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2019.10.30 [イベントレポート]
「暴力ではなく非暴力でこの国が良くなっていくといい」10/31(木): Q&A コンペティション『マニャニータ』

マニャニータ

©2019 TIFF
10/28(月)レッドカーペット登壇時のポール・ソリアーノ(監督/エクゼクティブ・プロデューサー/プロデューサー・左)、ベラ・パディーリャさん(女優・右)

 
10/31(木)コンペティション『マニャニータ』上映後、ポール・ソリアーノ(監督/エクゼクティブ・プロデューサー/プロデューサー)、ベラ・パディーリャさん(女優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
ポール・ソリアーノ監督(以下・監督):みなさんこんにちは。みなさんこの映画を観に来ていただいて本当にありがとうございます。今回コンペ部門に選出されまして非常にワクワクしていると同時にとても謙虚な気持ちになっております。ありがとうございます。
 
ベラ・パディーリャ(女優):矢田部さんありがとうございます。まず皆様映画を観ていただいてありがとうございます。皆様に気に入っていただけたら嬉しいと思っております。そして東京でワールドプレミアができたことが、本当に嬉しく思っております。皆さんは私たち本国の人たちよりもずっと先に映画を観ていただいたということになります。
 
矢田部PD(司会):監督から質問に入らせていただきます。この物語の発端についてですが、なぜ女性スナイパーのドラマから着想されたのか、あるいは警察の麻薬の取り締まりの方法の歌から始まったのか教えていただけますか。
 
監督:マニャニータ警察と呼ばれる、フィリピンのダバオに麻薬ディ―ラー麻薬容疑者に歌を歌って降伏するように促す警察官たちがいると2・3年前にニュースで知りました。そのことはなかなか頭から離れずにこびり付いて、映画を作りたいという風に思っていました。必ずしも彼らについてのことだけではなく、何か映画を作りたいなと思っていて、今回の協力者であるラヴ・ディアスと色々調査していました。そして調査している間に、キャラクターメインのストーリーで進んでいくような話にしたいということで、女性スナイパーの話にしようと。女性スナイパーの話にすることで、孤立した人の心情にせまるということで『マニャニータ』の警察とキャラクターをメインにした女性スナイパーの視点から見た映画と作るということになりました。
 
矢田部PD:入口がすごいと思うんですが、ベラさんは女性スナイパーの役としてこの役を引き受けられたのか、それとも早い段階からポールさんのプロジェクトに参加すると決まっていたのか教えてください。
 
ベラ・パディーリャ:ポールさんにプロジェクトが始まる数か月前、お話しを聞いた時はストーリーが始まったところでした。マニャニータの警察がいるということは、実はこれフィリピンで非常に有名なニュースで、それについては知っていたので私たちは同じ視点に立っていました。彼らのアプローチが非暴力的で、私はそれを支持したいと思っていました。やはり暴力ではなく非暴力でこの国が良くなっていくといいなと思っていまして。私はフィリピンの人を代表しているわけではないですが、暴力ではなくより平和的なやり方、非暴力で世の中が良くなるといいなと思っています。そういう願いをもってこのプロジェクトに参加しました。
 
Q:ベラさんに質問です。この映画は少ないスクリプトで進んでいる映画で役者の表情で表現され、音楽も有効に使われていたと思います。セリフの少ない演技の中で、どのように役作りをされたのですか。
 
ベラ・パディーリャ:私はこの作品を実験的な映画ではなく、ファンタジーだなと思いました。肉体的にハードなトレーニングをしました。特にライフルを組み立てるところは、何週間も前からトレーニングをしていました。自分にとってはこういう役は初めてなので、そのトレーニングも非常に楽しかったです。スナイパーの気持ちに入り込むという意味もあり、監督から提案された映画をいくつか観ました。フィリピンでも今まで女性のスナイパーはいなかったので、信憑性を持たせるために映画も参考にしました。そして兵士からトレーニングを受けたわけですけど、大変でしたが非常に価値がありました。
 
矢田部PD:本物の兵士にトレーニングしてもらったというわけですね。
 
ベラ・パディーリャ:本物のビールも一緒に飲みました。
 
Q:音楽はどのように作って組み立てていったんのでしょうか。
 
監督:音楽は私たちがマニャニータ警察について行ったリサーチに基づいています。実際に彼らが使っていた音楽を使用しています。彼らたちが言うには、心に響くような魂に訴えかけるような歌を使っているということでした。歌詞がとてもパワフルなものを選んでいると言っていました。そして警察署長さんたちに、ドラックディーラーとか、ドラックを使っている人たちにその歌を歌う、その歌を聞かせるのは怖くないですか、危険じゃないですかと聞いたのですが、「ドラックでハイになっているから余計に歌を聞くんだよ」と言っていました。実際1000人以上の人が降伏したということなんです。音楽は非常に大事なんですね。音楽は、この映画の中でとても大きな意味を、大きな位置を占めています。
 
