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2019.11.01 [イベントレポート]
「障がい者と健常者の壁がなくなればいい」10/29(火):Q&A『37セカンズ』

37セカンズ

©2019 TIFF

 
10/29(火)Japan Now『37セカンズ』上映後、HIKARI(監督)、佳山 明(女優)、神野三鈴(女優)、大東駿介(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
大東駿介:皆さん、こんにちは。この作品が動き出したのは、一昨年の2月でした。僕はこの作品に思い入れがあって、大切な、大切な作品です。それをやっと日本で皆さんに観てもらえることが、とても、とても嬉しいです。この後で皆さんからお話が聞けるということで楽しみにしております。
 
神野三鈴:今日は残っていただいて、この映画を観てくださって、本当にありがとうございます。今日、この映画で皆さんといろんな垣根を取っていくその一つのステップとして、そんな時間を共有できたら本当に幸せに思っています。あとで皆様の感想を聞かせていただけるのを楽しみにしています。HIKARI監督の愛情でここまで、今日のこの日まで、みんな一つになって迎えられたことを心から幸せに思います。
 
佳山 明:初めまして。この度はお越しいただき、観ていただき、この場にいていただいて、ありがとうございます。このような場でなんと申し上げたらいいか。(会場笑) という感じですけども、よろしくお願いいたします。
 

HIKARI監督(以下、監督):Thank you so much for being here. 今日は本当に朝早くから、雨が降っている中来てくれて、本当にありがとうございます。大阪弁しかしゃべれなくてすみません。本当に今日はたくさんの方に来ていただけたこと、感謝しております。どうもありがとうございます。よろしくお願いします。
 
司会(安藤紘平プログラミング・アドバイザー、以下・安藤PA):一昨日アメリカから帰って来られ、今はアメリカに住んでおられ、アメリカをメイにお仕事をされているんですよね。まず、この映画はどういうきっかけで撮ろうと思われましたか。
 
監督:たくさんの方々との出会いがきっかけで、お友達の明さんの話を聞いたりして。いつから始まったのかというと、4、5年前ぐらいになるのですが、あることがきっかけで熊篠さん(俳優)に5年前にお会いして、その時に障害者と性についてお話を聞きました。その流れで、女性の性というものはどういうものなのかなと、個人的にインタビューを始めたと形ですね。女性の命、そういうことをサポートする作品ができたらなと思いました。
 
安藤PA:実は以前にお会いした時にお聞きしていたのですが、出来上がってみると違っていた!明ちゃんはオーデションですか。
 
監督:もともとはとは下半身不随の女性についての脚本を書いていたのですが、お母さんがいて、漫画家を目指している女性のストーリー。女優さんが車いすに乗って演技するということが多いのですが、それでは私が作る映画の意味がないなと思ったので、実際に身体に障がいを持っている方と映画を作ることが第一条件だったので、一般でオーデションをさせていただきました。スタッフ3人と1000件ぐらいのメールをいろいろなグループに送ったり、Facebookにもオーデション情報を流して。佳山明ちゃんがそれを見つけて、応募してくれました。
 
安藤PA:明ちゃん、オーデションを受けようと思ったのはどういうお気持ちからですか。
 
佳山 明:うまく言葉にできないのですけど、今思うと何か見えてくるものがあったらいいなと。そんな感じです。
 
安藤PA:この映画のテーマと一緒ですよね。一歩新しい世界に踏み出してみようということでしょうか。
 
佳山 明:そうですね。
 
安藤PA:ですからこんなにもリアリティがあるんですね。神野さんとの親子ドキュメンタリーを撮っているようなリアリティがあって。映画自体はドキュメンタリーではないのに、フィクションであって、シェイクスピアで始まったりもして。神野さんはこういうケアのご経験はないんでしょう?
 

