来日したアントワネット・ハダオネ監督
第32回東京国際映画祭の「CROSSCUT ASIA #06 ファンタスティック!東南アジア」に出品されたフィリピン映画『
リリア・カンタペイ、神出鬼没』が10月29日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、来日したアントワネット・ハダオネ監督が観客とのQ&Aに応じた。
映画は「フィリピン・ホラーの女王」の異名を持つ女優リリア・カンタペイが実名で主演を務め、フィリピンのホラー業界の内幕をユーモアとペーソスをちりばめながら描いたモキュメンタリー。30年間の端役人生を経て初めて映画賞にノミネートされた老女優リリア・カンタペイは、受賞スピーチを考えて落ち着かない。家族や友人がテレビの前に集まる中、ついに授賞式が始まる。
ハダオネ監督が、プロダクションアシスタントとして働いていた頃に今作のアイデアが沸いたと明かす。「私はエキストラたちを統制していて、スターとエキストラの扱いの違いを目の当たりにしました。しかし、名もなき俳優たちが映画やテレビを支えている。ホラー映画で顔は知られているけど、名前を知られていない彼女が私の作る映画にふさわしいと思ったのです」と説明した。
現在のハダオネ監督は、大手スタジオでトップスターを起用した、フィリピンのブロックバスター映画を製作するヒットメイカーとして知られる存在だ。キャリア初期の作品でもある今作について「この作品は8年前につくった映画で、予算はたったの8万ペソです。友人たちと情熱を込めて作った作品です。振り返っても、エキストラの境遇は非常に今日的だと思います」と今作のテーマについて語る。
そして今作のラストシーンに触れ、「私の考えはスターがエキストラの存在を認識し、光を分け与えるべきと思ったのです。この映画の後、彼女は主演女優賞も獲りましたが、受賞に驚きすぎ、事前のスピーチの用意も忘れ、お礼を言う人の名前を言うことができなかったのです。その後のテレビのインタビューで、ひとりずつ名前を挙げていました。彼女は3年前に亡くなりました。その前に主演女優賞をもらえ、世に認識されてよかったと思っています」と振り返った。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。