11/3(日)日本映画スプラッシュ『猿楽町で会いましょう』上映後、児山 隆監督、石川瑠華さん(女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:笠井信輔さん(以下、笠井さん):NEWヒロインの誕生と言いましょうか。4年前の東京国際映画祭のスプラッシュ部門で『友達のパパが好き』という作品がありまして、岸井ゆきのさんが大変輝いていました。そこからメキメキと岸井さんは実力を示しました。石川瑠華さんがまさに今回「おっ見つけた」という感じの存在感がある女優さんだったなと思います。
では、一言ずつご挨拶をいただきたいと思います。まずは児山監督からお願いします。
児山 隆監督(以下、監督):監督の児山です。こんな早い時間から、皆さん観に来てくださって、本当に本当に感謝しております。楽しんでくださったということをちょっと祈って。今日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。
石川瑠華さん(以下、石川さん):同じく、早い時間からありがとうございます。田中ユカ役を演じました石川瑠華です。『猿楽町で会いましょう』のことをできる限り答えたいと思います。よろしくお願いします。
 
笠井さん:まずは私から、児山監督、夢の旅にはまっていくという嘘から抜け出せなくなった複雑な女性の心模様を上手く描いてるなと思いました。
ヒロインに抜擢する際に、素人だった石川さんのインスタグラムを見て直接連絡を取ったということです。かなり無茶なキャスティングだと思いますけど、会ってみてお芝居が下手とわかったら、どうするつもりだったんですか。
監督:このキャラクターは、まず見た目の説得力というか、実在感みたいなものが絶対的に必要だなと思っていて。さすがに僕もそこは思っていたので、ちょうどキャスティングをする直前に石川さんが舞台をやってらっしゃったんですよ。
この話はしたことがあるんですが、その(舞台の)役に、本人は納得してるんでしょうけど、「ん?なんでだ?」みたいな感じで。石川さんは刑事役だったんですけど、なんか変なちぐはぐ感というか、下手ではなくて、ものすごいちゃんと一生懸命やっていらっしゃるんですけど、なんか自我というか自意識がすごい感じられたんですね。
僕は、それがこの人のすごくいい部分な気がして、その後にDMを送ったという感じです。こっそり(事前に)観に行ったという感じです。
笠井さん:石川さんも、主演女優やりませんかというインスタグラムに来る怪しいメッセージに気軽にOKを出すのはどうかなとも思いますが(笑)、どうだったのでしょう。
石川さん:そうですよね、私も思います(笑)。あの頃は二年前なんですけど。つい最近それを見返してて、「大丈夫です!絵文字、絵文字、絵文字」みたいな。なんかすごい軽いなって自分でも思いながら(笑)。
(児山監督が誰かも)わからないのに。でも、「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」っていうのは確かにあって、それにこの作品の予告を出したいっていう意思は伝えていただきました。私でよければって、あの時は思って。
笠井さん:そういう意味では今回の女優の卵のユカと立ち位置が似た形で始まっているなと思います。児山監督と石川さんの関係が、ユカとカメラマン小山田の関係とちょっと近いなと感じましたが、監督はどうですか。
監督:準備の間はずっと連絡して、脚本とかも適度に渡していたんです。石川さんのおかげで映画が撮れたみたいなところがあるので。知らない方もいるかもしれないですけど、未完成映画予告編大賞っていう、予告編を撮って、それがグランプリを取ると3000万円で映画が撮れるっていう企画だったんです。
石川さんをキャスティングして、やっぱりすごく良くて。それがあったから、あの映画が撮れたんだなって思うと、結果論でいうとそうかもしれないですね。
石川さん:未完成映画予告編大賞から1年半経って、新しく脚本をいただいて、最初、直観で嫌だなって思ったんですよ。私はユカを演じるっていう前提で脚本を読んでいたので、これってすごい映画の中の悪者を演じればいいのかなって思って。でもそうはしたくないなって思って。
私、スクリーンで観たときに自分が嫌いだなって思う人はあまり演じたくないんです。だから、それは嫌だなって思って。で、監督を何回も何回も呼び出して、ここはどんなですかって質問をしましたね。たくさん聞きました。
Q:今回石川さんが演じるにあたって、すんなり入っていけた部分と、ちょっと難しかった部分があれば教えてください。
石川さん:はまっていけた部分は最初です。ユカが業界に入っていくところはすんなりと理解はできました。
この業界に入る入口みたいなのが、私は誰かにスカウトされたわけでもなく、誰かから求められていたわけでもなく、ユカみたいにふわふわした状態で自分から行ったんです。