神野三鈴:ありませんが、監督の要望と私の願いが一致して、撮影前に明ちゃんと一緒に暮らせる時間を作っていただきました。この映画の中でとても大切だと思うことが、監督のおっしゃることが全部一緒で、とてもありがたくて、そんな贅沢な時間を取ってもらいました。また、それとは関係なくすぐに意気投合して。明は、本当に賢くて、面白くて、チャーミングな女性なので、喧嘩に近い言い合いもするし、夜中まで二人で女優論を語ったこともありますし。「女優なんだから泣き言を言うな」と言ったり、二人でいろいろなところに行ったり。
 
安藤PA:まるで二人が親子のような。あんなに愛していなければ束縛もできないというか。今もその感じが残っています。
 
神野三鈴:今もまだ残っていて、うるさいんですが。
 
安藤PA:大東君はいい役ですね。この映画に関わっていかがですか?
 
大東駿介:ありがたいですよね。僕はこの作品のお話をいただいたときのことを、今でもはっきりと覚えていて。このお話をいただく一年前にとある方の紹介でHIKARI監督とたまたま会っていて、その一年後に電話がきて。その時は大阪に向かう新幹線の中で、「こういう映画があるんだけど、どう?やってみない?」というお話をいただき、企画書も送ってもらいました。子供の頃、家の近くに障がい者センターがあって、障がい者の方と触れ合う機会が多かったのです。そのセンターの近くで大人になっていく中で、自分の心や人の心の見えない障がい、たとえば、今の時代では虐待、いじめ、差別といった心の障がいは、目に見えない分、恐ろしいなと感じていて。それをいつか作品で確かめたいというか、自分でもう少し深く知りたいなと考えていた時にちょうどHIKARIさんからお話をいただいたので、「ぜひ、やらせてください」と。自分の中では、運命的な出会いだったわけですね。
 
安藤PA:大東君が「心の障がい」って言ったけれども、僕らはみんな健常者のような顔をしているけれど、誰一人、健常者っていないでしょ。人間って不完全ですよね。見かけは健康で、歩いたり走ったりするけれど、心のどこかに、頭のどこかに障がいを持っていたりしますね、いろいろな形でね。
 
監督:私もいろいろなところ壊れていますから。
 
安藤PA:でもそれを、みんなで補い合って社会が成り立っているわけで。ただ、見かけで身障者と健常者と区分けして。さきほど神野さんがおっしゃっていましたが、どこかで壁を取り払えたらと、そういう部分がありますね。
 
監督:ですから、今回の話は、元々書いた時もそうだったんですけども、主人公の女の子は車いすに乗っているけれども、一人の女性が自立する映画、車いすに乗っていても乗ってなくてもストーリーとしては関係ないというイメージで書きましたね。私も自分で撮影しながら思ったんですけれども、やっぱり映画の中で明ちゃん演じる夢馬ちゃんが車いすを乗っていることを本当に忘れる。彼女のやりたいことは漫画家で自立したいということをやっぱりお客さんに観ていただいて、それで私なりに障がい者と健常者の壁がなくなればいいなというのはありました。
 
安藤PA:それではお客さまからの質問をお受けしましょう。
 
Q:双子の姉がタイで学校の先生をやっているという設定ですが、どのような意図でタイにしようと決めたんですか。
 
監督:今回の映画もそうだし、作る映画のほとんどは、いろいろな方にインタビューさせてもらって、やはり真実、実際どういうことが起こっているかということを、バックグラウンドとして書くのが私のやり方なんです。明ちゃんをキャスティングするときに、まず、明ちゃんに「合格をしましたよ」という前に、私も明ちゃんと仲良くなりたかったので、お家に行ってインタビューをさせてもらったときに、明ちゃんに双子のお姉ちゃんがいたことを知りまして。その時、私が最初に思ったこと、質問したことは、「お姉ちゃんも脳性麻痺なの?」ということです。そうしたら、「いや、お姉ちゃんは健常者です」と。「お姉ちゃんは何をしてるの?」「タイで学校の先生をやってます」「じゃ、タイに行こうか!」みたいな。まあ、それは冗談ですけれど。別にタイでなくてもよかったのですが、タイにはハリウッドのスタッフがよく行って撮影するので、すごく撮影がしやすいんですよね。最初はベトナムとか、どこに行こうかという話もしていたのですが。私も今回、長編映画が初めてということで、明ちゃんも今回初めてで、初・初コンビなんですね。私の演出としては、順番に映画を、彼女の成長を撮っていくと。彼女がどういう演技するかというのも全くわからなかった状態だったので、やはり明ちゃんが今まで生きてきた環境であったりとか、そういうところに近づけたらなという思いがあり、彼女のナチュナルな演技はそういうところから出てくるといいなという思いもありました。でもタイ料理も美味しかったしね。
 
