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2019.10.23 [インタビュー]
たいていの人間はみっともないし、しょうもない。それを普通に描けば喜劇になる:足立 紳監督『喜劇 愛妻物語』公式インタビュー

足立紳監督公式インタビュー

©2019 TIFF

 
『百円の恋』や『嘘八百』(両作品とも武正晴監督)などの脚本で知られる足立紳が、自身の小説をもとに映画化したコメディである。
売れない脚本家がうだつの上がらない日々のなかで、殆ど愛想を尽かされている妻との仲を改善しようと努めるストーリー。妻の罵倒に耐えつつ、したたかに生きる姿がユーモラスに綴られる。
主演には濱田岳が起用され、監督そのままのキャラクターを好演。妻役の水川あさみと丁々発止の会話が笑いを誘う。
 
――まず、この作品が実現するに至った経緯から伺います。
足立紳監督(以下、足立):プロット自体は、8年ぐらい前に書いていました。まったく仕事がなかった頃に、香川県の映画祭でプロットのコンペがあると、妻が教えてくれたのです。
「県内を舞台にしたものであれば何でもいいって募集しているから、あんた出してみたら? 仕事もないし」と言われました。
香川に行ったことがなかったので、妻がやりくりして三泊四日の家族旅行となりました。
 
――本作と同じ展開ですね。
足立:妻と小さい娘と三人で行き、何も題材を見つけることもできずに、映画みたいにひたすら夫婦喧嘩の旅でした。戻ってきて、行ったからには応募しろと言われ、「うどん少女」というフィクションくらいは織り込んだかもしれませんが、ほぼその旅をそのままプロットにして送りました。
応募総数が50数本で、一次審査すら通過せずに終わりました。それでこれはよほどダメなプロットなのだなと思ってほったらかしにしていたのですが、その数年後に少しは仕事ができるようになっていたときに、出版社の人から「小説書く気はありませんか?」という連絡がきたのです。
 
――最初は小説だったのですね。
足立:小説なんて考えたこともないと応えたら、「映画化を狙ってボツになった企画でもいいので、見せてください」と言われました。
いくつかお見せした企画のなかでこのストーリーが気に入られ、小説として成立したのです。すると、小説を読んでくれたプロデューサーからも映画にしてみませんかと言われ、企画が始まりました。
 
――脚本として映画に参加されるケースが多いのですが、なぜこの作品は自分で監督しようと思われたのでしょうか?
足立:もともと助監督からスタートしたように、監督志望でした。だから、どんな脚本も監督するならこうするという想像はしながら書いています。
この脚本は自分自身の話なので、自分で撮るのが一番いいと思っていました。
 
――これまでコンビを組んできた武正晴監督が頭に浮かぶことはありませんでしたか。
足立:武さんも、小説の時から面白がってくれましたが、映画にするなら足立が撮るのが一番いいと後押ししてくれました。
 
――映像化していくなかで、どこまでリアルにご自身を反映させましたか。
足立:正直な方がいいと思っていました。隠したい感情も描かないと、やる意味もないと考えて臨みました。
自分自身に嘘をつかないように、ということだけを意識した感じです一一とはいえ、だいぶカッコつけて自分を良い人間に見せるような嘘もついていますけどね(笑)
 
うちの奥さんと、水川あさみさんは外見は全く違うのに、しぐさなど、錯覚するくらい似ているところがありました(笑)
足立紳監督公式インタビュー
 
――キャスティングで、濱田さんと水川さんに決められた理由を教えてください。
足立:ああいうグータラな主人公は、観ている人が嫌悪感を抱かないことが必須なので、愛嬌のある濱田さんにやっていただけたらなと思っていました。それは狙い通りでした。
水川さんは昔から好きで、映画とかドラマばかりでなく、バラエティ番組で素の部分を見せる姿に興味を惹かれて、水川さんがこの役をやれば、はまるという確信はありました。
 
――映画の奥さんと実際の奥さんとは、どれくらい似ていますか。
足立:外見や容姿は全然違うのに撮影中に、一瞬、錯覚するくらい似ていました。もしかしたら無意識のうちにどんどん近づけたのかもしれないですね。例えば怒ったあとにふと笑うなどの小さなしぐさとか。
妻と一緒にいる時間は当然長いので、そうなってしまったのかもしれません。武監督も現場に来て、キャストの方々に「足立の家はこうだ」みたいなことを話したりしていました。
 
――どのくらいの日数で撮影されましたか。
足立:三週間ですね。前の監督作は二週間でしたが、一週間長いと少しゆとりを持って撮ることは出来ました。
悩んだのは、8年くらい前に書いたプロットなので、今の時代をどう織り込むかどうかでした。今回は世間の片隅で生きている夫婦のわずか三泊四日ほどのお話なので夫婦の話に絞りこんで、世相みたいなものを、入れ込むのはやめようと決めました。
 
――今回、東京国際映画祭で出品され、どのような思いを抱かれていますか?
足立:すでに脚本作を三本、監督作も一本、扱っていただいているので、ご縁を感じています。今回は、なにより喜劇でコンペ作品に選ばれたことがとても嬉しいですね。
 
――脚本作も含めて、喜劇に対する特別な思いをお持ちになっていますね。
足立:よほどの過酷な状況に置かれている人は別ですが、普通に暮らしている人間を普通に描けば、ほぼ喜劇になると考えています。
人に笑ってもらえる映画を作りたいという思いはすごく強いのですが、基本的に人間はみっともないし、しょうもないし、器もちっちゃい。みんなこの夫婦と変わらない気がしています。
 
――今後は脚本と、監督を並行していかれますか。
足立:チャンスがあれば、また監督に挑みたいと思います。書きためている台本もありますし、別に他人(ひと)の脚本でも、面白ければなんでもいいと思います。そこにこだわりはありません。
でも、もちろん、脚本もどんどん書いていきたいと考えてはいます。小説は「あの夫婦のことを書きませんか」と、別な出版社が言ってくれて新作を書きましたし、面白がってくれる人がいると勇気づけられました。
 
――この設定はシリーズになりますね。
足立:この映画が大ヒットしたら、そういうこともできるかもしれません(笑)。小説ではすでにシリーズみたいな感じで書いていいますし、ネタはいくらでもありますね。
タイトルの「喜劇 愛妻物語」は、新藤兼人監督が撮った『愛妻物語』に倣いました。
 

2019/9/26
インタビュー/構成:稲田隆紀(映画評論家)

 


 
第32回東京国際映画祭 コンペティション部門出品作品
喜劇 愛妻物語
喜劇 愛妻物語

©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

監督:足立 紳
キャスト: 濱田 岳、水川あさみ、新津ちせ
上映日:
11/29 [TUE] 18:00-
11/01 [FRI] 10:00-

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