10/29(火)特別上映『ヒックとドラゴン』上映前、ディーン・デュボア監督(監督/脚本・右)と中島かずきさん(劇作家/脚本家・左)をお迎えし、トークショーが行われました。
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ディーン・デュボア監督(以下・監督):本当に温かい歓迎をありがとうございます。このような形で東京国際映画祭に伺うことができて大変光栄ですし、私たちにとっての冒険を始めてくれた第1作のプレゼンテーションをこうやってこの場でできること大変うれしく思っております。10年ほど前に1本目のプロモーションの時、確か2010年くらいですね、その時は結構長く滞在していろいろプロモーションで回ることができました。今回3作目ということで、またみなさんに作品をプレゼンテーションできること大変うれしく思っております。というのもやはり日本の観客というのはアニメーションに対して大変なリスペクトを持ってらっしゃると思いますし、この国は惑星のどの国よりもアニメーションというものを愛してきた、そういう文化があると思います。アニメ界で働くものだったなら誰しもが日本のアニメにインスピレーションを受けてきました。ですからそういう地で自分の作品を上映できることは大変光栄に思っております。
矢田部PD(司会):ありがとうございます。監督、本当に素敵なお言葉ありがとうございます。監督いくつかご質問していきたいと思いますが、1作目が10年くらい前という風におっしゃいましたけれどもそれから世界的な大ヒットシリーズとして世界的に愛される作品になってまいりました。監督からご覧になってこの作品がここまで愛される理由はどういうポイントにあると思っていらっしゃいますでしょうか。
監督:やはり一番にはドラゴンというものが、世界中いろんな文化に存在しているところがあるかもしれません。例えば、アフリカのような私たちにとっては意外だと思うような国でもドラゴンにまつわる神話が存在していたりするわけです。おそらく恐竜というものが実際に地球上に存在していたことを我々は知っていますし、それをベースに何となくドラゴンという存在を理解できる部分があるのではないかと。ドラゴンが現実からちょっとかけ離れた存在で、手を伸ばして届くか届かないかというような存在であることがひとつあるのかもしれません。そして、物語的にもやはりその若い方が、自分の人生よりも大きな何かを、あるいは誰かと特別な関係を築いていく物語というのがやっぱり自分の願望を叶えてくれるようなみんなが望むようなものでもあり、この物語のそういった側面もまた世界中の方に響いているのではないかと思います。
矢田部PD:そうですね。まさに自分よりも大きなもの、そして自分と他のものとの繋がりを象徴しているのがヒックとドラゴンの二人の仲であり、トゥースとの友情がやはり我々の心を打つわけですけれども、監督からみてヒックとトゥースはどのような存在なのでしょう。
監督:特にヒックなんですが、皆と一緒に合わせられない、うまくフィットしない、そういう気持ちを持つ方多いと思うんですね。そういう気持ちをうまく表すキャラクターなんじゃないかと思います。自分はカナダの小さな町出身で、運動は苦手でしたし、当時人気があるようなことは全く興味がありませんでした。むしろコミックスが好きでしたし、寝室で一人絵を描いているのが好きだったので、全然人気に繋がるようなものに興味をもっていませんでした。恐らく自分が思うにヒックというキャラクターが表現している物語というのは何かみんなに合わせたい、うまくフィットしていきたいけれど、みんなとちょっと違うところ、みんながちょっと変わっているなと思うところが実は自分の強さだと発見していく物語なのではないか、その物語を表現しているキャラクターなのではないかと思います。まさにこの映画で、彼はそういう道のりを歩みますし、観ている方々もこの若いバイキングがうまくはまれないでいるんだけれども、それで大丈夫なんだと発見していくその様子を応援して観てくださいます。またこの世界自体が彼らに対する見方を変えていく。それはもちろんトゥースとの素晴らしい関係性を通して見いだされていったものでもあるわけですが、トゥースもまた最初は怖がられ、そして狩られる立場だったのが、ヒックとの出会いによって周りのドラゴンに対するあるいはドラゴンの真実に対する見方が変わっていく。彼が変えていくことになるわけです。
矢田部PD:そうですね。ありがとうございます。もちろんこの二人が主人公なわけですけれども、なかなかえこひいきはできないと思いますが、監督が特に好きなキャラクターとかあるいは描くのが少し難しいキャラクターとかあったら教えていただけますか。
監督:とても難しい質問ですね。どのキャラクターも同様に好きなので。ただドラゴンを描くにあたっては信ぴょう性を観客に感じていただかなくてはいけなかった、本当にこの地球を歩いていてもおかしくないよなと思わせなければいけなかった。そのために実在の生き物たちの行動や振る舞いを参考にして作っていきました。例えば、トゥースの場合はパンサーからその動きを参考にしています。実在する動物の行動パターンをフィクションのキャラクターにあてていくやり方をしています。そうすると、もしかしたらこの地球上にもいるのかもしれないという信ぴょう性に繋がっていきます。もちろんこれはアニメーターたちにとっては大変な挑戦ではあるのですが、そこがやっぱりやりがいがある部分でもありますよね。アニメーションの一番の強さは言葉ではない表現力だと思いますから。
矢田部PD:面白い。ずっと聞いていたいような、やはり制作の過程というのはちょっと鳥肌が立ちますね。
本日はもうひとり特別なゲストをお迎えしております。劇作家・脚本家である中島かずきさんにご登場いただだきます。中島さんは『プロメア』を手がけられました。今年の東京国際映画祭のジャパニーズアニメーション部門でも上映されるということでありがとうございます。