神野三鈴:いいなぁ、行けなかった。
 
監督:お母さんはお家でお留守番でした。
 
Q:明ちゃんの感性を切り取ってスクリーンに映し出したという感じですか?
 
監督:そうですね。映画を作っているといろいろなことが起こるんですが、順撮りをしたのも、やはり彼女の成長、明ちゃんの成長を映画の中で一枚一枚描写できればいいなという思いがありました。
 
Q:すごく勇気をいただきました。神野さんもおっしゃっていましたけれども。昨日のLINEライブ、レッドカーペットのLINEライブの時にもおっしゃっていたんですけれども、監督の愛がすごかったと。キャストの皆さんもお話しされていたので、ぜひそういうエピソードをお聞きできたらと思います。
 
神野三鈴:愛が鬱陶しかった時があったでしょ?(会場笑)
 
監督:いいよ、はっきり言って(会場笑)
 
住山 明:愛、愛…
 
神野三鈴:感じなかった?
 
住山 明:愛って何でしょうか?
 
大東俊介:急に深い話になった、哲学的な。
 
住山明:って思ったりすると、うまくお答えできませんけれど、HIKARI監督はすごくパッションと温かさと…すごくなんて言うか、そんな感じです。(会場笑)情熱と温かさをこの過程でたくさん、たくさんいただいて、感じて。愛ってそんな感じなんでしょうか。皆さんどう思われますか?
 
安藤PA:どうですか。
 
Q:すごくスクリーンに表れていたと思います。
 
住山 明:ありがとうございます。
 
安藤PA:神野さん、付け足すことはありますか。
 
神野三鈴:もうこの作品を観ていただけたら監督の人に対する思いとかこの世界に対する思いとか、普通に生きているだけではやっぱり伝え切れない、自分の中でバランスが取れないくらい溢れてしまうものがあるから映画を撮っておられるのだと思うんですけど。それを作品から感じていただければ。きっと皆さんがそれを受け取ってくださるのかなと思います。いい質問をありがとう。
 
安藤PA:HIKARI監督のパッションっていうのは時に暴力的だったしね。(会場笑)
 
監督:ごめんね、明ちゃん
 
神野三鈴:情熱って何度も言ってたけど、言葉を選んでたね。(会場笑)
 
Q:2年前の戸田ひかる監督の『愛と法』(2017)という作品をご存じですか。戸田監督も大阪の人でロンドンに住んでいる。HIKARI監督も大阪の人でアメリカに住んでいる。日本の方たちが映画で取り上げない問題をHIKARI監督も戸田監督も取り上げたというのは偶然ですかね?
 
安藤PA:外にいると日本のことがよく見えるんですよね。
 
監督:そうですね。私も高校三年生の時に渡米して、ずっと向こうに行ったきりです。日本のことは大好きですし、素晴らしいこともたくさんある。でもやっぱり社会的な問題は、男女の差別やLGTBなどを含めて、日本ではニュースにもならないし、テレビの報道にもならないし、なっても一瞬で消えちゃうという、なんとも辛いものが海外にいると全部見えてしまうんですよね。「どうして、日本の人たちは知らないんだろう」、「え!こんなことも知らないの?」っていうことが、若い人たちにもお年を召された方にもあって。福島で何が起こっているとか、そういう細かいことも。やはり海外の人はそういうことが見えてしまうというか、私的にもそうなんですけれど。私は、おそらく戸田監督も、そういう題材の映画を撮っていかないとダメじゃないかと思っています。今書いている次回作の脚本も、今世界でケアできていないところがこのまま続くと、こんな将来になってしまうという設定の脚本です。でも、大阪の人っていうのはどうなんでしょうね。(会場笑)
 