Q:音楽を聴いてからのストーリーだったのか、ストーリーを聞いてからこの音楽を取り入れていったのかどっちだったのでしょうか。
 
監督:すでに曲を決めていたものもいくつかありました。すでに決まっていたものもありましたが、後から彼女の旅路に寄り添うよな、あるいは状況を説明するような曲を決めていったということもあります。いくつか曲を流して、あまり上手く合わなければ、また探してを繰り返して、彼女の旅路に似合いそうな音楽を探していきました。
 
矢田部PD:撮影監督と監督はどのようなコラボレーションがあったのか教えて頂けますか。
 
監督:撮影監督とは今回、非常にテクニカルな部分を重視していまして、トリミングですとかフレーミングですとか、構図というものを非常に大事にして色々な話をしました。そしてこれがストーリーを語る助けになるようなことをしようということにしました。特に何分か静かにして、動かない画面が止まっているようなものが多かったので、そのフレームの中で構図の中で観客の目があちこちに行くような、あるいは主人公と一緒にその部屋に、あるいはバーに、あるいは彼女と一緒に歩いているようなその世界に入り込めるような構図やフレーミングというものを考えました。と同時に、あまりあらかじめ決めすぎない、プランしすぎないっていうことも大事にして、その瞬間のマジックというものを捉えようとしました。
もちろんベラの素晴らしい演技も助けになったわけですが、あらゆる五感を使わせるようなものを目指しました。
 
矢田部PD:ベラさんは長いショットでほぼ自分だけの責任といいますか、ショットに耐えなきゃいけないプレッシャーを相当感じたと思います。そのあたりのお話を聞かせてください。
 
ベラ・パディーリャ:もしプレッシャーがあったとしたら、監督たち皆が私に感じさせないようにしてくれたと思います。彼ら自身がプレッシャーを自分たちで全て受け取ってくれて、私は主人公エディルベルタの気持ちに集中することができました。
 
矢田部PD:ありがとうございます。前回もお伺いしたのですが、本当にビールは飲んでいるんですよね。
 
ベラ・パディーリャ:なので半分酔っぱらっていて、覚えていません。
 
Q:特殊メイクはどれくらい時間がかかったのですか。
 
ベラ・パディーリャ:特殊メイクは、1時間半から2時間くらいかけてメイクしました。取るのは一瞬なんですけれどね。1日長く働いた後、あるいはずっと太陽の中にいた後も急いでメイクを落としていました。
 
矢田部PD:連日39度くらいの中で撮影されていたってことなんですけど、ぐちゃぐちゃにならなかったのでしょうか。
 
ベラ・パディーリャ:何度かテープで貼りなおしたんですけど、暑いのでメイクが剝がれてきてしまいました。汗でのりが取れてきてしまったのですが、そういうことも含めて、初めて完成した映画を見た時にとてもびっくりしました。撮影は午後1時2時とか、一日で一番日の高い時に行ったんですね。ですが、実際映画を観てみたらそれが夜の場面になっていました。編集してそれを夜にした時、色々なフィリピンの風景が細かく出ていたということで本当に驚きました。
 
矢田部PD:最後に監督に質問です。
この作品はこれからフィリピンで公開だと思うのですが、フィリピンの人からどのような反応があると予想されているか最後にお聞きしてよろしいでしょうか。

 
監督:フィリピンでは(2019年)12月4日に封切りです。私個人としては今回東京国際映画祭コンペティション部門で得られた皆さんの示してくださった興味というものが、フィリピンの人の興味を起こしてくれると思っています。フィリピンではラブストーリーやドラマとかコメディーがメインです。このような映画はニッチーマーケットなのですが、今回東京国際映画祭で示してくれた興味と同じようにフィリピンの人も興味を示してくれればいいなと思っていますし、東京国際映画祭のコンペに出たことがフィリピンの人を動かして劇場にまで来てくれるという風に思っています。そして皆さんに劇場で観ていただいて、ベラの素晴らしい演技を感じて欲しいと思います。

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