ハイロ・ブスタマンテ監督
第32回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されたグアテマラ・フランスの合作映画『
ラ・ヨローナ伝説』が10月31日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、メガホンをとったハイロ・ブスタマンテ監督が会見を行った。
夫の横暴により子を殺して入水自殺した母親が、神に罰せられて泣きながら現世をさまよっているという中南米の怪談「ラ・ヨローナ」伝説を取り入れ、虐げられる女性たちの復讐を描く。グアテマラの武力衝突から30年後、大量虐殺を指示した退役司令官エンリケの裁判が開かれた。ある夜、女の泣き声を耳にするエンリケ。やがて、新たに雇われた家政婦アルマの狙いが明らかになっていく。
初監督作「火の山のマリア」で第65回ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞しているブスタマンテ監督。第2作「Temblores(原題)」を含め、3作の共通テーマは“侮辱”だという。「『火の山のマリア』は、グアテマラの75%の比率を占めるマヤの人々、前作『Temblores(原題)』はゲイの方々、今作では人権、社会的な権利に関する“共産主義”。人権を受け入れると権力者たちの権威が失墜し、それが大量虐殺へと繋がっていく」と告白した。
グアテマラでは長年の内戦によって25万人が死亡し、1981~83年に至っては毎月3000人が殺害された。この実情を表しながら「ラ・ヨローナ」伝説と絡めた理由は「グアテマラの社会を見ると、3世代の人種がいることがわかります。エンリケは最初の世代の人物になるのですが、彼らは人に共感する心を持っていないと思っています。国を守るために人を殺さなければならない。そういう考え方を持っているので、最後まで自身が最高のヒーローだと信じているんです。そうなると“他の世界”から精神的なものを貰わないと反応ができない。(『ラ・ヨローナ』の存在によって)その点を示したいと思ったんです」と打ち明けた。
さらに「10年以上前から『あれは大量虐殺だったのか?』と判断するプロセスが進んでいる。一旦『大量虐殺だった』と認めた後、最高裁で『大量虐殺ではない。事実かどうかわからない』と変わってしまった。そして、また最初から検証をやり直す。そういうことが続いているんです。これが製作の取っ掛かりでもあります」と説明。虐殺の被害者たちに話を聞いた際に「殺されたのではなく“ラ・ヨローナ”に連れていかれたという声もあった。正義のないところでは、人はその他の形での正義の示し方を探していくもの。“ラ・ヨローナ”が、カルマのような存在として事態を収めていくということにしたんです」と語っていた。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。