時代が令和へと変わり、ラグビーW杯の盛り上がりが佳境を迎える中で開催された第32回東京国際映画祭。就任3年目を迎えた久松猛朗フェスティバル・ディレクター(FD)は、「ある種のリセット、再スタートで、来年には東京五輪・パラリンピックを控えて日本に注目が集まっている。手前みそかもしれませんが、日本の映画・映像文化の魅力を再発見・再認識してもらうことをひとつのテーマにしました」と明かす。
その施策はオープニングの『
男はつらいよ お帰り 寅さん』、GALAスクリーニングの『
カツベン!』に加え、最新作『
海辺の映画館―キネマの玉手箱』をはじめとする
大林宣彦監督の特集上映、今年5月に他界した
京マチ子さんの追悼上映などに表れている。
そして、日本のアニメ・特撮をフィーチャーした「
ジャパニーズ・アニメーション」を新設。これまで庵野秀明監督らテーマを絞った特集は行ってきたが、部門に“昇格”させ最新作から日本初の長編アニメ『
白蛇伝』、大友克洋監督の代表作『
AKIRA』など多彩なラインナップをそろえた。
「アニメは印象的にサブカルからスタートして、メインではないように言われてきた。だが、クオリティ的にも独特の新たな試みをしてきた進化の歴史がある。今の興行収入のトップ10を見ればメインストリームであって、日本が誇る部分でもある。そこはしっかりと位置付けていこうということです。僕も『AKIRA』を観ましたが満席で、観る方の熱を感じました」
一方で、即位の礼など一連の皇室行事や会場の都合などの影響もあって、会期が昨年より1日少ない9日となり、月曜日に開幕し火曜日に閉幕する異例のスケジュールとなった。それでも、上映本数は前年比7本減の180本で、観客動員は6万2125人と3000人ほどの減少で踏みとどまり、スタッフの頑張りをねぎらう。就任時に掲げた3つのビジョン「映画を観(み)る喜びの共有」「映画人たちの交流の促進」「映画の未来の開拓」に関しても、長期的視野に立っているが徐々に芽が出始めていると強調する。
「日比谷会場で『
ボヘミアン・ラプソディ』を上映した時の盛り上がりを見て、この方向性は間違っていないと感じました。どのビジョンも大事ですが、未来の開拓については大学対抗の短編コンペも始めましたし、ジェムストーン賞も継続していきます。日本映画スプラッシュの監督たちを、海外の映画祭のプログラマーに紹介するパーティも開催しました。我々が顕彰することで若い人が勇気づけられ、次も頑張ろうという機会になりTIFFに限らず羽ばたいてもらえればと思います」
7月には国際交流基金の安藤裕康理事長がチェアマンに就任。これからは二人三脚で映画祭の舵(かじ)を取ることになる。
「安藤さんもチェアマンとしてこうしたいという思いもあるでしょうから、役割分担を含めてこれからディスカッションすることになっています。全スタッフから膨大なリポートが上がってきますし、各部署の意見をすり合わせながら上部の組織ともコンセンサスを取ってひとつの方向性を打ち出していくことになります。我々が何をやりたいかをきちんと伝えなければいけない。スローガンやビジョンを繰り返し言っていかなければいけないと思います」
自ら前線に立ち、映画祭の発展を進めていく覚悟が垣間見えた。