10/28(月)国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA ♯06 ファンタスティック! 東南アジア『停止』上映後、ピンキー・アマドアさん(女優・左)、マラ・ロペスさん(女優・右)をお迎えし、Q&A が行われました。
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ピンキー・アマドア:今回、日本も東京国際映画祭も初めてでとても嬉しく思います。ラヴ・ディアス監督の作品に出られて、そしてその作品を東京に持って来られて、とても光栄です。
マラ・ロペス:(日本語で)ちょっと日本語を話せますので。私たちの映画を見てくれて本当にありがとうございました。すごく長い作品でしたが、皆さん、お尻は大丈夫ですか?(笑)。ラヴ・ディアスのファンの皆さんが言っておられますが、(本作は)ラヴ・ディアスの多分一番短い映画だと思います(笑)。フィリピンを代表できるなんて、すごくとても嬉しいです。今、すごく緊張しています。日本に住んでいる私の家族が来ていますが、みんな来てくれて本当にありがとうございます。
石坂PD:サプライズにしようと思っていたのですが、マラ・ロペスさんはお父さまが日本人なので、マラ・ロペス・ヨコハマとして活動されている時もあるんですよね。でも、生まれは横浜ではないそうですね。
マラ・ロペス:生まれはアメリカですが、故郷は徳之島です。奄美大島の隣の島です。
石坂PD:東京よりも徳之島によく行かれるそうで、日本とフィリピンにゆかりのある女優さんでいらっしゃいます。
では、私から1つ質問します。ラヴ・ディアス作品を東京国際映画祭でいつも上映しているのですが、俳優さんに来ていただいた時には、「ラヴ・ディアスの映画に出ることは、俳優さんにとって特別な体験ですか?」という質問をしているので、お2人にも同じ質問をしたいと思います。
マラ・ロペス:私は、今回ラヴ・ディアス監督の作品に出るのは初めてでした。通常は、何度も何度もオーディションを受けてやっと役をいただけるのですが、今回驚いたのは、すでにお電話をいただいた時点で「あなたは出演が決まりました」と言われ、オーディションはありませんでした。正直言いまして、ラヴ・ディアス監督のファンでしたし、長年映画業界にいて、ラヴ・ディアス監督は我々にとってのヒーローであり、憧れの存在ですから、彼の作品に出られることはとても嬉しかったです。先ほど裏でも話をしていたのですが、撮影初日は大変緊張しました。でも、そのシーンが終わった後は平気でした。なぜならば、監督はとても優しい方ですし、何といっても彼はロックスターですから。
ピンキー・アマドア:私にとってラヴ・ディアス作品は3度目です。ラヴ・ディアス監督は、フィリピンではどうしてもアートハウスの監督と認識されてしまうのですが、彼の海外での活躍を見ると、私は全く異なる印象を持っています。この2年間、彼の作品に出たおかげで3つの国際映画祭に参加することができました。最初に『悪魔の季節』でベルリン、今回の『停止』でカンヌそして東京に来させていただき、何といっても、彼の人気は海外ではとてつもなく大きいと実感しております。有名な国際映画祭の方々が、こぞって彼のインタビューや記者会見に参加して、彼がどういうことを考えているのかということを本当に知りたがっているのです。特に2作目、3作目の作品で感じたことですが、ラヴ・ディアス監督は常に進化を続けておられ、そして自分が作り上げたジャンルであるにもかかわらず、それを常に改革しよう、何か新しいものを作り出そうという気持ちを持っておられる方です。それが大変すばらしいと思います。彼にとっては、スローシネマでは飽き足らないんですね。どうにかして、それを何らの形で進化させようと常に思い続けておられる監督です。
Q:『悪魔の季節』を拝見して、ピンキー・アマドアさんはこんな美しい方なのにあまり美しく撮ってもらってなかったなと思いました。今日の映画では大変美しくて、ちょっとほっとしました。今回の作品は夜間撮影が大変多くて、撮影中は昼夜逆転して大変だったのではないかとか、1シーンがとても長くてセリフを覚えるのは大変でしたか?