私はその初めがワークショップだっただけで、もしかしたらああいう道になっていたかもしれないし。
始まりは同じだったので、そこはすんなり行けたんですけど、自分の弱さを最後まで認めずにずっと嘘をつき続けるっていうのは、自分の中ですんなり落とせない部分でもあって。でも絶対自分がユカのことを嫌いになったらだめだなって思っていたから、そこは感情がすんなりとはいかなかったです。
笠井さん:監督、女性心理としての、嘘とわかりきっていても噓じゃないんだと突き通すことも一つの核ではありましたよね。
監督:そうですね。石川さんが演じるにあたって嫌う・嫌わないというのもありますけれども、僕は、小山田にもユカにもどっちにも肩入れしないようにしようっていうのはすごく思っていました。
要は、ユカという人を断罪するような作品には絶対にすべきではないと思っていて。意外と小山田に対してもそうだし、ユカに対してもそうだし、二人との距離っていうのをずっと意識しながら作品を作っていったつもりです。
Q:撮影中や演技をしていく中で金子大地さんを好きになったポイントがあれば教えてください。
監督:きっかけはないです。仕事をしていく中で初日から金子大地という人が素晴らしいというふうに思うようになりました。
トップカットは金子大地の、敢えて敬称略です。金子大地さんと思っていますが、金子大地の顔から始まるんですよ、この映画は。
当初脚本上ではバックショットから、小山田が出版社に入って行くというようなシーンだったんですよ。なんですけど、金子大地という人は、この人はすごい人になるんじゃないかな、やっていくうちにすごくそういうふうに思っていて。あのシーンは3日目だったんですけど、この人の顔からこの映画を始めたいって、そういう衝動に駆られたんです。だから、質問のお答えにはなっていないかもしれないですけれど、いろいろな僕の感情だったり想いの集合がトップカットに現れたのかなというふうに思います。
石川さん:撮影当初、私たちまったく喋れなくて。私も人見知りで向こうも人見知りで。役ではちゃんとポンといけたんですけど、人としてあまり喋ってなくて。
中盤くらいの撮影の後に話す機会をもらって、その時に私のことを、こういう人だから信頼できるとか、いろんなことを言ってくれて。こんなに見ているんだって思いました。すごい周りも見られて、信頼も置けて頼りがいがあって。
一言でいえば、本当に素敵な俳優さんだと思いました。
Q:未完成映画予告編大賞用に作っている段階では長編として改めて制作するときの完成形はどのくらいまで想定されていたんでしょうか。
監督:大まかなプロットはあるんですよ。この話は男性と女性が出会って別れるっていう話なので、実はすごくシンプルな構造なんですけれど、見せ方ですね。
正しくはないんですけど、三部構成になっていて。その三部構成にするのは脚本を書いているなかで決まっていった感じなので、そこの部分はすごく苦労しました。予告編を作っているときはもっと違う構成をイメージしていたのですけど、それが上手くいかなくて大舵を切るというか、そういうのはありました。だから、話はなんとなくあったという感じです。
構成を変えて脚本を書いていく中で結末だったりが大きく僕の予想しない方向にどんどん進んで行ったので、それはすごくダイナミックなというか、自分でやりながら、こういうふうになっていくんだみたいな新鮮な驚きというか、そういうものはありました。
笠井さん:賞を取った予告編をネットなどで観ることはできるんですか?
監督:できます。まだそれは観られます。
Q:お二人がおすすめのシーンがあれば教えてもらえればなと思います。
笠井さん:じゃあ、石川さんから。
石川さん:私から? なんでいきなり私から(笑)。
笠井さん:いつも監督からじゃつまんないなと思って(笑)。
石川さん:(笑)私は夕日のシーン、すごい好きだったんですよね、観たときに。
夕日のシーンで金子君が出したセリフで、私が知らないセリフがあって。脚本上にはない、監督が内緒で金子君にだけ渡したセリフがあるんですけど、そこを初めて劇場で観たときにゾクってしました。それが私が一番好きなシーンです。
あと、最後の部屋の中でのシーンも私はすごい好きです。
笠井さん:監督は演出中に、台本にないようなことをやるタイプですか。
監督:作品によるかもしれないですが、石川さんにそのことを知っておいてほしくなかったっていうのはあります。要は、脚本ってみんなに出回るものなんです。小山田とユカを演じる二人の片方は知らないっていう状況を作れると、知っていないことで生まれることって僕はあると思っているので。
逆で言うと、長いインタビューのシーンが部屋の中であるのですが、あそこの長いシーンは、金子さんはあのセリフ知らないんですよ。なので、時には差し込み原稿とかでいろいろ手を変えたりしてやっていました。
笠井さん:では、監督のお好きなシーンは?
