という役は、まったく成長しない、どうしようもない侍を作りたかったんですね。星野さんは成長していくんですけど、彼はまったく成長しない。成長する物語っていうものをみんなすごくいいなと思って見ているんですよ。モラルってものをみんな持っているから。でも、僕はいつも成長しなくてもいいと思っているんです。
 
安藤PA:変わらない美しさがありましたね。
 
監督:変わらない美しさがあれば、成長なんかしなくていいだろうといつも思っているんですよ。僕は成長しようと思っていますけど。成長しなきゃいけないとか、成功しなきゃいけないとか、そういうことを本気で思っている人たちがそれを大事にするのはいいけど、「じゃなきゃダメだ」ってやつが嫌いなんですよ。だから成長しなきゃいけない星野源ってキャラクターがいたら、まったく成長しない鷹村は絶対に置きたかったわけです。
それを高橋一生ならやれると思ったんです。
1つは、成長しないああいう役を本気でやるっていうのはものすごくクレバーじゃなきゃできないんですよ。クレバーな俳優ほど、そういう役がやり甲斐があって、そういう人間が魅力的で意味があるってことをちゃんとわかってやれるけど、逆にクレバーじゃないと「こいつってどこにやり甲斐があるんですか」ってなりかねないところがあるわけですね。それを高橋さんならやれる。それは彼が星野さんと同じで、すごくクレバーだからだと思うんです。
 
安藤PA:だからすごく魅力ですよね。
 
監督:あと高畑充希は僕が頼みました。僕は彼女がピーターパンやっている頃から知っていて。初めて会ったはだいぶ前のことです。その頃今みたいにまだ有名じゃなくて、でもその時から高畑充希さんに会うといつも自分がお姉さんに怒られているような気持ちになっていたんです。
常に正しくてしっかりしていて、僕みたいなダメな人間がいると、別に叱ってるわけじゃないんだけど「なんかすいません」って気持ちになるっていうんですか。
 
安藤PA:星野源、高橋一生がまさにそうでしたね。
 
監督:そういうふうになってしまうっていう女性像を作りたかったので。これは高畑さんにやってもらうのがいいんじゃないかって、矢島さんにお願いして。それであのトリオが完成したんです。
 
安藤PA:あのトリオの抜群の良さですよね。さらに、周りに魅力的な脇の方がいますね。
 
監督:昔の娯楽時代劇を見ているときに、脇役はいつも定番なんですね。悪役はこの人とか、主人公の味方になるのはこの人とか。登場してくると、その人たちが魅力的なので、見ていると時間が過ぎていくという在り方があるんですよ。脇役が飽きさせずに時間を進めていってくれるという。
定番のキャラではあるんですけど、安心感があるんですよ。定番のキャラが出てきて、役割を果たしていくっていう。それを見ているのが映画の呼吸になっている.そういう脇役の人たちに出てほしかったわけです。それを、矢島さんが全部そろえてくれたんです。
矢島さんは、この映画の前に土橋さんの別のシリーズをやっていて、選りすぐりの人をこっちに連れてきてくれて、役割にあてていっているというか。
僕は時代劇は6年ぶりくらいですけど、彼らはしょっちゅう出ているわけですね。僕にとっては久しぶりの時代劇だから一生懸命肩の力を抜くように努力しないといけないんですよ。彼らはそれが呼吸としてそれができる。
 
安藤PA:普通になっている。
 
監督;今日行って、自分の役割を果たして帰るっていう。その呼吸を脇役の俳優が持っていて、映画のテイストをちゃんと把握して、撮影所で役割を果たして帰るという事をやってくれるわけです。僕はそれに乗っかるってことです。僕が細かく演出ができるかっていうと、やり始めると肩に力が入るから、できるだけ彼らがやろうとしていることを上手に乗っていくことを積み重ねていく。そういう呼吸で撮るみたいな。
 
安藤PA:彼らは今度の映画はものすごく楽しいものだから、楽しくやろうとしている。それを切り取ったような気がします。
 
監督:自由にね。ある意味勝手なんですけど、僕の欲しいものをちゃんとわかってくれていて、そのうえで自分のできることを果たしていく。それを見ていくと時間が過ぎていく感じというんですかね。
 
安藤PA:それがすごく現代的になっています。将来に借金を残してはいけないとか、逃げようとする星野源をラグビーのタックルで捕まえるとか。そういうのは俳優さんのアドリブですか。
 
監督:そうですね。ああいうところは遊ぶというか。借金を返さなきゃという話は、みんなが思っていることなので、ちょっと星野さんに言ってもらおうとかね。そういうことを盛り込むことができるフローが、もともとの土橋さんの原作、土橋さんのテイストにあって入れていける。
 
Q1:砂浜の格闘シーンは、雨のこともあって予定時間よりもかかったと聞きましたが、アングルは考えて作っているんですか。
 
監督:あのシーンはもとよりも時間はかかっていません。4日の予定を3日半で撮っているので。実際の予定よりも撮影の予定は短くなっていけれ、飛び飛びになっているんですよ。続けて撮るはずだったのが、雨で流れちゃって飛んで続きを撮るっていうふうになってしまいました。
簡単に言うと、全カット、コンテがあって、撮っているんです。飛び飛びでバラバラに撮影しても全部つながるようにしないとだめってことです。
あのシーンは全員出ているじゃないですか。ここだけの話ですけれど、たくさん出ているということは、いなくても撮っているということなんです。どういうことかというと、松重さんって、4日も全部来られるわけないじゃないですか。だから、全部繋げるためには、まずコンテを作っておいて。例えばここ(のシーン)を撮ったら、実際は2週間くらい跳んで次のカットを撮らなければならないわけです。間のいないシーンは、うまくごまかしていったりして全部が繋がっていくようにしなければならないんです。
 
