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第32回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出された中国映画『
チャクトゥとサルラ』の公式会見が11月3日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、ワン・ルイ監督、俳優のジリムトゥ、プロデューサーのワン・ハイロン氏が登壇した。
同作は、モンゴルの大草原に生きる1組の平凡な夫婦が押し寄せる時代の変化によって徐々にすれ違う姿を描き、夫婦とは何か、幸せとは何かを問いかけている。
モンゴルの夫婦が主人公ということで同国の現状を描いた映画と思われがちだが、ワン監督はこれを否定。「モンゴル語を話し、モンゴルの草原に住んでいるということではモンゴルを描いた映画だが、これは他の国、他の地域の人々にも当てはまる非常に普遍的なテーマ。漢民族はもちろん、アメリカでも日本でも、ここに描かれた問題は存在する。誰もが『自分はどう生きていきたいのか?』という葛藤の中で生きている」と普遍的なテーマであることを強調した。
ジリムトゥは、撮影で苦労した点について「僕自身、大草原で育っているので、それほどつらいことはなかったが、忘れられないのは吹雪の夜の撮影。薄着で過酷な寒さの中、妻を背負って歩くシーンは一晩かけて撮影された。映画では5~6分くらいだが、あのつらさは一生忘れられない」と振り返る。一方で「今の内モンゴルの若者は、今までの生活を捨てて街に出ていく人もいれば、草原に残って生活する人もいる。最近は草原の暮らしも便利になって、内モンゴル自治区の首府であるフフホト市まで車で2時間ほどで行ける。僕は他の都市で仕事をしていると無性に草原に帰りたくなるが、しばらく草原にいると退屈で取り残されたような感じになり、外に出ていこうかと思ったりする」と草原で暮らす人々のリアルの声を伝えた。
映画の最後に「亡き妻にささげる」というメッセージが添えられているが、ワン監督は「私も(主人公の)チャクトゥとよく似た経験をした。映画監督というのはしょっちゅう、しかも何カ月も家を留守にする。私の妻はそれほど反対しなかったが、ちょうど結婚18周年目に妻が亡くなってしまった。その時、自分の過去を振り返り、もっと妻と一緒にいる時間を作れたのではないかと思った。それが私の中で心の痛みになっている」と思いを語った。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。