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2019.11.05 [イベントレポート]
「叔父と姪を結びつけるためのダイアローグはあまり必要ではない」10/30(水):Q&A『わたしの叔父さん』

わたしの叔父さん

©2019 TIFF

 
10/30(水)Jコンペティション『わたしの叔父さん』上映後、Q&A:フラレ・ピーダセン(監督/脚本/撮影/編集)、イェデ・スナゴー(女優)、マーコ・ロランセン(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
フラレ・ピーダセン監督(以下・監督):この度は、私共の映画をワールドプレミアとして東京国際映画祭で上映してくださったこと、大変うれしく思います。そして、大変光栄に思います。実際に、こうして観客の皆さんと一緒に映画を観るのが私たちは初めてのことでして、ここ東京で映画を上映すること、皆さんと一緒に観られることを大変光栄に思います。僕らとしても、非常に誇らしい気持ちでいます。私自身、これが2作目の作品になるのですが、このような大規模な映画祭で上映していただくのが初めてなので、本当に感謝してもしきれないくらいです。
 
イェデ・スナゴ―(以下・イェデ):私も監督と同じ気持ちでおります。皆さん今日はご一緒してくださり、本当にありがとうございます。東京でこのように映画を上映することができ、大変光栄に存じます。おそらく、今の空気感からも、作品をエンジョイしてくださったのかなと思うのですが、いろんな「変な」質問を期待しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 
マーコ・ロランセン(以下・マーコ):この度は、東京国際映画祭にご招待いただき、本当に光栄に思います。ありがとうございます。そして、遅くまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます。楽しいQ&Aになるのではないかと期待しております。よろしくお願いいたします。
 
矢田部PD:監督にお聞きしたいのですが。まず、本当に美しい叔父さんと姪の物語。この物語を思いつかれたいきさつを教えてください。
 
監督:この映画の舞台であるデンマークの南の方、ユトランド半島の南部は、農村地域といいますか、農業地帯でして。我々3人ともユトランド半島南部の出身でございます。3人ともここで育っているわけですけれども、その地を舞台にしたいという思いがありました。我々は映画を作りたいとか勉強したいという思いで都会に出たのですが、なかには田舎に残ることを選択する若者もいます。それはなぜだろうという疑問が頭をもたげて、それについて調べていくうちに、このストーリーに行きつきました。今回、主人公を若い女性にしたわけですけれども、体がちょっと不自由になった叔父の面倒を看るのか、あるいは夢を追って学問を追求するのか。デンマークあるいはユトランド半島の中で、大学に行くということは都会に出るということですから、彼女は難しい選択を迫られるわけです。そういったことを描きたいという気持ちがありました。それと主演のイェテさんは、実は僕の1作目の長編デビュー作でも出演していただいているのですが、ぜひもう一回彼女と組みたいという思いがあり、非常に今回は私のミューズとなりインスピレーションとなってくれました。この役は彼女のために書き下ろしました。
 
矢田部PD:叔父さんは本当にイェデさんの叔父さんでいらっしゃるのかということと、叔父さんと一緒に映画に出ることになった経緯をイェデさんから教えてください。
 
イェデ:実際に私の叔父が出演しています。あの農場も実際に叔父が住んでいる農場です。どういう経緯かというと、いろんな農村の生活を取材したいということで、監督がそこに行っていろいろ調べていました。監督はトレーラー暮らしだったのですが、そこで私の叔父をずっと密着取材していました。恋してしまったくらい叔父のことを気に入ってくれて、そこから、彼を出演させてはどうかという考えに至ったようです。それでスクリーンテストをしたのですが、ご覧いただいた通りそれが素晴らしかったので、最終的に叔父を起用することになりました。
叔父との共演ですが、最初はちょっと違和感があったというか変な感じがしました。当然ながら共演に慣れてないので。ですが、非常に私たちにとって素晴らしい体験になりまして、日々あぁやって朝食をとって、一緒にお茶を飲んで仕事の準備をするという演技を繰り返していく中で、以前よりも親密な関係が築けるようになりました。
 
Q:実際の叔父さんを相手に演技をされているわけですが、実際にどこまで台本を作りこまれているのか。寝ながら食べ物を食べてむせてそれにリアクションをするというのはとても即興的な受け答えのように感じたのですが、実際にはどこまで作りこまれているのでしょうか。脚本や台本はどこまであるのでしょうか。
 