大東駿介:僕も大阪なんですけれど、今はどうかわかりませんが、大阪人って人と人との関係に境界線みたいなのってあまりなくて、僕も学校が終わってお母さんが知らないおばちゃんと話しているから、「このおばちゃん誰?」って聞いたら、「いや、知らんねん!」というおばちゃんとずっと話していたりするんですよ。人と人との境界線があまり関係ない文化だったので、そういう大阪人が国境線を越えてしまうと、本当にいろいろな境界線を飛び越えちゃうのかもしれない。
 
神野三鈴:ラテンの血が入っているのかもしれない。
 
大東駿介:でもHIKARI監督の家族は皆さんこんな感じなので、遺伝子的に何かちょっとおかしいのかもしれない。(会場笑)
 

Q:タイでのロードムービー感がすごく良かったのですが、タイでお話をしているところ、和やかな夜の食事のシーンがありましたが、どのようなことをお話しされていたのかを聞かせください。
 
大東駿介:いや、タイの夜はひどかったですね。僕はタイでたくさん写真や動画を撮っていて、宿泊先が山の中にあるコテージみたいなところで、毎晩部屋に帰るとベッドの上にトカゲが何匹も寝ているみたいなそんなところだったんですけど、そこで宴会をしました。誰が一番はしゃいでいたかって、監督がずっと踊っているんです。たまに夜中に動画を見ていると、「この人、めちゃくちゃはしゃいでるやん」っていう。けれども、やはり監督の素敵なところは、オフの時にちゃんと気持ちを晴れやかにしてリセットするということをきっちりやっているところで、引きずらないというか。二人で手をつないで踊り狂っている写真や動画がいっぱいありましたね。
 
住山 明:楽しかったです。
 
Q:ここにいる女性観客を代表して大東さんに質問を。映画を観て、皆さんの人物関係は全て理解できるのですが、結構唐突なところがあるじゃないですか。優しい、イケメンの方がずっと手伝ってくれていますが、夢馬ちゃんに対してどういう気持ちでキャラクターとして接したのかな、ただの介護士だったのかな、どういった気持ちで彼女に接するキャラクターだったのかなということをお聞きしたいです。
 
大東駿介:実はですね、台本でいうと、全く違う台本だったんです。多分夢馬を取り囲む人たちの物語だったと思うんですけれど、撮れ高としてもそれぞれの物語がちゃんと撮れていたんですよね。だから完成した試写会の時に一番びっくりしたのは僕で、「あれ!あのシーンは⁉」みたいな。結果的に夢馬の成長物語として、僕はこの映画は最高に素晴らしい作品だと思うんですけど。さっきの話でいうと、僕は身体的に障がいがあることも本当に大変だと思うけれど、心の障がいというのは自分で気づかないし、人にも気づかれない、その恐怖ってすごくあるなって思っていて。台本上で、俊哉はそれを抱えている人間だったんです。過去にトラウマがあってそこから抜け出せず、卑屈になってそこから進めないのが、明ちゃんと出会ったことによって、彼女を応援するつもりが、いつの間にか背中を押されているという。実はそれまでに台本上のプロセスがあって、登場する通りすがりの人たちにも人生があるのは、他の役者さんもその背景を台本でもらって演じているからああなるので、とても贅沢に作品に参加させてもらったなという実感です。
 
安藤PA:最後に何か一言ありますか?
 
監督:2020年2月に劇場公開いたします。本当に口コミでたくさんの人に来ていただきたいので、みなさんにシェアしていただけたらいいなと思っております。日本以外はNetflix配信ですが、国内は劇場公開です。

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