監督:さっき言った予告編のカットです。ユカが猿楽町で振り返るシーンは、予告編の時に撮った絵なんです。
今回も撮ったんですけど、(予告編の方が)感情が乗っているんですよね、ユカの感情が。あの顔はすごく重要で。ユカという人は救われたんですかとかいう話をよく聞かれるんです。小山田は何か成長したかのように見えますが、ユカは解放されてるかのように見えるんだけど、結局いろんなことにがんじがらめで、あの子は…みたいに思っちゃうかもしれないんです。だけど、映画を観た人があのカットを観たときに、嫌いにならない気が僕はしていて、ユカという人のことを思える気がするんです。
なので、あのカットは僕らががむしゃらに撮った予告編のときに、なんかわかんないけど出たまぐれというか、奇跡という言葉が正しいかもしれないです。そのカットがあの時、1年半とか2年前とかに撮れていたことがこの作品のものすごく重要な部分で、石川さんがユカのことを嫌いになりたくないって言った一つの部分を、僕はあのワンカットで体現できているような気がしているので、僕はあのカットがすごく好きです。
笠井さん:この話は、夢を追い求めて女優さんとしてやっていきたいんだけれども、どんどん一方ではまっていってしまうっていう、一般的にもよくありそうな話ではあります。実際に石川さん自身がこの脚本を読んで演じていて感じたことはどういったことですか。
演じる中でこういうことってあるよねなのか、あくまでもフィクションとして捉えているのか。
石川さん:あると思っていて…(悩む)。
笠井さん:例えば、実際に自分が女優さんになろうとして、最初の段階で動いているときに、自分自身もどうすればビッグになれるかとか、そういう葛藤を抱えている時期がありましたか。
石川さん:そうですね。葛藤は抱えています。
ユカは自分を認めてほしいんですよね。たぶん、すっからかんだったり、芸能をやる上での中身はあまりないのかもしれないけど、ないということはあまりわかられたくないし、そこが嘘になっちゃったり。でも、誰かに認めてほしいということが本当に強い子で。だから最後まで嘘がつけちゃうのかな。弱い部分は絶対知られたくないし、弱いと思いたくないんですよね、自分の中で。
笠井さん:石川さん自身は、あの後のユカはどうなっていくと考えていますか。
石川さん:私はユカが好きなので、ちゃんと…。
私、最後のシーンで見た小山田さんの姿がずっと(頭から)離れなくて、撮影が終わって2週間ぐらいしてもずっと離れなくて。そこで見た景色を引きずりながら(ユカは)ちゃんと成長していくことを、私は想像しています。
Q:監督は今までCMなどを撮られていたと聞いたのですが、昔から映画を撮りたいという思いはあったのでしょうか。
監督:もともと映画の助監督からキャリアをスタートして、それでいろいろあってCM業界に行ってという感じなので。もう業界に入るときから映画を撮りたいという思いはありましたね。
Q:これからやってみたい映画やテーマはありますか。
監督:スポ魂を撮りたいですね。カーリング映画を撮りたいです。誰か紹介してください(笑)、お願いします。
笠井さん:石川さんは、これまでにも『カメラを止めるな』の上田監督演出を受けたりと、いろいろな経験があるなかで、児山監督はどういう監督さんだなと受けとめられましたか。
石川さん:児山監督は、答えを与えてくれない監督さんです。現場では一定の距離がありますね、やっぱり。一定の距離があるなかで、自分の役を自分で考えさせてくれる監督さんだなと思います。
NGを出されても、ただダメといわれるだけで、何がとかは言わないんですよ。結果しか言わないので、自分でちゃんと考えられて、OKが出たときは「あ、これか」と思える感じの(監督です)。
大事なシーンでは、(大事だと)私もわかっていたし、絶対良いシーンにしたかったので、絶対こっちもあきらめないぞって思って演じるところもありました。
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以下、ネタバレとなるため、割愛いたします。