[映画.com ニュース]国際交流基金アジアセンターによる、日本と東南アジアの文化交流事業を紹介する祭典「響きあうアジア2019」の一企画の特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」が開催中だ。7月3日、東京・池袋の東京芸術劇場で「映画分野における日本と東南アジアの国際展開を考える」と題したシンポジウムが行われた。第2部「映画制作におけるコラボレーションの未来図」で、シンガポールのエリック・クー監督、インドネシアのガリン・ヌグロホ監督、フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督が登壇した。
漫画家・辰巳ヨシヒロの半生を映画化した長編アニメ『TATSUMI マンガに革命を起こした男』や、斎藤工主演のシンガポール・日本・フランス合作映画『家族のレシピ』など、日本との関係も深いクー監督。現在ケーブルテレビ局・HBOアジアで、幽霊をテーマにしたホラーオムニバス『フォークロア』と、食をテーマした第2弾『FOODLORE』のプロデューサーを務め、それぞれ1話ずつ斎藤工が監督していると紹介した。
「『フォークロア』は、アジア各地で幽霊の存在を信じる民話があり、それが非常に興味深いと思いはじまった企画です。HBOのシリーズでは、すべてのエピソードをそれぞれの母国語を使い、文化的、精神的に違うものを作りたいと主張しました。アジアはいろんな流儀の映画製作ができるのが興味深いところ。『FOODLORE』という食のシリーズの7話目は、斎藤さんが高崎で監督しています。今後もいろんなシリーズを手掛け、動画配信でも新たな表現方法を届けていきたい」と、アジアの多様性を盛り込んだ作品への意欲を見せる。
また、シンガポール人と日本人のクルーと仕事をした際を振り返り、「私のやり方では時に即興性もあります。我々は撮るのが早くて、3テイクしか取りません。斎藤さんはドキュメンタリーのようだと言いました。日本のクルーも非常に優秀です。しかし、少しコントロールされたやり方だと感じることもありました。インドネシアのクルーと仕事をする機会がありましたが、こちらはダイナミックです。アジア中から様々なスタッフが集まるのは互いに良いこと」とそれぞれの国のやり方の違いに敬意を払う。
メンドーサ監督は、東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターとの共同プロジェクトとして製作されたオムニバス『アジア三面鏡2016 リフレクションズ』で、『SHINIUMA Dead Horse』を担当した。同作は北海道を舞台にした、フィリピン人不法労働者の物語だ。
「初めて北海道の雪を見て驚き、その雪を捉えたいと思いました。私の映画の撮り方は、日本とはだいぶ違うようで、苦労しました。日本の映画づくりは組織立っていますが、私の作り方は即興的で、台本や脚本もすべてフォローすることはありません。連れてきたクルーも少人数でしたから、日本のスタッフが私の映画作りを心配していたようです。最終日のフライトが吹雪でキャンセルとなり、俳優も帰国できなかったので、吹雪の中、即興で撮影をしました。それがこの映画の重要なものになりました。主人公が見るフィリピンの夢の雪のシーンとして使えたのです」とハプニングが作品に思わぬ効果をもたらしたと明かす。
「しかし、最終的にはお互い協力しなければなりません。日本人も我々のプロセスを信頼してくれるようになりました。私は、フィリピンでは自分のネットワークを使って、どこでも撮影できますが、外国ではルールを守り、許可を取ったりすることが必要です。そういった仕事のスタイルを、学ぶチャンスになりました」と『アジア三面鏡2016』での経験を糧にし、現在、佐賀と東京で新たなプロジェクトを進めているそう。「私の映画の作り方を分かってくださったのでやりやすくなりました。日本という美しい国で撮影できることが楽しみです」と意気込んだ。
第51回カンヌ映画祭(1998) ある視点部門出品作『枕の上の葉』など、インドネシアのアート映画で知られるヌグロホ監督は、インドネシアのアーティストのほか、音楽家の森永泰広氏と「水曜日のカンパネラ」ボーカルのコムアイを起用し、サイレント映画『サタンジャワ』に劇伴を生演奏と音響設計で作る、1回限りのライブ公演を東京で開催した。
「私の作品では、口頭で伝承されている物語を基にしているので、脚本はではなく、自発的なストーリー性を作っていくのがコラボレーションするのに重要」と、日本以外での国でも様々なアーティストと組み、成功してきた理由を挙げる。
東南アジア映画の特色については「インドネシアには多くのパラドックスがあります。もちろんシンガポールの方が経済発展はしていますが、同じようにアジアのカオスの中にあり、そこにクリエイティビティがあるのです」と述べる。また、インドネシアでは、伝統的な風習や儀式が重要視されているとのことで、「映画もそのひとつ。いろいろなものを設置し、さまざまな得意分野をもった人が集まるアートです。即興性はサーカスのアクロバットの様なもの。そういったハプニングアートをインドネシアでやってみたいですし、そういった美しさをアジアは許容していると思います。現在、アートにも境界線がなくなり、ハプニングアート、対話、テクノロジーに新しい意味や観点を見出し、その上でリアリティも面白くなっている。アジアにはさまざまなカオスとパラドックスと美しさがあり、そのカオスがクリエイティビティにつながるのです」と持論を語った。
そのほか、デジタル時代だからこそ挑戦できる映画製作、新しいテクノロジーや多文化のコラボレーションによって生み出される価値、それぞれの監督が新人時代から、資金面を含め長編作で成功した経緯などを語り合った。
特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」は、7月10日まで有楽町スバル座で開催。