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2019.11.05 [インタビュー]
コンペティション『マニャニータ』公式インタビュー

狙撃兵エディルベルタの宿命を解き放つ、神父との会話は圧巻
マニャニータ
マニャニータ

© 2019 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2019年11月2日
ポール・ソリアーノ(監督/エグゼクティブ・プロデューサー/プロデューサー)
ベラ・パディーリャ(女優)

 
凄腕の狙撃兵エディルベルタは顔にあざがあることを理由に、軍を除隊になる。自暴自棄になった彼女は立ち直るため、ある復讐を果たそうとするが…。女性兵士が活躍するアクション劇かと思いきや、ストーリーはその心のさすらいを見つめ、救済をめぐる旅に深化していく。
フィリピンではドゥテルテ大統領が麻薬撲滅戦争を掲げるなか、ダバオの警察が、バースデー・ソング(マニャニータ)を歌って麻薬常用者に投降を呼びかける、ユニークな捜査活動を展開している。それを知った監督が、師と仰ぐラヴ・ディアスに脚本を依頼して、プロットに取り入れてみせたのが本作だ。主人公の苦悩と警察の平和的な活動が、意外な展開で結びついていくさまが感動を誘う。
東京国際映画祭の上映に駆けつけた監督と主演のベラさんに話を伺った。
 
──このユニークな麻薬対策を知ったのはいつ頃でしょう?
ポール・ソリアーノ監督(以下、ソリアーノ監督):3年前にニュース番組を見ていて知りました。すぐにダバオへ飛んで警察の人たちにリサーチし、ラヴ・ディアスさんに脚本を依頼しました。ベラも出演を快諾してくれたおかげで、映画にできたのです。
ポール・ソリアーノ
 
──元狙撃兵の心の苦悩を重点的に描写して、現実は徐々に明らかになる構成です。
ソリアーノ監督:観客に、彼女の苦悩をともに感じて欲しくて、本作では超越的な(transcendental)映画形式を模索しました。『東京物語』の小津安二郎や導師と慕うラヴ・ディアスさん、タル・ベーラ、ポール・シュレイダーといった巨匠に感化され、今回はリスクを冒しても、自分の映画形式を追求したいと考えたのです。
 
──ポール・シュレイダーには「聖なる映画──小津・ブレッソン・ドライヤー」(Transcendental Style in Film)という評論集もありますね。
ソリアーノ監督:彼が脚本を書いた『タクシードライバー』(76)や『魂のゆくえ』(17)が大好きで、大いに影響を受けています。ラヴ・ディアス監督とは、『痛ましき謎への子守歌』(16)をプロデュースして以来、親交を深めていて、彼の影響も大きいです。彼らのような巨匠から受けた影響を昇華して、自分の映画形式を確立したいと思います。
 
──ベラさんは顔にあざがあって、アル中になる役です。女優として勇気がいったのでは?
ベラ・パディーリャ(以下、パディーリャ):顔に特殊メイクを施されたら、美しく見られたいという気持ちもなくなって、逆に開放感を感じました。外見を気にしないだけ、キャラクターの内面には深く入り込めました。
ベラ・パディーリャ
 
──フォークソングを用いて、主人公の心象を代弁させていますが、演じるベラさんも選曲に関わったのですか?
パディーリャ:曲はすべて監督が選んでますが、私が選んでも、きっと同じ曲になったと思います。作品に使用されたフォークソングは、フィリピンでは今あまり聴かれていませんが、メッセージ性のある美しい曲が多いんです。
私は役作りに音楽を利用していて、毎回、新しい役に入る度にプレイリストを作成しています。本作ではその中でも、“Magbago ka (You Should Change)”(変わるべきだよ)をよく聴いていました。この曲のおかげで、役の心情をよくつかむことができました。
ソリアーノ監督:今回すべて順撮りで、その時々で音楽を決めていきましたが、この “Magbago ka”は、警察が実際の捜査活動で歌っている曲です。ほかにもAsinという伝説のグループの曲や、ラヴ・ディアスさんが作曲した歌も使用しています。会話が少ないため、音楽や映像で、彼女の孤独を表現しました。
マニャニータ
 
──カラコレやサウンドデザインも効果を発揮していますね?
ソリアーノ監督:フレーム、コンポジション、照明、音楽、音響、カラコレ――すべてを使って表現するのが映画であり、技術は登場人物と同じくらい重要です。
幸いにも、優秀なスタッフが関わってくれたおかげで、10月29日のワールドプレミア上映(場所はEXシアター)は、映像も音も最高に美しく、作り手なのに感動してしまいました。映画は監督ひとりのものではない。チームの努力の結晶なのだと痛感しました。
 
──ずっと会話らしい会話がないから、主人公が神父と話すシーンは見応えがあります。
ソリアーノ監督:長い旅路のあと、ようやく彼女は宿命を解き放って、心の平静を見つめます。神父の語りや風の音、鳥の鳴き声に耳を澄ませて、自分自身の心を聴くのです。
 
──やっと会話する場面まで来て、ベラさんは嬉しかったですか?
パディーリャ:順撮りだったのでそれはもう(笑)。あのシーンでは、私個人としても女優としても、創造主の声を聞けと言われた気持ちになりました。崖の上で美しい夕陽を浴びながら撮影していて、監督が「カット」と言ってからも、どことなくスピリチュアルなムードが漂っていました。
 
──復讐に行くシーンで、主人公は満点の星に包まれます。
ソリアーノ監督:彼女は復讐に出かけますが、その魂は別のものを求めている。そのことを示したくて、星空の夜にしました。
 
──順撮りということは、最後に見せる涙が、撮了日にカメラを回したラストショットだったわけですね?
パディーリャ:偶然にも、その日は私の誕生日だったのよ!
人間はネガティブになったり、やましい心を抱えていれば、どこか顔に出てしまうものです。あざはエディルベルタの心に悪魔がいることの証であり、「救い」の感情にひたされるうちに、ついに悪魔はいなくなる。そのことに注目していただけたなら嬉しいです。
 
インタビュー/構成:赤塚成人(四月社・「CROSSCUT ASIA」冊子編集)
 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
マニャニータ
マニャニータ
©TEN17P Films (Black Cap Pictures, Inc.)

監督:ポール・ソリアーノ
キャスト:ベラ・パディーリャ、ロニー・ラザロ

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