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2019.11.04 [インタビュー]
コンペティション『チャクトゥとサルラ』公式インタビュー

キャスティングの条件として、モンゴル語を話せること、放牧区での経験を身につけていることでした
チャクトゥとサルラ
チャクトゥとサルラ

© 2019 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2019年11月1日
ワン・ルイ(監督)
ジリムトゥ(俳優)
タナ(女優)

 
内モンゴル出身の作家・漠月(モー・ユエ)の小説「放羊的女人」を原作に、北京電影学院の教授でもあるワン・ルイ監督が映画化した『チャクトゥとサルラ』。コンペティション部門で上映された本作は、内モンゴル自治区の大草原で放牧を営む若い夫婦の、すれ違う心模様を描いた人間ドラマ。来日した監督と、若夫婦を演じたジリムトゥとタナにお話を伺った。
 
──原作「放羊的女人」のどこに惹かれて映画化しようと思いましたか?
ワン・ルイ監督(以下、ワン監督):理由は至ってシンプルなのです。草原が大好きだからです。10年ほど前に小説を読んで、美しい草原をこの物語で「撮りたい」、いや「撮るべき!」だと感じたのです。
チャクトゥとサルラ
 
──夫婦だけのシーンでほとんどの物語が進みます。その重要な夫婦にキャスティングされた経緯は?
ジリムトゥ:2016年に内モンゴルの省都フフホトに、撮影チームがキャストを探しに来ました。その頃、フランスから帰ってきた私は、電波の通りが悪い放牧地に住んでいて、その情報を知らなかったのですが、たまたま街に買い物に出かけた時にキャッチして、すぐに恩師に連絡をしました。すると先生が「すぐに来い! スタッフは明日には北京に帰ってしまうぞ」とおっしゃったので、私は即、フフホトに行き、オーディションを受けたのです。
チャクトゥとサルラ
 
──監督にお会いして、脚本を読んだ感想は?
ジリムトゥ:脚本を読んで、チャクトゥという男のことが理解できたのでびっくりしました。そう、今の生活に満足できず、外の世界で未来を切り拓きたいと願って、鬱々としている。私自身もそういう気持ちはありますし、周りにもこういう人は多いから、彼の葛藤が痛いほどに分かりました。ですから、「この役は、とても僕に合っている」とスタッフに伝えたのですが、まさか監督が選んでくださるとは思いませんでした。
タナ:私は、歌手としての経験はありましたが、演技の経験はありませんでした。でも、周囲の人たちから監督にお会いするように勧められたので。でも、オーディションに集まった女性たちはみなさん綺麗な人たちばかりでしたから、「私なんか選ばれるわけない」と思っていました(笑)。
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──キャスティングの決め手は?
ワン監督:キャスティングにはふたつの条件がありました。まずは、モンゴル語がちゃんと話せること。というのも、最近では都市で暮らすモンゴル人の中にちゃんとモンゴル語が話せない人が多いからです。ふたつ目は、夫婦を演じるふたりは、放牧区での生活経験をちゃんと身につけていることです。この条件のもとで、最初は北京で探して見つからなかったので、フフホトでオーディションをしました。
そこで150人以上に会いましたが、ジリムトゥとタナに会って一目で気に入りました。まずその風貌が、本当の遊牧民だと信じられるものだった。そして何より、彼らは純朴でピュアだったからです。多くの俳優は、キャリアを積んでいくと同時に、瞳の中に素朴さがなくなってきます。でも、彼らは本当に純粋なまなざしをしていました。
 
──自然と共存する遊牧民の日々の営みがリアルに伝わってきます。なかでも、群馬を操る馬追いのシーンは圧巻。颯爽と馬に乗り、長い棒を操るチャクトゥがかっこよかったのですが、撮影は大変だったのでは?
ジリムトゥ:ぜんぜん、大丈夫!(笑)。なぜなら、私は子供の頃から馬に乗って育っているので、ああいうことは特別なことではないのです。今も馬を飼っていますしね。
 
──では、難しいなと思ったことは?
ジリムトゥ:これまで、映画やドラマに出演したことはあっても、主役は初めてでした。ですから、この人物をどうやったらより良く演じられるのか? 監督が求めるものを完璧に提供できるのか? 自分で自分にプレッシャーを与えていました。でも、監督からのプレッシャーは一切なくて「とにかくリラックスして、自然に」とおっしゃってくれたのが救いでした。
タナ:監督はいつも「やりたいようにやればいい」とおっしゃっていましたが、やはり自分でももどかしいくらいにちゃんと出来ないこともあって、迷いもしました。例えば流産のシーンも私には経験がないので、どんな風に演じていいのか、どんな気持ちになるのか、必死で考えて演じていましたね。
 
──監督からのアドバイスは?
ワン監督:彼らとは、この映画テーマについてはっきり話し合うことはありませんでした。各シーンで要求したのは、彼らの行動です。形から入ることに重点を置きました。私が求めているのは、草原の生活の質感だったからです。彼らの抱える焦燥、思い合う心、対立など、すべて的確な動作の中から思いが湧き出してくると思いましたから。
 
──監督にとっていちばん大変だったことは?
ワン監督:時間との戦いです。予算も限られていますから、時間をかけられない。草原の季節は移り変わりが早くて、夏が2か月くらいしかない。6月になると草が緑に色づき始めるけれど、8月には枯れ始めてしまう。その2か月の間に、物語を撮らなければならない。
たとえば、最初にサルラが冬に流産をしてしまい、その次の夏に再び妊娠します。私たちは、先に冬のシーンを撮って、次の撮影は夏まで待たなければならなかった。ですから、俳優たちにはその間に、絶対に事故に遭ったり、太ったり痩せたり、髪を切ったりしないでとしつこく念を押していました(笑)。とにかく、撮影の間中、あれも撮らなきゃ、これも撮らなきゃと、時間が足りないので、焦りまくっていましたね(笑)。
 
インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
チャクトゥとサルラ
チャクトゥとサルラ
©Authrule (Shanghai) Digital Media Co., Ltd. ©Youth Film Studio

監督:ワン・ルイ[王瑞]
キャスト:ジリムトゥ、タナ、イリチ

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