中島かずき:『プロメア』の中島です。『ヒックとドラゴン』はぼくも大好きでこうやって監督と同じ舞台に立たせてもらえることが非常に光栄で今緊張しています。
矢田部PD:実は今度のアカデミー賞の長編アニメーション部門の、今32本のエントリーのなかに、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』と『プロメア』の両方入っているということで、これは楽しみですね。中島さんも『ヒックとドラゴン』の大ファンだといわれていますが、1を劇場でご覧になってたちまち。どのようなところが好きでしょうか。
中島かずき:やっぱり集団に入れない少年が、トゥースとコミュニケーションすることによってだんだん自分が成長していき、しかもそのことによって周りも変えていくと、そういうところがやはり上手く丁寧に書かれていて、僕はラストシーンが好きなんです。
とてもいいジュブナイルだったなと思っていて、『プロメア』をやるときにも『ヒックとドラゴン』のようなジュブナイルやりたいって最初言っていたんですが、できたものは似ても似つかないものでした。そういうこともあったので、いろいろと参考になったし大好きな作品ですね。
矢田部PD:デュボア監督は『プロメア』をご覧になったとお聞きしたのですが。感想をお伺いしてもよろしいですか。
監督:とても美しく、ワクワクさせられる映画です。日本のアニメーションというのは世界にインスピレーションを与え続けてきましたが、またそこに加わる名作だと感じました。
矢田部PD:お二人とも実写とアニメーション両方手がけていらっしゃいますが、アニメーションの楽しさと実写との違いというものが、想像上やクリエートの過程であったら教えてください。
中島かずき:実写といっても舞台がメインですので、やはり舞台の場合は限界がありますかね。アニメーションの場合、そこがどんどん自由になるし、やたらに大きくなるのは舞台をやっている反動かもしれませんね。宇宙に行ったり宇宙に投げたりするのはたぶんその反動かなと思います。
監督:アニメーションのすばらしいところというのは、すべて一から作らなければいけないところではないかと思います。行かなければいけないロケ地もないし、物理的な小道具があるわけではない、もちろん制作過程はだからこそ、とても遅々としたものになってしまうわけですが、逆に時間があるからこそ、物語を詳細にいろいろな側面から分析していくこともできます。そして、まず脚本があり、それを絵コンテに変えていって、そこから編集していくことによって、ある意味作品の設計図をまず持って次のアニメーションの過程に進むことができます。アニメーション化するときは当然たくさんの人を雇って、スタッフがたくさんいるなかでお金もかかるわけですが、作品のビジョンがまったくぶれずに作ることができるところが良いところだと思います。実写の場合はもちろん撮影が先ですから、編集段階で「あ、あれ撮っておけばよかった」と思ってももう遅いですしね。撮ろうとしてもお金がかかります。
矢田部PD:デュボア監督、最初に日本のアニメーションについてのコメントを冒頭のごあいさつでいただきましたが、特に日本のアニメで影響を受けた作品、あるいは気になった作品、好きな作品お伺いできますでしょうか。
監督:やはり初めに出会ったそして、日本のアニメーションにこうやって知るように、きっかけになったのが『AKIRA』です。10代の時に観まして、アニメーションの勉強をしたいというインスピレーションを焚いてくれた作品でもあります。そして色々と日本のアニメーションについて知る中で、宮崎駿監督と出会い、世界を観て感嘆するような、あの気持ちとイノセンスというものを持ちながら素晴らしいパワフルな物語たくさん生み出されていらっしゃって、すごくインスピレーションを受けます。それと共に、観ながらアニメーションという表現手段というのは例えば、若い方向けの物語だと一見思ったとしても、実はとても成熟した、あるいは大人向けのテーマを扱えるのか、そうゆう側面も持てるのかということを教えてくれた作品たちでもあります。宮崎監督以外では、今敏監督が大好きで、中でも『パプリカ』、映画の中で夢をテーマにあそこまで素晴らしい世界観を描いた作品はないのではないのかなという風に思っています。本当にアニメーションという意味では日本というのはとても肥沃な土地だという風に思いますし、そして日本の方々がアニメーションというものに対して、偉大なリスペクトを持っていらっしゃる。ストーリーテリングのメディアとして、年齢関係なくその素晴らしい表現手段だと皆さんが思っていらっしゃる所もまたとても素敵だと思います。
矢田部PD:ありがとうございます。中島さん、どうですか今のお気持ちは?
中島かずき:いや、もうねやっぱり『AKIRA』ってすごいですね。今回も上映されますけどね。
矢田部PD:デュボア監督、『AKIRA』をこの映画祭の大スクリーンで上映するんです。今回、英語字幕付きで上映ですよね。確かね。
監督:それは素晴らしいですね。実は『AKIRA』の内容イマイチまだ把握していないのです。日本字幕でしか見ていないから。でもビジュアルはいつもすごくインスピレーションを掻き立ててくれるものがある作品です。
矢田部PD:ありがとうございます。中島さんに最後お伺いしたいのですが、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』をご覧になったということで、あまり多くは語れないと思うんですけど、その範囲内でご感想をお伺いできますか。
中島かずき:本当に2・3部作完結編として素晴らしい出来だったし、やっぱり成長したヒックとトゥースが新しい局面に出会って、そこでどうまた変わっていくのかっていう見事な作品だったなって思いました。とても面白かったです。
矢田部PD:『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は12月20日の公開でございますので、そちらが楽しみになって参ります。