監督:ご質問ありがとうございます。通常、当然ながら脚本を書いて撮影にあたるわけで、今回ももちろん脚本がベースとなっていますが、彼女と叔父の感じがとってもリアルだったので、なるべくそれを生かしたいという気持ちもあり、時としてそういう即興的なこともやらせたりしています。ですが、台詞そのものは99%台本通りやってもらっています。たまに騙してみたりもして即興を強いる環境を作ることもありました。例えばマイクとの初デートのシーン。叔父もついてきて3人でテーブルを囲むわけですが、横断を撮るときのマスターショットがあったと思いますが、そこで無言の時間が過ぎていくんですね。それはどういった事情かというと、台詞をみんな言い終わっていて何も言うことがなかっただけなんです。それがいい具合に気まずい雰囲気が漂ったので、それをそのまま使うことにしました。しばらくしたら叔父とマイクが同時に話し始めるのですが、すみませんって言い淀んだり、また沈黙になったりしてまた気まずい空気が流れるみたいなことがあったんですけれども、そこの部分は実質即興でした。ビスケット食べて咳き込んだりするのは叔父がここでビスケットを食べます、というところまでは書き込んでいるのですが、じゃあどういうタイミングでやった(咳き込んだ)方がいいのか、というのは全部本人たちに任せて自由に演技をさせました。
 
Q:クリスと叔父の関係性が、冒頭から察することができると思うのですが、無言のシーンが続きます。そこに二人の信頼性が表れていると思います。そして基本的な決定権はクリスが持っていて、しかし叔父の思いというのもクリスは察して生活していると思いました。そういったことが、とても滑らかな映画だなあと思う理由の一つです。この映画の設定といいますか、全貌を、映画が開始して何分か後にわかったときに、フランス映画の邦題『エール』を思い出しました。設定が結構似ていて、主人公が夢を追うか、妥協するか、その二択が迫られるというところが似ていると思いました。監督はこの映画をご存じで、何か影響されたのかどうか、お聞きしたいと思います。
 
監督:そうですね、いろいろな名作を観てきており、ここ日本に来ているから言うわけではないということは、プロデューサーのマルコさんも証言してくださると思うのですが、長年、日本映画を愛していまして、ほかのアジア諸国の映画も大好きですが、日本映画で言いますと、やはり小津安二郎監督の作品、『東京物語』を含む三部作が特に好きです。作品を観ていると、言語の違いや時代を超えて、心にじかに訴えかけてくるところがすばらしいと思っています。ほかにも是枝監督の大ファンです。やはり家族を描く彼の作品はすばらしいと思います。今回、この作品のアイデアを思いついたとき、過去の具体的な作品が念頭にあったわけではないです。というのも、自分の頭の中を変に染めたくなく、あくまでキャラクターに根差したストーリーづくりにしたかったので、姪と叔父をもとにいろいろと思考錯誤しながら物語を想像していきました。二人のすばらしいキャラクターを見ていると、叔父と姪を結びつけるためのダイアローグはあまり必要ではないと感じたんです。そういう意味では映画だけではなく、実生活で、みなさんの生活しているようすを見ていた体験がインスピレーションになったと言えると思います。じっさいあそこの農場に住み込みながら脚本を書き進めていったわけですが、あの農場には93歳になる叔父のお父様も住んでいます。昼食を一緒にとらせてもらったこともあります。そのあいだ、叔父とお父様は一言もしゃべらないんですね。長いこと一緒に住んできた関係性が非常に浮き彫りになったという感じでした。ランチを食べ終えると、おじいさまは昼寝をするんですが、「僕は昼寝をする」と宣言しなくても、息子はだいたいわかっている。そういった感じからいろいろヒントを得たというのもありました。
 
マーコ:監督から脚本を見せられたとき、「なるほど、君もいよいよ日本映画を撮るんだね」と言ったんです。というのもデンマークの映画づくりは、普通こういう手法は取りません。そうはいっても、アジア的な作品とも言い切れず。普遍的な、世界のどこにいても共感できる作品だと思っています。家族を描き、巣立ちを描き、人を看病する、人をおもんばかるといったことを描いているわけですから。文化を問わず、誰もが共感できるユニバーサルなものだと思います。

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