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2019.11.01 [インタビュー]
コンペティション『ネヴィア』公式インタビュー

監督の少女期と俳優自身の要素も投影したリアリズム映画
ネヴィア
ネヴィア

©2019 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2019年10月29日
ヌンツィア・デ・ステファノ(監督)
ヴィルジニア・アピチェラ(女優)

 
ナポリ近郊の貧民街で暮らす17歳のネヴィアは、妹、祖母、叔母とともに違法な仕事で生計を立てていたが、サーカスがやってきたことから、彼女の人生は大きく変わっていく――。
『ゴモラ』などで知られるマッテオ・ガローネのよき協力者だったヌンツィア・デ・ステファノの初監督作品。
ヒロインに抜擢されたヴィルジニア・アピチェラの強烈な個性とリアリズムと、ファンタジーを融合させた監督の演出が、瑞々しい映像に結実している。
 
――この作品はいかにして生まれましたか?
ヌンツィア・デ・ステファノ監督(以下、ステファノ監督):偶然に近いですね。私の元の夫はマッテオ・ガローネで、11年間も一緒に映画の仕事をしてきました。だから映画を撮ることについては知識がありました。
ガローネに、「君も映画を撮ってみたらいい。自分自身の物語を描けばいいのだから」と言われました。そこで少女期の話を書いてみました。ガローネが気に入って製作を引き受けてくれたので、ここまで来ました。
ネヴィア
 
――このストーリーは監督の子供時代を反映しているのですか?
ステファノ監督:基本的にはこの映画は「教養小説」です。自伝的な要素はありますが、ある時点で自伝的部分から離れようと思いました。少女から大人になる、成長する女性の話です。
ヴィルジニアがネヴィアを演じることになって、ヴィルジニア自身が持っている要素も映画の中に入れ込みました。
 
――撮影中に内容が変わっていったのですね。
ステファノ監督:撮影現場に行って、脚本はちゃんとあるのですが、アドリブで作っていく感じでした。ヴィルジニアとはすでに一緒に仕事をしていたので、私の現場での仕事ぶりは分かっていましたが、他の俳優は驚いていました。せっかく台詞や会話を覚えてきたのに、いきなり「こういうシーンを撮ってみよう」というような言い方をされると、すごくびっくりしたようです。
だけど自分としては、映画の人物には俳優自身の要素が入っていなくてはならないと考えていたので、そのやり方を貫きました。
 
――映画の舞台は、監督が生まれ育ったところですか?
ステファノ監督:撮影したのは、ポンティチェッリというヴェスヴィオ山のふもとの場所です。私は、昔コンテナで生活をしていたことがあります。そのコンテナはもうないのですが、他のコンテナはあり、映画にも登場させました。
この地域に住む人たちは、社会から隔絶された環境で生きていて、子供たちは学校にも行けません。学校はナポリにはありますが、バスすら通っていないからです。そういう場所で撮りました。自分が育った場所そのものではありませんが、実際に存在する場所なのです。
 
――監督自身が、同じような環境でお育ちになったということですか?
ステファノ監督:育った環境そのものではありません。あえて脚本を捨てて撮影したのは、今、この場所で起きていること、人々がどんな生活をしているかを映像に焼きつけたかったからです。自分の体験ではありませんが、本当に起きていることです。
 
――映画でヒロインの希望の象徴となるサーカスは、監督にとっても特別なものですか?
ステファノ監督:実際にサーカスで働いていたこともあって、とてもいい思い出があります。働くことに対する考え方や家族というものの持つ意味をサーカスで学びました。23歳から7年間働いていました。
サーカスを辞めたのは、母が肝臓の移植手術をすることになったからです。6年間、母の面倒を見ました。うちは子供が11人いて私は末っ子ですが、いちばんタフだったので、母の世話をしました。
 
――ヴィルジニア・アピチェラを抜擢した理由を伺います。
ステファノ監督:キャスティングに時間をかけて、プロも見たし、舞台の役者も見たし、少年院でも探しましたが、私のネヴィアは見つかりませんでした。ネヴィアは純粋さと力強さの両方を持っている人間です。
キャスティングディレクターに、「どんなことをしてでも探して。舞台や学校の発表会も見てきて」と言いました。そうしたら、エアリアル・シルクを演じているヴィルジニアを見つけてきたのです。キャスティングディレクターが、ビデオと写真を私に送ってくれました。それを見たとたん、「彼女しかいない」と思いました。
ネヴィア
 
――映画に出るという誘いを聞いて、どういう反応をしたのですか?
ヴィルジニア・アピチェラ(以下、アピチェラ):夢のような感じがしました。自分が役者になるなんて、考えたこともありませんでしたし、自分自身が投影される映画ということで、新しい世界が開けたような印象を受けました。
ネヴィア
 
――監督の演出は厳しくなかったですか?
アピチェラ:この映画は本当に特別だと思います。監督は魔術を使うように、撮影隊全員がひとつにまとめました。この映画は時系列順に撮ったので、ネヴィアの成長とともに、自分も成長していく。ネヴィアの人生を生きている感覚で仕事ができました。
 
――ところで、監督は演出方法をどのようにして身に着けたのですか?
ステファノ監督:実際にはガローネと出会って、『ゴモラ』を撮ったときからですね。ガローネも撮影1週間前に衣装も脚本も全部変えて、全然違う撮り方を始めたのです。
自分の演出にもその影響はあると思います。私はイタリアでは、“ガローネのミューズ(女神)”と呼ばれているのです。
 
――『ゴモラ』にはどう関わったのですか。
ステファノ監督:ガローネが『ゴモラ』を撮った時、私の仕事があったわけではないのです。キャスティングをする時に、友達についていったのです。部屋に役者の写真が並んでいて、その写真を見ながら、衣装や雰囲気など、昔のカモッラ(イタリア・ナポリの犯罪組織)みたいでおかしいとダメ出しをしていたら、ガローネが聞いていたのです。
私は映画の舞台のスカンピア出身で、犯罪者やその生活ぶりも知っていました。するとガローネが、「どこがおかしい? 今のカモッラの人間たちはどんな風なのか教えてくれ」と頼んできました。結局、ガローネは脚本を全部捨て、まったく違う映画を撮ることになりました。彼は、毎日撮影しては、「このシーンはいいだろうか?」と相談し、私はコンサルタントのように手伝いをしました。以来、11年。最新作の『ドッグマン』でも協力しています。
 
――アイデアのダメ出しをするわけですか。
ステファノ監督:ガローネの別の目のようなものですね。私の提言は聞いてくれます。この映画のプロデューサーをガローネがやっていますが、彼は一度もセットに来なかったし、何も口出ししませんでしたけれど(笑)。
 
インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
ネヴィラ
ネヴィア
©ARCHIMEDE 2019

監督:ヌンツィア・デ・ステファノ
キャスト:ヴィルジニア・アピチェラ、ピエトラ・モンテコルヴィーノ、ロージ ・フランチェーゼ

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