ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、戦争を 経験した主演俳優アンドリー・リマルーク
第32回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された『
アトランティス』が10月30日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、メガホンをとったヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、主演を務めたアンドリー・リマルークが会見を行った。
荒廃した土地を硬質な映像美、ワンシーン・ワンショットで映し出すウクライナ発のディストピア異色作。2025年の戦争直後の世界で、深いトラウマを抱えた元兵士の男は、身元不明の死体発掘に携わる女性と出会い、自らの過去と向き合う。
「「ウクライナではまだ戦争が続いている」ということをリマインドするために、この映画を撮りました」と強い眼差しで、ウクライナ東部紛争に言及するバシャノビチ監督。時代設定を現代にしたり、ドキュメンタリー形式で描いたりといった選択肢を避け、あえて近未来に設定した理由を「これまで撮られた多くの戦争映画は、戦争が終わって10年後、15年後に撮られたものが多いと思います。戦争をテーマに映画を撮ろうとすると、政治的な問題が絡み、「敵軍が悪いものだ」という考えが現れてしまう。そういったことを避けて、純粋に映画を撮りたかった。戦争によってどのような変化がもたらされるか、ということを描くために、近未来(という設定)は正しい選択だったと思います」と語る。
ヴァシャノヴィチ監督は、「プロの俳優は使わない」「戦争経験者、戦争によってトラウマが生まれ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えている人に演じてほしかった」とオーディションのコンセプトを説明する。「俳優ではなく戦争経験者にしか演じきれない」役に抜てきされ、本作が初演技となったリマルークは、「戦争というのは常にいつも恐ろしいものです。私は(2015年頃の)1年半、戦争に参加し、血、死、爆発などを目撃してきました」と自身のトラウマを明かす。さらに、「劇中では現在のウクライナ人が抱える、PTSDという問題が如実に示されている。統計的なデータですが、戦争経験者の10%はアルコール依存症など何らかの中毒になり、7~8%は自殺という形で生涯を終えているのです」と、戦争の記憶により苦しみ、人生を狂わされていく人々に思いを馳せていた。
戦争時の記憶をよみがえらせながら撮影に参加したというリマルーク。ヴァシャノヴィチ監督は「(彼には)撮影で非常に大変な思いをさせてしまいました。「彼は撮影でのPTSDも加わって、二重にPTSDを抱えてしまっている」と、ジョークとしてですが、スタッフとも話していたのです」といい、覚悟をもって撮影に臨んだリマルークの演技を絶賛していた。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。