ピンキー・アマドア:今回それぞれの俳優にカンペがあり、それをアシスタントディレクターに持ってもらい、難しく覚えにくい言葉に対応しました。なぜならば、朝の4時にセリフを覚えろと言われてもなかなか覚えることができません。長回しのシーンは特にそうです。忘れもしない私が覚えられなかった言葉は「verisimilitude(真実味)」という言葉ですが、カンペで台詞を見せてもらいながら撮影に挑みました。また、『悪魔の季節』についても少し話させてもらうと、女優にとって、そして俳優にとっての最大の喜びは、その役にのめり込み、役の中で自分自身を消せるということです。ラヴ・ディアス監督はそういった役を私に与えてくださり、大変ありがたく思っています。
マラ・ロペス:ラヴ・ディアス監督の撮影では、当日にならないとどのシーンを撮影するのか教えてもらえません。脚本も当日の朝にならないともらえません。それと監督はテクニカルな問題でどうしても撮影し直す必要がない限り、1回のテイクで済ませてしまいます。テイク2やテイク3はないので、一発勝負でやらなければいけないということは女優にとっては大変です。
石坂PD:マラさんはメドーサ監督とも何度も組んでおられますね。お2人の監督は仲がいいですが、やり方も似ているんですか?
マラ・ロペス:その日まで何をするかわからないのは同じです。ラヴ・ディアス監督は朝に何をするかわかりますが、メンドーサ監督はシーンの前になるまで全くわかりません。スクリプトもありません。シーンの前にどのシーンを撮影するのかもわかりません。そこが違います。
ピンキー・アマドア:『悪魔の季節』は、マレーシアで撮影しました。今回のテイストとは全く真逆で、だいたい朝の5時から撮影に入り、9時にはその日の仕事がすべて終わるという形でした。ラヴ・ディアス監督は午前3時ぐらいに起きて、必ず少しギターを弾かれます。そのあとに脚本を考えて5時までには書き上げ、書き上げたばかりのその日の分の脚本を私たち俳優がもらって撮影するという形でした。今回の『停止』の場合、私は長いセリフが多かったので、マラさんとはちょっと違って、2~3日前には脚本をもらいました。とてもラッキーだったと思います。実際に撮影する日には改稿されていることもありますが、一番遅くて撮影の前の晩には脚本をもらうことができました。次の日の撮影は、夕方の4~5時から始まるので、丸一日ありました。撮影は、日が落ちる6時ぐらいから、翌朝の日が昇る5時ぐらいまで行われました。
Q:とても印象的な作品で面白かったです。その日の朝まで脚本ができてないということにとても驚きましたが、撮影の前の段階では映画のどのような要素を共有されているのかを聞かせてください。
ピンキー・アマドア:ラヴ・ディアス監督とは、彼の次回作にも出させていただくことになり、撮影が今月の終わりから始まりますが、彼の作品の全てがとてもコンフィデンシャルです。コンフィデンシャル、機密性が高いということは良い面も悪い面もあります。『停止』の場合は、全体の物語の約半分~4分の3のシノプシスをいただきました。もちろんそこからは随分変わりました。なぜならプリプロダクションから撮影終了までにいろいろな問題がありましたからね。でも、私たちは大体のアイディアは教えていただきました。
マラ・ロペス:やっぱり撮影の日まで本当に何もわかりませんでした。いつもサプライズがあり、秘密が多いです。でも女優にとっては、それがいいと思います。もっとナチュラルにデリバリー(演技)ができますから。
Q:当日にしかシナリオを渡されないというのであれば、どのように役作りをしたのか教えてください。また、長い映画ですが撮影のための拘束期間はどれぐらいだったのでしょうか?
ピンキー・アマドア:ラヴ・ディアス監督の場合、彼を100%信頼するとしか私には言えません。いろいろな記者会見やインタビューで監督のことについて聞かれますが、私も他の共演者も、「常に監督を信じて、監督の言うとおりにした」と言うほかありません。幸いなことに大変信頼できる監督で、それは彼の作品の威厳、すばらしさを見ればわかります。先ほども申し上げましたが、私の場合、脚本を2~3日前にいただきました。自分なりに少し役作りはできましたが、監督に「このシーンはどうしましょうか」と相談すると、いつも彼が返してくる言葉は「君のしたいようにしなさい。君のことを信頼しているから」というものでした。そうすると、私としてはとても責任が大きいのですが、そうした場合にはいただいた脚本の台詞を何度も何度も読み返して、その台詞は自分にとってどのような意味なのか、そして私だけではなく私が演じている役にとってどのような意味なのかということを反復して考えながら役作りをしました。
撮影が始まったのは去年の11月頃で、クランクアップしたのは2月か3月だったと思います。毎日撮影していたわけではなくて、1週間のうちに2~3日ぐらいでしたから、実際に撮影した期間は全体で20~25日ぐらいになります。
石坂PD:4時間半の出来上がりから見ると、短いほうかもしれませんね。