Q1:アングルが素晴らしくて魅力があるなあって思いました。
 
監督:カメラマンの江原さんが松竹の京都で時代劇をいっぱい撮っているんです。助手時代に『必殺』から始めて、ずっと時代劇を京都で撮ってきている人なので。『のぼうの城』も一緒にやっているんですが、コンテを渡して、実際にカメラ位置を決めてレンズを決めるスピードがものすごく早いんです。
時代劇経験のない人が殺陣のシーンを僕の描いたコンテで全部撮ろうと思ったら、もっとずっと時間がかかるんですよ。京都の時代劇のプロフェッショナルな人の技術は、衣装もカツラも一緒なんですが、カメラマンとか照明とかまで全部どうしても必要なんです。
一番は時代劇というものの中身がわかっていることなんです。その次は技術があって、しかもスピードですね。ふん装している人たちを撮るのって、早く撮らないと、みんな大変なんですよ、もたなくて。朝来てふん装して、撮影中もずっとふん装して、終わって落とすまで。待ち時間とかも、ずっと大変なんです。
星野さんは今回初めてちゃんと主役をやったから、ふん装して主役をやる経験は、相当しんどかったと思います。現代劇と違って。撮影時間自体はこの映画は毎日そんなにかかってないんですけど、現代劇と違ってふん装でやるので大変さが生まれるんです。
 
安藤PA:『のぼうの城』はけっこう合成を使ったりしていましたが、これはどうですか。
 
監督:これはあんまり合成を使っていません。そんなに大作ではないので。でも大作ではないというよさが映画にはあるというのをわかっていただけたらと思います。
昔プログラム・ピクチャーという言葉がありました。今一本立てて、各社が本気で一本ずつやらなくちゃいけないときに、プログラム・ピクチャー自体が存在してないと思うんです。だけど、プログラム・ピクチャー的な映画の面白さというのがあるので、それをちょっと利用しているんですね。だからお金はかかっているけど、大作ではないということですね。
 
Q2:主軸に引っ越しということがあると思うんですけれど、少しボーイズラブ的な要素も見受けられました。その理由、背景はあるのでしょうか。
 
監督:土橋さんが好きなんですよね(笑)。そういうテイストをドラマに入れるのが。もうひとつは松平直矩という人は日記をちゃんとつけていて、彼がどういう人だったのかが意外と残っているんですけど。彼がそうだっていうことを多分土橋さんは調べて元にしていました。
こういう映画の場合ってリアリズムのラインを早く決めちゃったほうがいいと思うんですよ、僕は。見ながらだんだんリアリズムが何かっていうのがわかっていくよりも。あ、僕の映画っていつもはこういうリアリズムの概念で作ってないですからね。この映画のような娯楽時代劇をやるってなったときに、リアリズムはこの辺でやるぜっていうのを早めに決めてしまって。土橋さんの脚本で最初にあのシーンがあったわけですけど、その時にまあいいんじゃないかなと思ったわけです。彼はもともとボーイズラブを利用しているけど、僕は違う意味で利用する、ラインを決めるのに利用するみたいな感じで使っているってことですかね。
 
Q3:先ほどの殺陣のシーンとか、これはアドリブなんだろうというシーンがたくさんあったと思うんです。そこはどこまで役者さんに自由にさせているのですか。
 
監督:今回の撮影で星野さんを見ていて一番楽しかったシーンは、刀を抜き間違えるシーン。流れは全部決まっていてカットは決まっているんですよ。星野さんに、こういうふうにするって言って。ある程度ああいうことをやるっていうのは決まっているんですけど、あそこまで押したりするのは彼がやるんですよね。
例えば、窮地に追い詰められたときに、刀を振り回したりするじゃないですか。彼は刀はほとんど使えなくて、興味がないし、どちらかというと嫌っているっていう設定をしているんですね。
そういう時に、ああいう殺陣に巻き込まれたときにどうするかっていうとこは、ほしいものは説明するけど、振り回してくれとは言わないんですよね。そうすると彼が勝手に振り回しているから、見て、OKって言って終わる、みたいな(笑い)。
すごく感心しているんですけど、よかったら何も言わないっていうことですよ。それをアドリブと呼ぶかということなんですよ。僕は理想は撮影していて、撮影初日から最後まで何も言わないで最後まで終わるのが理想ですよね。
 
安藤PA:クリント・イーストウッドもそういう感じですよね。
 
監督:カメラマンにも何も言わずに、助監督にも何も言わずに、撮影が全部済んでいたら、こんな最高な映画はないと思います。でも、俳優の演技が特にそう思いますね。なんか、何も別に言ってないけど、本当にこの人たちいい演技する素晴らしい人たちだなと思って、で、撮影が早く終わって奥さんとご飯を食べるっていう。
 
安藤PA:そういう撮影の場を作られているということですね。
 
監督:それが理想、という話です。
 
安藤PA:みなさん、どうもありがとうございました。犬童監督、本当に楽しい映画をありがとうございました。

オフィシャルパートナー